プルシャン・ブルー

第28話


 さすがに周囲の視線が痛いので、小走りしながら自宅へ帰る。普段はなかなか帰らないキラの姿に、まずカリダが驚いた。


「今日部活は?」

「もうダメ!しばらくお休み。なんか、アスランとのことが学校中に知れ渡ってて…ミリィたちはみんなが飽きるまで我慢しろって言ってくれてるけど……こんなんじゃ今度のセミナーにも行かれない」



 それはキラが友達を誘っていこうと予定していた合同企業セミナーであった。



「それは大変ねぇ」


「笑ってる場合じゃないよ!今年就活失敗したら…また来年やり直しだよ………」



「まぁまぁキラ。そうは言っても少しの間黙ってればそのうち諦めるわよ。それよりも、カガリ君から電話が来てたわよ」


「カガリから…何でだろ?」

「キラはいつまで携帯電話を着信拒否にしてるのか、ですって」


「あっっっ!!!!!忘れてた!」



 そう、キラはこの土日のデートを今度こそ邪魔されないように、カガリからの連絡は全て着信を拒否に設定しておいたのだった。そして……そのまま忘れていた。



「カガリに電話する!今の時間は…じゃない、今のオーブの時間は、まだ行政府にいるよね」


 急いで自宅の電話からオーブ行政府にかける。内線でいくつも回され、やっとの事でカガリがディスプレイに現れた。


 久しぶりに見る兄の姿に、ちょっとホッとする……のもつかの間、アスランのことをカガリに根ほり葉ほり聞かれた。そして………、





「ダメッ!ダメだダメだダメだ〜〜〜〜〜ッ!!!ソイツは絶ッッ対にダメだ!」


「な・ん・で!ユウナさんじゃないんだから、いいじゃない!」



「あんのド変態もダメだが、プラントの種馬もダメだぁ〜〜ッ」



「……種馬………?」


「いいかキラ!アスラン・ザラには近づくな!遊ばれて捨てられるぞおまえ!ヤツのうわさを聞いたことがあるのか?一体何十人の女が泣かされているのか知らないだろ!」


「もーうカガリはなんだってダメだって言うんだから!アスランは優しくていい人だったよ!カガリの言うように危ないことなんて全然なかったもん!そ…っ、そりゃ……ぁはじめてキスした時はびっくりしたけど……」



「キ………ッ!キスぅぅううううう〜〜〜〜〜ッ!!!?」



「でもっ!ホント危ないことなかったもん!一緒に寝た日だって、すっごく優しかったよ!カガリは思いすぎなんだよ」





 カガリが固まってしまった。「寝た……寝た…」とつぶやきながら、そのまま動かない。さすがにキラは心配になってきた。ちゃんと説明すれば喜んでくれると思ってたのに……。



「僕はちょっと不安だったけど、落ちそうになる度に助けてくれたし、ちゃんと朝までずっと手を握っててくれてたよ」


 キラの弁解にやっとカガリは復活した。いや、復活したと言うより、鳩が豆鉄砲だ。





「手を、握って…って、それだけ?キラ、隠してるんじゃないよな?」


「うんvアスランの手、温かくて気持ちよくて、そのまま朝まで寝られたもん」



「………寝た…?って、おやすみ〜って言って…熟睡しちゃって朝まで起きなかったって事……?」

「……ってか、ベッドに入ってそれ以外に何するの?寝るための家具じゃん…」





 キラはきょとんとしている。コーディネイター社会ではベッドとはそういう認識であり、基本的にそれ以外のことは教えない。


「ホントに…ホント〜に朝まで何もせずに寝てただけなんだな?恥ずかしいからって兄ちゃんに黙ってるって事はないよな、キラ」



「………?ねぇ、カガリ?ベッドでする恥ずかしい事って……一体何なの?よくわかんないんだけど」


「すまんキラ。俺が悪かった。次の仕事あるし、また電話するからな。…とにかく、ただ「寝た」だけなんだな?だったら、それでいいんだ……」





 プツ………ッ−−−−−。



 カガリは放心状態で行政府内をさまよい歩き、エリカに怒られ、事情を聞かれ…そして「そういう」レクチャーを受けた。


「そんなこと心配してるの?」



「そんなこととはなんだ!兄として当然の心配だ」


「ナチュラルとコーディネイターでは、子作りに関する基本観念が全く違うのよ。学校の授業でもそこだけ別々でしょ?とにかく受精率の低いコーディネイターにとって、子供は特別なのよ。知らなかった?コーディネイターってほとんど病院での人工授精なのよ」



「………え?」



「考えれば判るでしょ。コーディネイター同士で普通にヤっちゃって、子供ができるカップルもいない訳じゃないけど、そしたらナチュラルコーディネイターになるじゃない」


「あ……!そうか」


「だから相手の機嫌を損ねたら永遠にできないってわけ。コーディネイターが伴侶を大事にしたがる理由、判るでしょ?」





 エリカ・シモンズに説得され、カガリは少しだけ自分を取り戻した。


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言い訳:
ナチュラルコーディネイターは秋山の創作です。今回、カガリの「ダメだダメだダメだ」が書きたかったんです(ぇへ)

次回予告:カガリとの会話を引きずるキラは、そっくりそのままアスランに言ってしまい……そのまま彼氏の部屋へGOであります!

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