プルシャン・ブルー

第37話


 カガリは夜中にもかかわらず、濃いコーヒーを口にしながらほっとため息をついていた。


「全くの幸運だったとはいえ、やはり予防線を張っておいて正解だったな……」





 数人の面会者の最後の人物は、かのラクス・クラインであった。ラクスは国際会議場でコンサートを開けるお礼を言い、そして真の目的をあっさりカガリにばらしたのだった。



 キラを追いかけるにはまずアスランからと思った彼女は、パトリックに連絡を取り、オーブに仕事に行くことになっているとの情報を得る。

 となれば後は早かった。


 とりあえず口実としてオーブでのコンサートを企画。実際に行った先でアスランを捕まえようと思っていたのだが、カガリとの面会で無駄な労力を省くことができた。



 そして、カガリと話した結果、こないだの約束(ラクスにとっては約束)反故を盾に、キラとじっくりたっぷり過ごす時間を得ることができたというわけだ。





「天下の歌姫と言うことになれば、キラだってそっちになびく…」

 果たして事態はそうなった。





「とりあえずあの変態オオカミが、キラをむさぼり尽くすのだけは阻止せねば!兄として、国家としての面目が立たん。キラにはもっと、まじめで優しい本当の男と一緒になってもらわねばッ」


 一部おかしい解釈があるが、カガリは全く気づくことなく、安心して自室に戻った。





 その頃…。キラは文字通りラクスに「捕まって」いた。キラに会えてよほどうれしいのか、ラクスはまっぴんくな雰囲気を隠そうともせずに、ひたすらキラに話しかける。


「まぁ!まあっ!では…キラ様はもう、アスランと結婚なさったと……!」



「ラクスさん…その、様ってつけられるのはやっぱ……」

「ああごめんなさい。それで、それはいつのお話なのですか?」



「………。それが…今日。オーブでの仕事が一段落して、終わった瞬間にアスランが急ぐからって言って…一緒に行った場所が、市役所で……。僕、頭ふわふわしてて、ラクスさんのことまで頭が回らなくって……。ホントごめんなさい!ただアスランと一緒にいたくて、書類にサインしちゃったんです」


「いえ、いえ!それはよろしいのですわ。確かにわたくしたちは親同士に言われ、婚約者にされそうになりましたけど、お互い生活も考え方も合わないんですもの。それは不幸ですわ」



「ラクスさん……でも、僕………」


「わたくしのことならお気になさらずに。それよりもキラ!先ほど申し上げましたとおり、わたくしはキラに会いに来たのです」





「……………。ずっと気になってたんですけど、何で…僕なんですか?ほかにきれいな芸能人の方とかもいっぱいいらっしゃるのに……」


「わたくし、父に言われてオーブにやって参りましたときに、仕事の都合でアスランにお会いできなかったんですの。それで、お詫びを申し上げようとパトリック様…アスランのお父様ですわ…にお会いしましたら、アスランはもうわたくしと会ったと申されまして…」



「僕が部屋を間違えて、アスランに会った日だよね?」


「ええ。あまりにおかしい話なので、直接本人にお会いしてお話伺おうとお探ししておりましたら、キラと一緒にいるところを見てしまったのです」



「それって……もしかしてアプリリウス市?」



「はいv中央宇宙港で、キラをお見送りしているところでしたわ。アスランはわたくしには絶対に向けない、柔らかな笑顔をされていまして……でも、そんなことよりわたくし…キラを見たとたん、あまりのお可愛らしさにびっくりしてしまってv」



「僕よりもっときれいな人はたくさんいるよ……」


 キラは恐縮して苦笑する。

 キラからすれば、こんな一介の一般人に構いたがる国際的歌姫というのが、いまいち理解できていなかった。





「いいえ!いいえっ!!お可愛らしいのです!男女で言うなら一目惚れとでも言うのでしょうか?わたくし…とにかくキラとお話がしたくてしたくて!こうして急きょ仕事まで入れてお会いしに来たのですわ!!!」


 ラクスは、感極まったらしく……キラの両手をぎゅっとつかんで、全く離そうとすることなく、うっとり目線で夜が明けるまでキラと「お話し」していた。





 南海の宝石箱とたたえられる南国オーブの夜が明け、うっすらと美しい朝日が差し込み…午前7時過ぎ………。

 妻になったばかりのキラが、帰ってこない…イヤ正確にはラクスに「捕まった」ままだということが確定し、アスランは滝のように涙を流しながら、事態を悔やんでいた。



「ラクスが……ッ……ラクスさえ邪魔をしなければッ今頃俺はキラとぉおおおおおっ!このっ…この腕の中には、桜色に頬を染めたキラがいて、つたない仕草で俺にすがってきてて、こう言うんだ………」



「アスラン……恥ずかしくて、チョット痛かったけど………僕、アスランと一緒にいられてすっごく幸せv」



「そして俺たちは…まさに今ここで!あっつぅ〜いキスをしてるハズだったのにぃ……」





 未だ熱を帯びたまま、いっこうに収まる気配のない自分を眺めながら、「プラントの種馬」は朝っぱらからくだらない妄想を全開にさせていた。


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言い訳:
ラクス→キラの理由編です。本編でもラクスはアスランから親友を「かっさらって」行っちゃってますし(笑)どっちにしたってラクス様はアスランの天敵(笑)

次回予告:卒業式当日、まるで恋ドラのようにキラはかっさらわれ…。しかぁし!やはり思い通りには行かない!一人幸せ(←気づいていない)なのはキラだけだった……。次回、最終回です。

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