今日はやけに施設内がざわつく。そう不思議がっていたら、その現況と思われるものがしれっとした顔で執務室にやってきた。


「ラクス嬢、キラは午後から昼寝のため仕事を休みます」

「……………。それは…見れば判りますけど……」

 当のキラはイザークの両腕に抱えられたまま、す〜やすやと爆睡していた。


「士官学校を出たあたりから寝てしまって…」

「あらあらあら〜」

「それで、ここからだとあなたの部屋が近いので、そちらをお借りしたいのですが」



 ところが。

「はい!もちろんダメですわ」

 ラクスの答えはイザークを驚愕させるものだった。


「何故です!」

「頑張ってあなたのお部屋にお運び下さいな。これも作戦の一環ですから」

「ラクス嬢!」



「ええ、判っておりますわ。本当は私の部屋の方が近いし広いし安全だし、何より女性のための部屋ですもの。けれど、ここが正念場です。人々の意識改革には地道な積み重ねしかありません。キラがこの仕事を終えるまで、もう少し我慢しては頂けませんか?そのことを見越してあなたにお願いしたのですわ」



 そして、押し問答の末………イザークが白旗を揚げた。

「判りました!精一杯頑張らせていただきますッ」



 今でも充分ガッツリ眠り込んでいるキラを寝させるだけだ、とイザークは自分に言い聞かせる。望んでこんなことになっているわけではないが、仕方なく(ここ強調)自分の部屋を貸与するだけだ。


「そう…簡単なことだ……簡単な…」





主な夫と書いて主夫!しゅふ!

第21話   プラントには嬉しい勘違い





 制服姿のキラを抱き上げたまま、自室に向かってブツブツ言いながら歩く。傍を何人もの兵士が通り過ぎる。だが、彼らが敬礼をしてすれ違っていることも、イザークの独り言が聞かれていることも、この時彼は全く気付いていなかった。


 そのことが間もなくZAFT中の噂の的になる。それは、


<Xデー近し!!!>


 何の?当然イザキラゴールのだ。眠り込むほど安心しきったキラ。その彼女を大事そうに抱くイザーク。そして向かうのはイザークの自室。その先で待っているモノは………。ZAFTの兵士といえども、考えることはナチュラルと全然変わらなかった。





 そして翌日。どうもヘンだ。ナニかが違う。まるで歯車が全然合わずに困り果てているように。


 スッキリと快眠を得たキラと、部屋のソファで仮眠を取っただけのイザークが、出勤した瞬間から感じた言い様のない違和感。今日はやけに空気がねっとりと絡みつく。そう思わざるを得ないほどの視線を感じていた。でもってそのなんだか嫌な予感は執務室でズバリ的中した。


「なんだコレは!!!」

「……………」


 イザークの執務室に置いてあったのは、避妊具を除くありとあらゆる種類のその手のグッズ。そしてキラの執務室に置いてあったのは、やたらな花束とそして小さな箱に入った妊娠検査薬、そんでもってマタニティ雑誌であった。



「あ…のさ、意味判んないんだけど………?」

「俺もだ!何でこんなモノが置いてある!仕事に全く関係ないだろうが」


 既にイザークはキレ気味だ。確かに関係ない。形だけはグロテスクな訳の判らない小道具や精力剤の群は。


「すごい量の花束なんですけど………」

 どうしようと途方に暮れていると、どこからか差し入れが来た。


「せっかく綺麗な花が届いてるんですから、活けましょうよ」

 目の前に差し出された差し入れは花瓶。持ってきた人はメイリン・ホーク。そして周囲にいる女性兵士からは一様におめでとうございます、と意味不明な拍手と祝福を送られた。



「ああ、やはりラクス様の仰ることは正しかったのですね」

「?????」



 ラクスが執務室の窓からニヤリとする中、周囲の勘違いが理解できていないのは、当のイザークとキラだけであった。

いいわけ:作戦は細かい部分まで理解されていなくても良いんです
次回予告:悪巧みに荷担する者



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