その日、二度目の停戦以来使われることの無かった、<警報>がZAFT全施設内に流れた。ご丁寧に全職員の携帯電話やパソコンにも、同じ内容の警告通達メールが送られた。題して<ザラ来襲警報>


 内容は要するに、キラの元彼がプラントに上陸した。彼は振られた彼女への未練を断ち切れずプラント中を探し回っている。

 しかしキラ・ヤマトはプラントのダイヤモンドであるから、絶対に彼女を見つけられる訳にはいかない。

 ZAFT全職員は各自その男を見つけ次第ラクス・クラインに報告、万一居場所を尋ねられても知らぬ存ぜぬを通すこと。この命令はプラント第一級命令に比するほど重要なものであり、違反者は即刻厳罰に処す。

 なお男の名はアスラン・ザラである、だったりする。



「この日のためにこそ、人々の心をゆっくり着実に変えていったのです。ジュール隊長、キラの警護をこれまで以上によろしくお願いいたしますわね」

 キラとイザークは相思相愛の仲であり、中には婚約していると思い込んでいる職員もZAFTにはいる。似合いのカップル、プラントの希望を壊したくなくてこの命令に進んで協力する気になるだろう。その為の布石は完璧に打ってきたつもりだ。


「護ってみせるさ、世紀の変態からな!」





主な夫と書いて主夫!しゅふ!

第26話   来週ザラ来襲!(←駄洒落)





 イザークの目もマジになった。そしてこの日を境にキラの生活スタイルがちょっぴり変わってしまった。実務をこなしながらのアカデミーでの学習はほぼめどが付いていたので、その時間を利用してラクスの執務室にて新たな試練が始まった。そのことにぷるぷる拳を震わせた渦中の人が約一名。


「何でこんな事までやらねばならんのですか!」


「それは私が多忙でキラで遊………いえ、責任を持って変装させることが出来ないからですわ」

「最初の方に本音が見えるよ?」

「四の五の言わないのキラ」

「は〜〜〜〜〜ぃ………」



「ジュール隊長には、たった1週間でフルメイクを覚えてもらわねばなりませんので」

 はい。つまりは時間がないから、イザークの執務室または官舎にてキラにメイクしろ要するにそうした方が手っ取り早いし効率的だ、とそぉいうことです。


「化粧一つで乙女は変わるというもの!いかなるところから見られたとしても、キラであることがばれてはなりませんが、あなたの恋人として美少女ッぷりは最低限維持したいところです。お願いしますわね」

「………ぅ…」

 最低限美少女に、ときたもんだ。



「お願いいたしますわねッ!!!!!」

「…………………ゎ…かり、まし………た。やってみましょうやれば良いんでしょう!やれば」



「というわけです今日も元気に行ってらっしゃいませ〜!」

 と放り投げられた執務室の隅には、市井でもっぱら有名なメイクアーティストが楽しそ〜〜〜うにイザークを待ちかまえていた。


「はい。忙しいので今日はチークとシャドウとマスカラをいっぺんに教えます。隊長、メモのご用意を」



「……………」

「何か?」

「楽しそうだな…」

「ええ、楽しいですとも。何せ噂に聞く天下のジュール隊長ですから。それに私の知識は全てヤマトさんに………そしてそれはプラントを救うんでしょう?腹の底からやる気がみなぎるというものですよ」


「俺が見る限り、一言で鼻息が荒い、と言うんだ」

「鼻息?結構!だって明日はメインの口紅に着手する予定ですからッ」



 ぎゃふん!

 イザーク・ジュールは完敗した。目の前のメイクアップアーティストなる民間人に。そしてその日、まず見分けの付かないマスカラの色に、次に塗布範囲が狭い割に膨大な色数があるアイシャドウにイザークはマジギレした。


「無理だ!」

「やれ!」

「絶対に無理だッ」


「やれっつってんだろうがぁッ!!!」

「……………は………ぃ…」



 密室内で、形勢は逆転していた。

いいわけ:輝かしい将来のため、イザークにはちょっぴり苦労してもらいました
次回予告:キラ・ヅラ



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