キラがプラントで完全にラクスのオモチャになっている原因を作った男は、オーブで月夜を見上げながら吠えていた。

 近所迷惑だから止めてくれ、と苦情が来ていると告げられたところで、そんな些末なことはちっともアスランの心に響くことはなく。



「何故だ!キラ!!!何が気に入らないんだぁっ!」


「うるさーーーーーーーいッ!!!!!」
「夜中に吠えるな」
「寝させてくれぇ!!!」




 そんなことが続いた結果、遂にオーブという国は国民の心情の安寧と、近隣住民の安眠の為に、公費をつぎ込んでアスランの住んでいる部屋に防音処置を施さねばならない事態となった。この費用は全額すぐに求償するからな、とカガリに宣告されてもアスランはうわのそらだ。



「キラ!俺は今も現在進行形でお前を溺愛しているんだ」

「何故…何故もう少し待ってくれなかったんだ!最初は判らなくて戸惑うかも知れないけど、完璧に覚えてみせるって言ったじゃないか…ッ!くぅッッ」



 何が?????





主な夫と書いて主夫!しゅふ!

第5話   彼氏の事情





 アスランは涙を浮かべながら指折り数える。


「洗濯、掃除、炊事、ベッドメイキング、ワイドショーの情報収集から快適な住環境の整備、買い物、送り迎え、公的書類の提出、保険の契約、子守やゴミ出しから町内会の庶務まで!覚えることは沢山あるけど、大丈夫だって言ったじゃないか!」



 久しぶりに友人を訪ねてきたものの、周囲のことなんざアウト・オブ・論外のアスランの姿に、部屋の入り口でミリアリアは腕組みをしながら呆れ果てていた。

 チャイムを押したところで、ドアを蹴ったところでアスランが気付かなかった為、ミリアリアは開いていたドアから勝手に入った。リビングのドアを開けた瞬間からこの醜態が彼女の目に飛び込んできたのだ。


(コレがZAFTの元トップガン………?)



 今、彼女の瞳に映るアスラン・ザラは、4種ものMSを乗りこなし、戦争の終結に多大な貢献をした英雄の姿からは、まるで対極の位置にいた。



「どうするのよコレ……キラぁ…」

 だがそこは天下のアスラン・ザラ。ミリアリアがぼそりとこぼした蚊の鳴くような独り言であろうが、<キラ>の名前に俊敏に反応していた。


「キラ!?キラ!!?どこだ?帰ってきてくれたのか?どこにいるんだッ」

「ナニ悲劇のヒーローしてんのよ!あたしの独り言よ」


「あ………なんだ、ミリアリア………ハゥ!?…」



「何だじゃないわよ。オーブに帰るなり何なの?この大量破壊的劇的迷惑行為は!キラはどうしちゃったのよ!?」


 その瞬間、アスランは顔をくしゃりと歪ませ、ぶわっと大量の涙をこぼしながらミリアリアに情けない姿ですがりついた。



「なぁキラの行方を知らないか?アイツ何にも告げずに出ていったんだよ!この俺を残してっ。キラのために、せっかく腕によりをかけて晩ご飯も作ってたのに…」

 ミリアリアが今のアスランの姿を見る限り、<たとえ自分が彼女であっても確実にサヨウナラ>と判断する。イロイロとつきあいも長く知りすぎているだけに、キラの気持ちもよく解った。



「やっと…戦争が終わって、戦後処理も一息ついて………これからずっと二人でいられるって話をしてたんだ」

 ふむふむ。


「戦争で奪われた分もちゃんと青春しようって、いや並の恋人以上でいようって、二人で誓い合った」

 ん?あの状態のキラが誓い合ってくれたかどうかは、チョと疑問が残る。


「でも、今のオーブにはどうしてもキラの力が必要で……、だったら二人で助け合えばいいって話したらキラも喜んでくれた」

 スミマセン、そこ……頭を捻ってもイイデスカ?



「アイツは今オーブの准将として忙しい日を送っている。けどそれでもちゃんと結婚だけはしておきたくてプロポーズした。喜んでくれると思ったのに………」



 やっぱり、嫌な予感は当たりそうだ。

「ちなみになんて言ったの?」


「普通だよ?キラ、俺と結婚してくれ。俺が、俺が主夫になるから家のことは心配しないで良い。家事、育児から介護までちゃんとやるから!って。普通喜ぶだろ!?」



 ミリアリアはアスランの顎をげんこつで容赦なく殴り上げた。

「話がぶっ飛び過ぎよ!!!」

いいわけ:心はオトメなアスランはお好きですか(笑)
次回予告:彼女の事情1



お読みいただきありがとうございました。ブラウザバックでお戻り下さい。