プルシャン・ブルー

第4話:Side Athrun


 俺自身全然乗り気じゃなかったけど……目の前に来たラクスは可愛かった。



 つやつやした焦げ茶の長い髪に紫色の綺麗な瞳。声だって可愛らしい。


 確かにこんな子、遊び目的で夜の街には来ないタイプだ。しまったな、TVくらい見ておけば良かったかなと思った。



 ま…いいか、今目の前にいるんだし。





「ご…ごめん、なさいっ。忘れてた訳じゃないんだけど……寝坊…しちゃって……」


 しかもこのバレバレの言い訳の可愛らしいこと!


 そうだよね?君だって急な話だったし、俺の評判なんてはっきり言って良いもんじゃなかったから、正直忘れたかったよね。


 そう判ると俺はにわかに気分が晴れやかになった。思わず笑いが漏れたけど、ラクスは全然気にしてなさそうだったから、彼女のそばに歩いていった。



「知ってるよ。忘れたかったんだよね」


「や…だから、忘れてた訳じゃ……なかったんだけど……」

「うん」


「疲れてたし、ちょっとくらいいいかなって思ってたら…ホントに寝過ごしちゃってて……」

「俺も急な話だったから、本当は気乗りしなかったんだよ」



「え?そうなんですか?……ホント言っちゃうと、僕も、そうでした」


 俺はふと小首を傾げた。別に悪い訳じゃないけど、ちょっと引っかかったことが。



「あ…普段、一人称は「僕」なんだ……」

 何の気なしにそう言うと、ラクスは口元を慌てて押さえて、ハッとした顔になった。



「ごっごめんなさい…ぇ、えと……私………」

 俺はガマンできずに吹き出した。可愛い…可愛すぎる!正直これで芸能人とは思えなかった。もっとしたたかなイメージ持ってたから。



 いや確かにスタイルは俺の好みにヒットしてるし(ちょっと胸が小さいように見えるけど、そこは俺の出番だしね)、顔は申し分ない。今まで遊んでた女なんて思い出せないくらいだ。





「あ…ぁのっ……僕なに……じゃなかった、私…その………」

 腹をかかえて笑っている俺にラクスが焦りだした。失礼なことしちゃってるのは俺の方なんだけどなぁ。

 彼女はどうやら気がついていないらしい。


 こんな反応初めてだよ!可愛いよ、ラクス!





「ごめんごめん!俺が悪かった。きみは悪くないよ…ってか、自分のこと僕って言うの似合ってて俺は好きかも!」


「え?いいん、ですか?」


「らしくて良いと思うよ。俺は好きだから、俺の前では無理しなくて良いからね」





 人生、自然に笑えたのは初めてかも知れない。ラクスは、本当に嬉しそうに「うん!」と言ってくれた。それが…俺には何だか誇りに思えて………。



「でも、嫌じゃなきゃ聞いても良いかな?一人称僕の秘密」


 立ち話もなんだから、俺はラクスをそっと近くにあるソファにエスコートした。彼女は一瞬びっくりしていたが、素直に座ってくれた。


 俺も反対側のソファに腰かけながら、備えつけのお茶を出す。ああ、恐縮してる顔も可愛いな〜。そう言えば彼女も乗り気じゃなかったんだよなこの話。あー俺、このまま彼女を逃がしたくないかも。

 俺はマジな話、ムラムラ来ていた。





「あ、ぅん。あのね、小さい頃学校の近くで痴漢がたくさん出てて、怖いよって母さんに相談したら、逃げられなくなったら「僕」って言いなさいって」



 ぷーーーッ!そりゃそうだよな!確かに痴漢は「男」には手は出さないからねぇ!

 彼女の母親の発想は面白いし、あ〜これだけ可愛いとねぇ…被害に遭ったんだろうなぁ、ラクスもいまだにクセが抜けないって訳だ。



「あ…でもおかしいですよね?やっぱ」


「おかしくないよ。でもそれ、効いたんだろ?」

「うん、すごく!顔真っ赤にした男の人が、オトコだぁあ〜〜〜って言いながら逃げていってた」



「あはははははは!良いんじゃない?別に、無理することないと思うよ。だから、俺の前ではちゃんと僕って言って」



 ラクスは、嬉しそうに微笑んで「うん、ありがとう」と言った。俺は何だかこっぱずかしくなって、ちらりと時計を気にして、そして彼女を1階のカフェに誘った。


 そうでもしないと、この狭い空間の中、顔がどんどん赤くなるのを止められそうにもなかったからだ。





 ラクス…君の笑顔は小悪魔だよ……。


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言い訳:
勘違いしたまま見合いは進んでいきます。アスランサイドなので、心の声はキラがラクスになってます。だってアスランもラクスだと信じて疑ってないわけですし。…にしても、この話のアスラン……まるでエロオヤジ(笑)免疫のないキラは完全に騙されてます。

次回予告:次回はこの部分をキラサイドで。いかにキラが分かってないかがそこかしこに。

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