プルシャン・ブルー

第38話




 へリオポリスの、通っている学校の屋上に3人の人影があった。時刻は午前10時。本当なら、授業に出ていなければならない時間だ。



「それで?キラ……大事な話って、何?」

 一番に切り出したのはフレイ・アルスター。彼女にとってこの手の話は、水を得た魚のようだ。今もキラが苦笑するくらいいきいきしている。


「僕ねっ…僕ね!!!」



「なになに?キラもついに彼氏と………vってヤツ?」

 フレイは興味津々だ。といっても、一部限定で。



「違うよ!もっとすごいことv僕ねっ!ラクス・クラインさんと友達になっちゃった!」



 バッタン!

 目の前ではフレイ・アルスターが、顔をこわばらせたまま「倒れて」いた。



「あ!ちょっとフレイ!フレイっ!!」

 キラがあわててフレイを揺するが、彼女は気づかない。


「あのねキラ。いい加減気づきなさいよ〜。フレイはあんたの彼氏とのその後を聞いてんのよ」



「え?何で………?」


「あんたねぇ…土日の度にいないんじゃ、さすがに判るでしょ?間違いなくデートしてるって。…となればいくらニブニブキラでも進展ってもんがあるでしょ!」


 ミリアリアのフォローはいつでも的確だ。



「あ…その話ならもういいの」

「え?まさか、もう別れちゃった…とか?」

「ううん!結婚しちゃったから」





 バッタン!

 そしてこの屋上で、意識があるのはキラだけになってしまった。





 数分後………。

「ちょっとアンタ!話しなさいッ!この半月かそこらであったこと、全部私たちに話しなさいッ!!!」


「そうよ!出会って一ヶ月くらいでもうスピード結婚?いくら何でも手が早すぎるわよ!」



 気絶後数分で復活した彼女たちは、猛然とキラにくってかかった。

「そんなことないよ。確かに、もう何度も一緒に寝ちゃってるけ…」


「ハァ!!?もう、寝た!?」

「うんvでもアスラン、すっごく優しくて……」


「優しく?アンタまさか…もう?」



「うんvキスしたり(
/////)手を握ったり…」



 よろよろよろよろ……………。





 ふらついた友達二人組に、キラは何のことだか全く理解できない。


「そ……そうか、ナチュラルとコーディネイターは違うんだったわね………」


「なんか僕……みんなより先に行っちゃった?」



 すぱこ〜〜〜〜〜ん!!!!!



 どこから出したか巨大ハリセン。それは盛大な音をさせてキラの頭に落ちてきた。

「あんたが遅すぎるのよっ!ちょっと待って!…じゃ、もしかしてあんた結婚して…手を握って、キスして………もしかしてそっから先は全く進んでない……………の?」



「え…?何が………?あ!子供はまだだよ。僕まだ学生だし、まだ病院行ってないもん」

 キラは手をひらひらさせて否定する。


 フレイとミリアリアは大切なことを忘れかけていた。コーディネイターにとって、子供は病院で「受精させる」もの。自分たちとは根本的に意識が違うのであった。





「ごめん…ついそっち方面も一緒だと錯覚してたわ……。そうね、まだ病院行ってないんだったら、とりあえず大丈夫よね」


 キラはこの段に至っても、フレイたちの言い分が何ら理解できていなかった。

 とにかく、なんだかんだ言って自分を心配してくれるのがうれしい。



「うん!アスランも、僕がアスランのこと嫌いになるまで一緒にいたいって言ってくれてるし、確かにはじめはやだったけど、僕はアスランと出会えて良かったと思ってるんだv」


((そりゃ……キラ………コーディネイターなら、そー思うわよね……………))


 フレイとミリアリアは、このときそこはかとない不安を感じていた。

 そうして、「何の進展もない」まま時は過ぎ、キラたちはめでたく卒業となった。





 ………………が。

「フレイ〜〜〜ミリアリア〜〜〜〜〜どうしよう〜〜」



「何が?」

「僕……よく考えたら就職浪人なんだよね………」



「アンタはバカか!キラはもう就職済みでしょうが!!!」



「何言ってるのさ。だからどこからも内定来てないってば〜やばいよ〜〜。父さんと母さんだって期待してるのに……」


 ミリアリアが、ため息をつきながらキラの肩をポンとたたく。



「キラにはアスランさんいるでしょ?こないだめでたく永久就職しちゃったでしょ!」



 とたんにキラの表情が明るくなった。

「そうか!アスランに頼めばいいんだ!忘れてた!ありがとうッフレイ〜vミリアリア〜〜v僕にでもできるお仕事ないかって、早速頼んでみるっっvV」





 フレイとミリアリアは、手を額についてげんなりしていた。

 まぁ…判っていたことではあるが。こんなオブラートに包んだ言い方じゃキラには理解できない………と。


 でも、こんな卒業式の終わった学校の校門前で、露骨なことがいえるわけがない。目の前ではキラが、嬉しそうにはしゃいでいた。



 フレイは未だよろめいていた。


「い……いいのよ。どうせ…どうせね、こんなキラでもそのうち判るだろうし………」

「あ〜〜〜そうね、フレイ。アスランさんが教えてくれる…って?」



「いいよ。いろいろと教えてあげるからv」

 突然割入った低い男声に、周囲までもがびっくりして振り返った。



「アスラン!」

 とりわけ驚いたのはキラだ。そしてその隣でフレイとミリアリアは相変わらず、頭を抱えていた。


((キラ……アンタ、全ッ然想像してなかったの………?))


 周囲の人だかりが増えてゆくなか、判っていないのはキラだけだった。





「アスランっアスラン……どうして?お仕事は……?」


「キラを迎えに来たんだよ。卒業おめでとう!それに、キラに…渡しそびれたものがあって………」

「僕に…?」



「あのときはバタバタしててさ、急いでたから…」


 そう言いながらアスランは無造作に上着のポケットの中から何かをとりだし、そしてキラの左手をとった。

 キラの頭に?マークがいくつもならぶ間に、大きなダイヤの付いた指輪は薬指にはめられてゆく。キラが声を上げる暇もなかった。



「指…輪……?……ってまた、こんな高そうなの…」

「順番逆になって悪いなとは思ったんだけど、エンゲージリング…俺の気持ちだから、このまま受け取って」





 ギャラリーはすでにぽかんとしていた。あまりの急展開についてゆけない。


「あ……ぁ、ぇと……あの………」


「近いうちに結婚指輪を見に行こうね。やっぱりこれだけはキラと一緒に選びたくて…」



「アスラン……ぁ…その……僕…」

「気に入らなかった?」


「うぅん、そんなんじゃなくって…その……」



 しどろもどろになって言葉が出なくなっているキラに、クスリと笑うとアスランはキラをひょいと抱え込んだ。


「今夜は…キラを……さらっていっていい?」



「ね、アスラン。僕ね、結局就職しそびれちゃって、困ってるの。アスランのとこでお仕事のお手伝いできないかなぁ?」


 アスランはしばらくきょとんとし、そしてほわりとほほえんで即答でOKした。



「いいよ。キラがこれから俺と一緒に住んでくれるなら」

「そんな簡単なことでいいの?じゃ、僕アプリリウスにお引っ越ししてもいいよ」


「ずっと一緒にいようね、キラv」

「うんっv」



 すっかりフリーズしてしまった周囲を完全に無視し、キラはアスランに「さらわれて」いった。





 数ヶ月後。

 パトリックにはラクスから話が行っていたらしく、文字通り「同伴出勤」したその日に社長室に呼ばれ、アスランはしれっとした態度で結婚を報告した。

 しばらくパトリックもカンカンに怒っていたが、この間のオーブのシステム組み直しのプログラマーがキラだったと聞かされ、渋々承諾する。


 それからというもの、会社内では必ず二人一緒に歩く若夫婦&購入したばかりのマリッジリングを見て、何十人もの社員が一時的に、「臨時有給休暇」を申請したという……。





 さらに数日後。

 残業にアスランは気が高ぶっていた。

 なぜかって、今日はキラと一緒に帰れない。


 手伝おうかという人たちを丁重にお返しして、彼は信じられないスピードで仕事を片づけ、そしてキラの待つ自宅へ帰ってきた。

 キッチンからいいにおいが漂う。こんなに遅くなってもキラが夕食を作って待ってくれているのかと思うと、さすがに耐えられず玄関からキッチンへ直行した。

「お帰りなさいませ。遅かったですわね。わたくしたち、待ちくたびれてしまいましたわ」



「………………………」



「アスラン?お帰りなさい!……って、あれ?」





「なぜ……なぜあなたがここにいるんです!?しかもこんな遅い時間まで!」


「わたくしがお電話を差し上げましたら、キラが今日は先に帰ってると申されまして。お一人にするのはかわいそうなので、遊びに行くついでに待たせてもらったのですが、何ですかこの遅さは!」


「あなたには関係ないでしょう!それに、俺だってできるだけ早く終わらせて帰ってきたんだ」



「キラはお一人でつまらないとおっしゃってましたわ。そんな甲斐性なしさんでしたら、わたくしがいただいてゆきますわよ」


「冗談じゃありません!キラは俺の妻ですから!あなたなんかには渡しません。それに何度も申し上げているでしょう!来られるなら来られると、連絡くらい下さいと!」



「あら!ザラ家ではお友達にお会いするのに許可がいりますのかしら?」


「遅くなられるのでしたらご連絡下さい!あなたのお父上だって、ご心配でしょう?」

「ご心配ありがとうアスラン!ではキラ…アスランも帰ってきましたことだし、わたくしはまた遊びに参りますわねv」



「うんvありがとうラクス!ほんと、楽しかった!また来てね」

「はいvキラvV」



 振りまくまっぴんくのオーラが、仕事帰りのアスランにはひどく毒々しいものに見えたとか。

 しかも、ラクスはその後も頻繁にザラ家に「遊びに」行き、さんざんアスランの邪魔をしては帰っていった。





 オマケ。

 休日、ラクスはカガリと電話していた。


「キラの様子はどうだ?泣いたりなんかしてないか?」

「それは大丈夫みたいですけど、最近キラのお胸が大きくなっているような気がしますの」



「何?まさか…妊娠?」


「いいえ。どうやらアスランに胸を触られることを覚えられたみたいで……この間も下着がきつくなってきたような気がすると……」



「何だと〜〜〜!?」



「キラも嫌がっている訳ではないので、いけないとはいえませんが……キラにはいろいろと教えておかなければならないですわね」


「ああ、”そう”してくれ。キラもあいつのこと好きみたいだからな……だが、急に襲ったりなんかしたらパニックになるだろうから、ラクス…申し訳ないがちょくちょく邪魔をして欲しい」

「もちろんv喜んで!」


 微妙にブラックな会話は、そうして一晩中続いた………。


駄文トップへ戻っちゃう→

長編インデックスへ戻る→
◇◇prussianblue◇prussianblue◇prussianblue◇prussianblue◇prussianblue◇prussianblue◇◇

言い訳:
なんとか、『種です』のあの指輪を渡すシーンが入れられました。

 一応ハピエンなんですが、小姑付新婚生活(しかもキラは未だに勘違い状態)みなさま的にはどうなんでしょうか(乾笑)

 とにかく、長々とおつきあい下さり、まことにありがとうございました!

☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆◇☆

お読みいただき有難うございました。ブラウザバックでお戻り下さい。