ナニが、どうしてこんな話になってるんだろう?と、キラは目の前のイザークの顔と、ラクスの顔を見比べる。が、彼女の中で結論は全く出なかった。


「いい加減覚悟を決めて下さいましv」

「………でっ…でも………ぉ……」


「でなければわたくしが取って代わりたいんですがw」

「何に?」

「ジュール隊長の位置に」


 そこでイザークのため息が割って入った。





主な夫と書いて主夫!しゅふ!

第12話   決意と実行までの遠い遠い距離





「それでは隠蔽工作にならないでしょう!ラクス嬢」


「……………。そうなのですっそうなのですよキラぁあっ!わたくしでは、わたくしでは、いくらヤル気があっても、この計画の役には立たないんですのぉおッ」

 言葉に顕れたラクスの悲痛な叫び。その意味が判って、イザークは額に手を当てて苦い息を吐いた。


「ラクス嬢、あなたの気持ちは大体分かり(たくない部分もあるが一応ここでは判ったことにし)ます。しかし…」

「わかってます、わかってます。プラントのため、そして世界の平和のために、事この件に関しては、わたくしは潔く身を引きますっ。イザーク…、私の代わりに、キラを……キラをよろしくお願いいたしますわね」


「無論であります」



「ですから、お手はここにこう、そっと添えて、優しく、優しく引き寄せて下さいませ」


「ら〜く〜すぅぅうう〜〜〜〜〜ッ」

「大丈夫ですよ、キラ。ZAFT中に、暗黙の了解として広まればよいだけなのです。交際を偽装するには、ここまではできなくてはなりません」



 悲劇のヒロインよろしく喋るラクスだが………。現実を端から見る限り、単にけしかけているだけだ。

「キラ…心配要りませんよ。ここにアスランは来ません。そっと、イザークの唇が触れるだけですから………ってぁ…ぁぁああああああっ!!!!!悔しいですわッ!どれだけわたくしが替わって差し上げたいか!!!」


「ラクス嬢……私と替われば、意味が無いどころか逆効果ですから!」

 出生率の低いプラントでは、男女間のまともな交際に対する根強い願望がある。今も昔もあらゆるメディアを使って、人心を導いてきた。どれだけラクスが望んでも、ラクス×キラではダメなのである。



「ええ判っておりますわ。ですからわたくし…堪えて見せます!ZAFTの、プラントの、強いては人類の未来のために!」

「ラクス〜そんな大それたものじゃないと思うよぉ?」


「いいえ、この計画は単なる虫除けではありません。先ほども申し上げたように、お二人の誘導を上手に利用して一石二鳥を計る。コーディネイターにとって時間がない話です」





 そう。オーブ、つまり地球からやって来たキラ。すぐに新しい環境にもとけ込み、相応しい交際相手を見つけた。そこでそれとなく二人が周囲を誘導する。キラは偶然コーディネイターだが、地球に住むナチュラルにも素敵な人はたくさんいる。

 二人にナチュラル・コーディネイターに燻る心理的ハードルを崩させ、婚姻を…結局は、安全で確実な出生率の確保を図らなければならない。これは、コーディネイターにとって危急の問題なのである。その為の象徴としての二人の交際、それはオープンでなければならない。


 ラクスはプラントに存する諸問題のうち、最重要課題をZAFT内部から切り崩す気でいるのである。





「………というわけで、キスくらいはできなければ、プラントの未来は奪われてしまうのです!」

 という、振り上げた拳付のラクスの飛躍した説明を、キラは冷や汗をかきながら、それでも小首を傾げつつ聞いた。笑う口の端がぎこちない。


「アスランとは問題なくしていたでしょう?」

 キラはぶんぶんと首を振る。

「違うよ!あれは四六時中アスランが突っ込んできてた…っていう方が正しいよ」



「そうか、やっと判った。つまりはこういう事なんだな?」

 全く進展しない事態にしびれを切らしたイザークの唇が、キラのそれにガッツリ覆い被さり、何度か音をさせてゆっくりと離れていった。

いいわけ:元ネタは種です本編のミーアの何気ないセリフですよ
次回予告:踏み出した一歩、そして一気に五歩進む



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