その日も宿舎内をラクスと選んだ可愛らしいパジャマに身を包み、少し大きめのふかふかの枕を左腕に抱えてキラはとぼとぼと歩く。行き先は特には決まっていなくて、この日も適当に歩いた先にある、適当な扉の前でぴたっと止まった。けれどもドアにはロックがかけてあり、本来なら正当な住人以外の入室は不可能のハズであった。 だがその辺は天下のキラ・ヤマト。寝たまま右手の指だけでロックを外し、士官室の中にほてほてと入る。中の正当な住人が安心して寝息を立てているベッドに、同じように枕を置いて、当たり前のように上掛けの中に潜り込んだ。そして、数多の男達が被害に遭ってきた事件の毒牙は、また別の男に向いた。 |
主な夫と書いて主夫!しゅふ! 第7話 彼女の事情2 |
早朝4時41分、男は目の前の光景に固まる。だが、この日ばかりは絶叫は起こらなかった。男が目の前の現実を瞬時に理解したから………ではない。唖然として本当に声が出なかったからだ。何度試してみても思うように声が出せない状況に焦った男は、キラの肩をむんずと掴み、容赦なく揺すって起こす作戦に出た。 「ん〜〜やだ…ぁ。やぁあ〜……っ、気持、ち悪い………よ〜ぉ………」 「と………とにかく起きてくれ!目を覚ましてくれ!」 「も…ちょっとぉ……。いま、なん…じ………?」 「4時50分だ」 相手の質問に律儀に答える男。それが事件に余計な時間を費やすことになる。 「じゃ、まだねる…ぅ……」 「寝るじゃないだろ!起きろ!自分の部屋へ帰れキラ!」 「……ん〜………やぁ……いい、ここで……………」 さらにぎゅっとしがみついてくるキラに男は限界を感じたらしい。幸せそうに眠りに入るキラを完全に無視して上掛けを剥ぐと、サッサと彼女を姫抱きにして士官室を出る。人気の少ない早朝の宿舎通路をズンズンと歩き、彼女の本来の部屋のベッドに寝かせて帰った。 けれどもどんなに部屋のロックセキュリティーワードを変えても、朝になるとキラは幸せそうにしがみついて眠っていた。 ……………ということが5日ほど続いた頃、ZAFTに遂にまことしやかな噂が蔓延した。一番に当人に確認に来たのはやはりなじみの深いディアッカ。 「お前……キラと付き合ってんの???」 ディアッカには理解できない。キラの二股の理由が。 「……………ハァ!!!!!???」 男にも理解できない。最近頻繁に報告される怪事件とZAFT中に広まっているという奇妙な噂が。 人通りの多い建物内ロビーでは話しにくく、二人は馴染んだ執務室に行き人払いをした。 「俺がキラと交際してるって、どういう事だディアッカ!冗談も休み休み言えよ」 「冗談じゃ済まされないと思うから聞いてんだろ?もう、すんごい噂でさ」 −ヤマト隊長の恋人探しはジュール隊長で決着。ゴールイン秒読み確実− だから、何故そうなるのかイザークにはちんぷんかんぷんだ。彼は毎夜いつの間にかやってくるキラを彼女の部屋に追い返しているだけなのだから。 「通い婚だって言ってるヤツもいる。ま…言いたい放題なんだろうけど?」 「追い返してるだけだ!」 キラが爆睡していて目を覚まさないから、仕方なく姫抱きにして運んでいるだけで。 「キラのヤツがお前んとこに行ってるのを見たヤツがいる」 「俺だって寝てる!大体パスをどう変えても解除して来るんだ。仕方ないだろ」 他人から見ればそれは勘違いをさせるには、充分条件が整っているわけで。 「連日続いてるんだから、そ〜りゃ深い仲なんだろうってさ」 「勘違いだ!」 イザークはシンみたいに絶叫して取り乱したりせず、冷静に判断して適切に事態を処理してただけだ。それがまずかったらしい。結果的に予想は確信に変わり、そしていつしか噂になり広まった後だ。 というわけでさすがのイザークも、遂にキラ撃退パスワードを悪友から教わり……怒りにこぶしを震わせたものの、結局有効だったようでそのパスに変えた。 その日からキラは来なくなった………のは良いが、すべての男性士官の部屋のロックが開けられなくなり、夜眠れなくなったキラは睡眠不足に陥り→仕事に支障が出始め→ラクスの耳に入り→彼女にため息を付かせた。 「可哀想なキラ。やはりアスランがいないと眠ることすら出来ないのですね……」 |
いいわけ:フラグです。ええ、フラグです(キッパリ)
次回予告:密告という名の通報
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