第21話
「なァ…これって……ノゾキだろ?」 サイは運転席であからさまにイヤな顔をしていた。 フレイから命令口調の伝言が入っていたが、いつものワガママなので取り合わずにいると、朝からの着信で起こされ、揚げ句のはてには家にまで来たらしく、なんにも知らない母親と彼女たちは客間でお茶を飲んでいた。 「ノゾキじゃないわよ!私たちはキラの保護者としての役目をこなしているだけよ!」 「保護者って……親じゃないんだから」 「恋愛関係限定保護責任者なの!大体あのウブで恋愛オンチなキラを、迎えに来る男が現れたってだけでも、学校中大騒ぎなんだから!」 「でも、なんか絵に描いたような美形だったわよね〜。キラだって知ってる風だったし、何回か会ってるって感じで……私たちそういうの全然知らなかったんだもん。びっくりするわよ、ね?フレイ」 「校門前に高級車でつけてて、会いたくなったから来ちゃった、みたいなこと言って…ヘンに慣れてる感じだったのよ!……となれば、キラの貞操が危ないじゃない!」 「そんな大げさな…。で、どんな感じだったんだ?俺、そいつ見たことないんだけど…」 「う〜ん…髪はこの辺で見ない藍色で……肌は色白、瞳は緑だったかな?青緑だったかな?…で、背は高かった。キラより10pくらい違うかなぁ」 「藍色の色素…コーディネイターだね、おそらく。ならとりあえずそういった危機はないんじゃない?」 「なんで?そんなことわかんないじゃない!」 「あのねフレイ。俺たちナチュラルとコーディネイターでは、基本的に子供に関する理解の仕方が違うんだよ」 あ、そっか…と、フレイは思い、ミリアリアはホッと胸をなで下ろした。 確かに両者の間には根本的に認識が違っていた。 子供は授かるもの、と言うナチュラルに対し、受精率の低いコーディネイターは、作りだすもの、と言う考えが絶対的にある。 と言うわけで、ここヘリオポリスの学校の保健の授業でも、そっち関係の講義は、ナチュラルとコーディネイターでは別々に別れて受けることになっている。 キラはコーディネイターだ。そしてほぼ間違いなくあの男もコーディネイターとするならば、間違っても即妊娠…などという可能性は限りなくゼロに近い。 「それにしても、やっぱキラが傷つくことは許せる事じゃないわ!さ、運転手さん…GO!」 「やっぱ、行くの……?」 「言ったでしょ!私たちはキラの(恋愛限定)保護者!これが責務なのよ〜〜〜」 フレイは携帯電話のディスプレイとにらめっこしながら、右、左、右……と方角を指示していき………そうしてミリアリアと一緒になって本当に、サイを一日中振り回した。 「ね……どう?見える?」 「やっぱ隠れてどうのっていうのがまずいんじゃない?犯罪してるんじゃないんだから、もっと堂々と……」 「堂々と……尾行がキラにばれたいわけ?アンタは」 「イヤ、そーいう事じゃなくて。例えばもっと自然に、偶然会ったとかいう風を装うとか…」 双眼鏡から目を離すことなく、サイの不満をフレイは一喝する。 「アンタね…あの雰囲気見てよくそれが言えるわね………」 数十メートル先には、絵に描いたようなデートをし、ドラマのように頬を染めて、まるで台本通りにいちゃついている姿があった。 「ま…まぁ、午前10時に公園で待ち合わせ、繁華街を歩き、高級レストランで昼食、そして昼から話題の映画を見に行き、彼女にプレゼントを買って、夜景の綺麗な海辺の料理屋しかも一見さんお断りさらに本日貸し切り…カンペ見てるみたいなデートだな………」 「見た感じ、お金持ちそうよね〜。キラ、どこで出会ったんだろ?やっぱ、カガリ君ときょうだいだから、その線かなぁ……?」 「とりあえず変態全開というわけでもなさそうね。ま…実情はどうか知らないけど。案外ムッツリだったりして……」 「あ…フレイ!男がくしゃみしたわよ」 「結構当たってる……?」 「さぁ〜ねぇ〜〜?…あ!あ〜〜〜ッ!キスしちゃった……………」 「えッ?ウソ!………あ”あ”〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!」 ちょうど対岸の公園で、夜中に双眼鏡をのぞきながら奇声をあげている女の子二人に、サイは一人木にもたれ掛かりながら諦めきったようにため息をついた。 (いい加減帰れよ…お前ら。そしてキラ……楽しんでいるところすまんが、俺の平和のために今日は早く別れて帰ってくれ………) サイの願いは、午後11時頃まで叶えられることはなかった。 次の日曜日、彼は寝不足を理由に臨時ドライバーを丁重に断った。 第22話へ→ ◇◇prussianblue◇prussianblue◇prussianblue◇prussianblue◇prussianblue◇prussianblue◇◇ 言い訳:アス×キラデート編なんですが、趣向を変えて第三者視点でお送りしてみました。ちょっと今回、ナチュとコーディについての自分なりの見解を入れてみたので。 次回予告:のぞき連中の運転手をトールに変えて、デート編行っきま〜す! |
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