屈辱のパスワードに変えてから、晴れて安眠できる日々を迎えていたイザーク・ジュールは、この日ピンクの髪の女帝の口から出てきた言葉に、二の句を失った。 「………。あの、お判りになりまして?」 「……………。理解も納得もしたくありません。どうしてそういう話になるんですか?私の安眠はどうなるのですラクス嬢」 |
主な夫と書いて主夫!しゅふ! 第8話 密告という名の通報 |
「どうもこうも、そのままキラと眠れば良いのですわ?彼女は寝相は悪くないし、抱き心地はとても良いでしょう?」 「……………ちょッ!!ラクス嬢………!!?」 「それに、ちょっとぐらい身体に触れても文句は言いませんし」 当たり前の青年なら真っ赤になって当然だ。特にイザークの場合は肌と髪の色の関係で、顔が赤くなればそれは見事なコントラストを見せる。 「どうして一人で寝させるわけにはいかないんですか?」 「それが出来たらこんな大騒ぎにはなっていませんわ」 「でしたら、あなたと寝れば良いではありませんか」 そうだ。女の子同士なら問題はないはずだ。イザークのみならず誰しも考える選択肢であろう。ところが、ラクスはとても悲しそうに泣きながら溜息をつくばかり。 「それが出来たらここまで苦労はしていません。わたくしも何度も何度も、キラに了承を得てしつこいくらいに試したのですけれど………」 そう、念願叶ってのキラと同衾は………ものの見事にキラの睡眠不足を引き起こすだけだった。眠れない時間と戦い、浅い睡眠ばかりを繰り返す。当然あまり眠れないままの彼女を起こすことになる。 昼間に半分寝ながらタイピングをしているキラを見て、ラクスは泣く泣くキラとの愛の同衾(※ラクス私感)を諦めたのだった。 「しかし彼女とて最初からこうではなかったはずだ。一体何故です!?」 イザークの問いにラクスの目が細くなった。 「それもこれも全っ部、アスランが悪いのです!」 「何!!?」 イザークの眼光もきつくなった。ラクスは説明する。 話は最初の大戦の時に遡る。戦場での思わぬ再会、そして、想い合いながらも互いに敵対する苦渋。それはアスランにある決意をもたらす。 <もう何があっても、絶対にキラと離れるものか!!!!!> オーブでの戦いより行動を共にするようになった二人は、自然の流れのままに恋人同士になり、四六時中一緒にいるようになった。ところがアスランの構い過ぎはキラにある心の変化を促した。 そう、<鬱陶しい> 反動が出たかのように、睡眠だろうが食事だろうが着替えだろうが、はたまたシャワーだろうが、とにかくびたぁ〜〜〜〜〜っと貼り付くアスランに、先に辟易したのはキラだった。いくら恋人同士だからといっても、お互いある程度の距離やプライバシーというものが必要だと感じたキラは、当然アスランのしつこさから逃げ出す。 まぁ、お約束のように逃げられれば追いかけてしまうのは男の本能というものか。戦争が終局になる頃には、AA内での鬼ごっこはもはや日常の風景と化していた。しかし、それでもアスランは執念でキラとの就寝をもぎ取っていた。 「ラクスどうしよう。アスランがカガリに引きずられてアーモリーに行っちゃったのは嬉しいんだけど、目が冴えちゃってまた不眠症になっちゃったみたい………」 それは2度目の大戦のきっかけ。ラッキーで繋がったプラントとオーブの通信で、ラクスはキラに泣かれた。その後アスランがまたAAに合流したので、キラの不眠症だけは解決したが……………結局関係は元に戻ったらしい。 「わたくしの愛する愛するキラを、アスランになら任せられると思って返したのがバカでした」 「ラクス嬢……」 「可哀想なキラ。バカスランのせいで、キラは殿方の添い寝がなければ寝付けなくなってしまったのです」 ぅわぁあああ〜〜〜ん、とラクスは執務机に突っ伏して泣く。どうして自分ではダメなのか!どうして自分は男に生まれてこなかったのだろう!裏切り者のアスラン!ちゃんと彼女の状態も説明したのに!!! 二人の姿はイザークの心を動かした。 |
いいわけ:ラクスの涙は半分本気半分演技。だって女帝ですものw
次回予告:整えられた戦略、張られた罠、そして飛んで火に入る夏の虫
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