「す…すまん!………つ、ぃ」

「いいよ別に。僕も嫌じゃなかったし…」


 イザークとのキスは嫌じゃない。ただ、アスランと以外の経験がなかったため、当初は抵抗感がしただけ。



「それに、ここではそのほうが都合がいいんだっけ」

 茶化すように言葉をぶつけると、イザークは目に見えて真っ赤になってキラを引き離した。


「お前が、ZAFTにいる間だけだ」





主な夫と書いて主夫!しゅふ!

第19話   浮気上等!





 キラはくすくす笑う。

「ふふ…僕たちはみんなのお手本にならなくちゃね」


 限定された環境の中、こうやって仲の良いところを見せつけることで、内部から感情を揺さぶることが出来る。羨望という名の波紋はさらなる波紋を呼ぶ。色んな意味で、キラは新たなるコーディネイターの希望。

 当たり前に出会って、自然に恋に落ち、誰もが羨むような交際の後、幸せに結ばれるだろうと推測させるだけで良い。それはこんな小さな環境から、浸水するように広がってゆく。


 ナチュラルとコーディネイターが同居する環境で上手くやってきたキラ、ナチュラルの友人も多いキラ。彼女が楽しそうに話せば、心の中で引かれた線引きが少しずつ崩れる。それが<人類史上の最高傑作>たる彼女が無意識に持つ能力。この先、例えキラがアスランを捨ててイザークの手を取っても良い。

 どちらにしろそれは<ヒトの希望>になる。



「僕、イザークのキス…好きだなぁ」

「………ッ!!!馬鹿!何を言ってる!」


「だってアスランしつこいんだもん」

 だってキスだけで疲れ果てて寝込んじゃうことだってあるんだよ、なんて言うとイザークはますます顔を真っ赤にさせて怒った。



「明日っからさ、手…繋ごうね」

「…………………。あ…ああ………」

 そして………イザークもキラの魔力に屈した





 翌日から、朝イチで寝ぼけ眼のキラを、士官学校に送っていくイザークの姿が視認されることになる。ラクスの配慮だった。通常の学校生活を無理矢理奪われたキラに、士官学校とはいえ学校生活の疑似体験をさせてあげることと、ZAFTの軍人に施される基礎知識をある程度知ってもらうことが狙いだ。

 目の前の火事を消すことに追い回されていたキラの知識は、非常に偏っていた。例えば連合の設備に、ZAFTのソナーを無理矢理繋げる。あの戦火の中出来たのは、とりあえず稼働可能にすることだけで精一杯。細かい設定をする暇はなかった。


 けれど今回のように、長期間使えるシステムを構築するには、その場限りの対処では不向きだ。士官学校校舎に行っても、現実的に学生たちと肩を並べて授業を受けるわけではないが、そこにある資料を目に通すだけでも結果が全然違ってくる。その為の措置だ。ついでにイザークと行動を共にすることで、様々な派生効果が期待できる。



「歩きながら本格的に寝るなキラ!」

「夕べも遅かったん…だ、よ………ぉ…」


 肩口にこてんと頭を預けたままイザークに支えられ、寝ながら歩くキラ。その姿を遠くから見れば、さながら妻を職場まで送る夫。ちなみにその周りでは、直立不動で敬礼する士官学校生の行列が出来ているた。



「しっかり学んでこい」

「ふぁ〜〜〜い…。じゃ、また後でね…」


「ああ、後でまた迎えに来る」



 キラを学校の教官に引き渡し、くるりと振り返る。

「停戦協定が引かれたとはいえ、まだまだ事態は収束したとは言えない。ここを卒業したら君たちにも現場に上がってもらうことになる。そのことを忘れるな」

 学校の生徒達は一様には、と小気味のいい返事をした。


「それと………彼女はZAFTが招いた大事なSEだ。皆、粗相のないように」


「あの…ラクス様が地球から招かれた方でありますか?」

「そうだ。そして生まれ育ったオーブのように、ナチュラルとコーディネイターが共存できる未来を望んでいる。これはラクス嬢の希望と同じことだ。機会があれば彼女から話を聞くと良いだろう」



 さすがイザーク・ジュールの去り際は、格好良かった。

いいわけ:余計な騒動に絡まれなければ、イザークは普通に格好いい人ですよwww
次回予告:ZAFTまっぴんく計画



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