プルシャン・ブルー

第32話



 日曜日、昼過ぎ。

 はやる気持ちとうずく身体を何とかなだめながら、何事もなくキラを見送ったアスランはガッツポーズをし……憔悴したように中央宇宙港のロビーの柱に体重を預けた。



「頑張った……ぁはは!よくやったなぁ俺!」





 女の子を自宅に泊めたのは初めてだった。


 遊び相手の夜の街の女と、ホテルに入るなり口づけて、有無を言わさずベッドに押し倒し……自分のヤりたいようにヤって気が済んだら帰る、こんな事をくり返していた少し前の自分からは、到底考えられないガマンだった。


 しかも、今朝まで自分の腕のなかにいたのは、目に入れても痛くないほど可愛くて大事な大事なキラ。うかつに性急な真似をして嫌われでもしたら…という恐怖の方が勝っていた。

 しかし…好きだからこそ、すぐにでもそういうことをしたい…と思うのは止められようもなく………。





「朝は………ホントに、ヤバかった……………」



 健康的な男だから、どうしても反応するし…しかも目と鼻の先にいるもんだから、なかなかおさまってくれなくて、正直起きられなかった。


 キラはそういうのも、見たことないんだろうな…。


 やっとの事で大人しくなってもらっても……今度はここしばらく誰ともヤってなかったもんだから、欲求不満がたまりまくってて………。まさかキラを目の前にして、ヌく訳にもいかない。

 だからといって、今すぐヤれる相手と会う気にはさらさらなれなかった。キラと比べるとどうしても色あせて見える。





「帰るか……」


 力なく呟いて、アスランはそうそうに自宅に帰ることにした。携帯メールが十数件貯まっていたがもはや見る気もしない。



(とりあえず一度ヌいとくか………)





 コロニーが夕方に調整される頃、キラは上機嫌でヘリオポリスの自宅に帰ってきた。


(今回は!大丈夫だよね?フレイにもミリィにも他の友達にも言わずに行って来ちゃったしv)



 すぐに愛用のデスクの調子を確認し、留守用特製ウィルスの送信が数件あったのを見てくすりと笑い、機嫌のいいままアスランにメールを送る。


<今回はありがとうvあんまりプラントにいられなくて、急がせちゃってごめんね。また今度、ゆっくりお話ししたいね>



 そのメールをアスランは読み、文字にして返せない部分は、パソコンに向かって熱っぽく語りつづけていた。

「キラ……そろそろベッドの中でのお話しもしたいよ、俺。キラが真っ赤になって恥ずかしがるようなこと、たくさん言ってあげたいな。そしてキラの声も、いっぱい聞きたい…ヨくなってるときの君の声……朝までずっと聞いていたいよ」





 翌日は月曜日。

 土日にキラと遊んだのだから、月曜からは頑張って仕事しなきゃ、と張り切っていると昼休み時間にとんでもないお客様が現れた。

 連絡もなしにイキナリ自分の執務室のドアを勢いよく開け、彼女はつかつかとアスランの目の前に立った。


「こんにちわ!ラクス・クラインですわ。今日は大事なお話があってまいりましたのv」



 突然降って湧いた世界の歌姫(本物)に、きれいだとか可愛いだとかいう感想を感じるヒマもなく、しばらくアスランは固まってしまった。



「……………。来られるなら来られると、せめて事前にメールなりでご連絡願えませんか?」


「婚約者にお会いするのにそのようなことは要らないと、パトリック様におっしゃっていただいたものですから…」


「その話はお断りのメールを入れさせてもらったはずですが……」





 何の目的があってきたのかよく知らないが、高みから自分の見下ろすような言い方にアスランはかちんと来た。

 確かにTVの中ではピンクの癒しの歌姫かも知れないが、この人とこの先何十年も一緒にいたいとは到底思えない。



「ええvアリスさんから聞きましたわ。わたくしのいない間に何度もお電話を下さったようで」


「ならご存じでしょう?それにあなたからお返事のメール一ついただけなかったということは、ご了承していただいたということではないのですか?」



「そのことも存じておりますわ。わたくしとあなたを婚約させたがっているのは、父とパトリック様だけですもの。だから、最初に申し上げましたでしょう?その事以外で、あなたに大事なお話がありますの」


「その上、何でしょうか?」



 拍動がポンと跳ね上がる。同時に強い警戒心が頭の中を駆けめぐる。この雰囲気に騙されてはいけない、という警告がさっきから頭の中で鳴りやまない。





「わたくし、彼女とお会いしたいんですの。今度のお休みの日にお連れしてくださいなv」


「……………は?……誰です…?」





 入室もいきなりなら、話の内容もいきなりすぎる。しかもこれはお願いとか、そんな可愛い程度の類ではない。彼女の中ではすでに決定事項に違いない。

 あまりにもワガママすぎる話なんて、聞かれるわけがない。しかも………、「彼女」って……ホント誰のこと?



「あら?もうお忘れになりましたの?昨日、とても親しそうにお話しをしてらっしゃって…宇宙港までお見送りになったというのに……」


「キラッ!!!……ダメです!それだけは、絶ッッ対にダメです!!」

 アスランは絶叫していた。



「まぁvキラ様とおっしゃいますのね!」


 ラクスが嬉しそうににっこり笑い、ハートのオーラを飛ばしまくっている姿を見てアスランは得も言われぬ恐怖に慄然となった。


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言い訳:
憔悴しているところに最強ラクス様がやってきました!いや、絶叫書けて幸せかも〜←をいをいをい〜〜〜。

次回予告:1本の電話が全てを変える。キラに、衝撃のアルバイト話が舞い込みます。

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