プルシャン・ブルー

第27話



「社長、お電話です」

 午前中、急ぐ事項だけでもと片づけて、秘書の淹れてくれたコーヒーを片手に一息ついていたら、間が悪いほどに電話がかかってきた。

 どこの商談だろうかと思って出てみたら、古い友人だった。最近はおたがい忙しく、ゆっくり電話するヒマもない。


「パトリックか?私だ」

「久しぶりじゃないか。ご無沙汰しているが、息子が世話になっている。ラクス嬢はご息災かな?」


「そのラクスなんだがな、この間のオーブでは申し訳ないことをした。会えなかった非礼を、君にも詫びておいて欲しいと言われてな、私も忙しかったもんだからついつい電話が延びてしまった。わざわざオーブにまで呼びつけておいて済まなかったな」



 パトリックは思わずコーヒー碗を掴んでいた手を離しそうになり、あわててカップに視線を戻した。


「はて?息子はラクス嬢に会ったと言っていたが……?この土日も彼女のところに行っていたのではなかったかな?」


「いや?会っていない。どういう事かね、パトリック……」



「あ…いや、すまん。日時のことは考えておこう。それよりも、息子を問いつめねばならん。あの放蕩息子め、乗り気でないと言って遊び歩いていたのかもしれん」


「よくわからんが、まぁ決まったら教えてくれ。こちらもできるだけ合わせる」





 受話器がおろされる。とたん、パトリックは般若の形相をして、猛牛のごとくアスランの執務室までダッシュしていった。


「どういう事だ?アスラン!今シーゲルから連絡があってな、お前はラクス嬢に会わずに遊び歩いていたと言うじゃないか!」


「ああ…。やはりバレましたか。そろそろ来るなとは思ってたんですが……」



「知っていながら黙ってたのか!お前は!」


「いや、彼女には会いましたよ。この土日も会って来たばかりですし…」

「…何?嘘をつけ!」


「俺はウソなんか言ってませんよ。ちゃんと見合いもしましたし、デートもしてきました。ただそれが、父上の思ってるラクスでなかったと言うだけの話ですよ。父上は俺が身を固めることを望んでいたんでしょう?だったら、それでいいじゃないですか」



「バカもん!私はラクス嬢に会ってこいと言ったのだ。誰がお前の遊び相手のようなくだらん女と茶を濁してこいと言った!?」


「失礼ですね!もう彼女とは将来の約束をしてるんです。今さらラクスとなんて会えませんよ。大体彼女を諦めてラクスと結婚して、どうなるって言うんです?存在価値は広告塔なんて、俺は要らない!」



「生意気を言いおって!とにかくラクス嬢でないと駄目だ!将来お前とこの会社を切り盛りすることになるんだぞ!お前の選ぶようなバカ女は要らん。金でも何でも積んで別れろ!いいな」





 5分も経たないうちに電話がかかってきたらしく、パトリックは言い捨てたまま執務室を去った。アスランは渋い顔をしながら、舌打ちをし、携帯電話のリダイヤルを押した。


「あvアスラン!…どうしたの?今昼休み?」


「ま…ぁ、そんなところ。ごめん…急に、声が聞きたくなって……」

「こっちも昼休み。よかった!あれから大騒ぎになっちゃってるらしくって、今屋上に逃げてきてるんだ」


「ごめん…。でも俺…側にいてくれないと寂しくって、せめて声だけでもって思ったけど、声聞くとよけい会いたくなるね」


「大丈夫だよ。また会えるよ僕たち」



「うん。ごめんね、ラクスとのこと…もう少し待ってくれる?俺…ちゃんとキラのとこに帰ってくるから」


「うん…心配しないで。信じてるから」





 学校の屋上で、幸せそうに電話を切るキラ。側でフレイとミリアリアが安堵のため息をついていた。


「ギリだったわね…」

「そうね、キラ……後一歩遅ければその電話、みんなに聞かれてたところよ」



「ごめん……。あのね僕さ、今日は授業終わったら遊ばずに家に帰るよ。フレイやミリィが心配してること、なんだか飲み込めてきたし………」



 屋上の出入り口でのぞき魔が押し合いへし合いしているのを、キラはやっとの事で認識した。

 昼間だって危なかったのだ。あの彼誰?と次から次に訊かれ、素直に答えようとするキラ。ミリィが裾を引っ張り、フレイが足を蹴飛ばしてくれなければ、そのままペラペラ喋らされて、もっと大騒ぎになるところだった。





「アンタたち!何隠れてコソコソ覗いてんのよ!!!」



 フレイの一喝で、たかっていたのぞき魔集団はクモの子を散らすように去っていった。


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言い訳:
話は、動いてるんですか?←ええ、動いているんです。
 ところでちょっと私的見解。フレイは、戦争に巻き込まれて女優化しちゃったんであって、平和な世界のままなら、単なるわがままお嬢ちゃん程度で済んだんじゃないかと思います。

次回予告:キラ友人編→ザラ親子編…とくれば当然彼ですよ彼!次回、さらに誤解は深まるオーブ編

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