「悪いとは思ったがここ数日の監視カメラデータを見た」

 そこには寝ながら徘徊するキラの姿がばっちり映っていた。左腕に枕を抱え、とてとてとした足取りで廊下を移動し、いくつもの部屋を回る。しかし、ロックを外せる部屋と外せない部屋があるようで、キラの部屋から一番近い<ロックを外せる部屋>が、イザークの部屋というわけだ。そのことをイザークは隠すことなく話す。





「本当に覚えていないのか?」

 肩を抱かれたままキラはこくんと頷いた。


「そんなこと言われても分かんないんだ。ただ…気が付いたら……」

 ラクスは言っていた。その時のキラは8割以上眠っていて、本当に自覚がない…と。


「何故ラクスじゃダメなんだ?」

 イザークの質問は決して性急ではなく。淡々と、子どもを諭すように続く。



「分かんない。ラクスだと安心のハズなのに…。ラクスの部屋だと、絶対にアスラン来ないんだ。判ってるのに………」

 アスラン、の名前を聞いてイザークの鼓動はどくんと跳ね上がる。決着の付かないライバル、そしてディアッカの批評<アイツさぁ、キラにだけ変態的に固執するんだよ>。初めは聞いてもウソだとせせら笑っていた。あの分厚い氷河のように自分の感情を見せない男のどこにそんな感情があるのかと。



「アイツを…今でもアスランのことが好きか?」





主な夫と書いて主夫!しゅふ!

第10話   ライバルを蹴落とせ作戦臨時会議室





 キラと恋人同士………というのは関係者なら誰でも知っている普遍的な噂だ。キラはしばらく真剣そうにう〜〜〜〜〜んと唸って、そしてゆっくり答えた。


「今でも好きかと言われたら、そうなのかも知れないけど………。けど……僕もう疲れちゃったから、だからプラントに逃げてきたんだよね…」

 キラがプラントで仕事をしている。そのことはオーブにいるアスランには極秘だ。



「だがお前は無意識に温もりを求めてる。何故だ?」


「僕ね、アスランと本格的に再会してから一人で寝たこと無いんだ」

 あの激動の戦争中。時期は連合のオーブ侵攻戦、その辺りだろう。



「最初は嬉しかったよ。だって月で別れてから色んな事がありすぎて…ずっとずっと会いたかったから。けど…再会したアスランはもう僕の知ってる彼じゃなかった」


 <もう二度とお前の手を離すもんか!>

 その言葉をアスランは忠実すぎるくらいに実行した。極限の環境の中、思春期も相まってそれはすぐにソウイウ事態になる。けれどアスランが夢中になればなるほど、次第にキラの心は離れていった。


 <飽きた><鬱陶しい>そして<離れたい>


 ところが逃げれば逃げるほどアスランはしつこく追い回し、キラの無意識に変化をもたらした。イザークはやっと理解する。彼女はアスランとの関係をやり直そうとして距離と時間を置こうとしているのだ、と。

 だから………。





判った!俺が責任を持って匿ってやる」

「本当?」


 瞬間的に顔を上げ、相手を見上げるその表情は反則だ。

「お前の話を聞くまでもない。今のアイツはどう考えてもタダの変態だ」


「そうなんだよ!おかしいと思わない?幼馴染みなんだから、よく考えたら別れてたのってたった3年だよ?プラントでナニ吹き込まれたか分かんないけどさ、やっとちゃんと話せるって思ったときには、もう変態全開だったんだ」



 イザークはここに来てやっと、自分の中のアスラン像が崩壊し、キラの話とラクスの話とディアッカの話が符合し始めてきた。

「俺の中の対等なライバルとしてのアイツは、もうこの世からは滅びたらしいことがよぉお〜く判った」


「あの変態と比べたら、イザークの方が何万倍も紳士だよぉ」

 だってこれだけ機会があるのに知らないうちに手を出してこなかったのだから、とからかえば、イザークに軽くこぶしで殴られた。



「匿ってやるからお前も演技くらいしろ。ついでに男がいないと寝付けない病のケアもしてやる」

「………は?演、技???」



「ZAFTだからって男は軒並み紳士ではないぞ!危ない目に遭いたくなかったら俺と付き合ってるふりをしてろ」

 キラはふわりと微笑んでイザークと手を組んだ。

いいわけ:アスランは変態で合意…と。
次回予告:悪魔の荷担



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