キラがイザークに本心をうち明けている5分ほど前。ラクスの隣で楽しそうに話しながら食べていたカガリの表情に変化が見られた。 「どうされました?」 「え?あ…いや………それで、どこまでだったっけ?」 「まvわたくしとのお話もそぞろでしたのね」 ラクスは、ニヤニヤしていた。 「ラクス〜、セリフと表情と態度がバラバラだ」 「そうですか?わたくしはこの夕食会をとても楽しんでおりますのに」 「楽しんでいると言うより、何かを企んでいるようにしか見えないから、そういう顔止めた方がいいぞぉ」 「ふふ…では正直に申し上げますわ。カガリさんの瞳には誰が映っているのでしょうか?」 「誰って…?ラクスじゃないか」 そう、ラクスと面と向かって喋っているのだから。しかしラクスの思惑はそこにはない。 「その視線の先にはわたくしなどの顔より、白皙の美貌が映っているように見えましたので…」 白皙の美貌、言わずと知れた人物だ。 「うぅうっ映ってないっ!だってずっとキラと喋ってるじゃないか!それに……」 それに。キラのプラントでの仕事が終了するまでは、イザークはキラの恋人(のふり)で、今はまだ二人の仲の協力者でなければならない。 このレストランに入る直前のイザークのモーションを思い出して、カガリの頬は知らず朱に染まった。食器を持っていない左手が自然に動き、指がくちびるに触れる。世界が眩しく見えてよく覚えてはいないが、そこは確かに彼の唇がそっと重なった場所…。 「それに?」 ラクスは、意地悪だ。 「やっぱりキラとすっごい仲良さそうだ…」 これじゃあやっぱり…とZAFTの職員が思い込んでも仕方の無いほどの仲むつまじさを、隠すことなく見せている二人。 現実の会話などそうそう聞こえるものではない。じっさいアスランがどうのこうのと言っていても、その会話が聞こえないカガリからは、ハッキリ言ってイチャイチャしているように見えるのである。 「面白くないのですね、浮気をされているようで」 「ちょっ!ラクス!うぅっ浮気って!!!」 そう来ればラクスはもう面白そうにくすくす笑うだけ。 「い…妹が、誰かと仲良くしてるのを見るのは嬉しいもんなんだ…ぞ……」 ナチュラルとコーディネイターが混在する環境で育ち、戦争という皮肉な環境下でナチュラルに囲まれ、そしてまた両者が混在するオーブ本国に帰ってきたキラ。人々の移動制限が少しずつ解除されているとはいえ、ほぼコーディネイターだけが住んでいるプラントでちゃんとやれているかどうか、確かに心配だった。 けれど、今カガリの視界に映るキラは楽しそうで、姉がハラハラドキドキしていることなど全く知らないみたいだ。 |
主な夫と書いて主夫!しゅふ! 第38話 キラと仕事と立場とストーカー |
「大丈夫ですよ。もう少しでプラントでのキラの仕事は終わります。そうすれば堂々とキラはオーブに帰れますわ」 そうだ。キラは国という枠組みを遥かに超えた、人類の宝であり平和の切り札なのだから。 ラクスは政治の話題をさらに続ける。 「このタイミングでカガリさんがプラントとの折衝に来てくださって、本当に助かっていますのよ。キラはわたくしがオーブの友人を招聘して自宅に泊まっていただき、国家の要人としてカガリさんと一緒に安全にお見送りするだけ」 「手間を取らせて、すまなかったと思っている」 「プラントでちょっとしたアルバイトをしたことは、個人的なことですわ」 つまり、この大がかりなプロジェクトは、プラントとして公式に行われたものではなく、あくまで<困っている友だちを手伝った>程度の経験にしたい、プラント側の配慮があるということだ。キラ・ヤマトという人間の存在はまだしも、彼女の持つ能力は絶対に公にするわけにはいかないのだから。 「キラだって一人の女の子ですもの。友人として幸せになって欲しいと思いますわ」 そんでもって、オーブの抱えるもう一つの問題。 「ま………困ったストーカーも居ることだしな………」 やっぱりどう考えても公に出来るわけがなかった。 |
いいわけ:つまり単に逃げていたキラをラクスがガッツリ利用したということです
次回予告:帰りの新幹線は何日の何便でどこから乗るとか、そういう話
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