プルシャン・ブルー

第20話



 キラはいまだにどぎまぎしていた。


「このまままっすぐ送っていってもいいけど、つまんないね。おいしいもの食べに行かない?」



 ギアをシフトしながら、アスランが慣れた調子で言う。その姿をキラはぼーっと見続けていた。アスランの一言でやっとこさ我に返ったていたらく。





「ギアシフト……」

「……え?」


「やっ…ギアシフト車なんだ…と思って」



「ああ!この車?知人…う〜ん、友達から借りてるんだよ。ヘリオポリスにも得意先がいるから」


「あ…でも、なんか…その、そうやってギアを変えてるのって、格好いいなって…思って……」



「この手?あの日、朝まで君を握りしめてた手でもあるんだよv」



 キラの頭は一瞬にして沸騰した。

 そうだ!確かあの日、この人と一緒に寝て、朝まで手を握ってもらってた……その手だ。



「ごめんごめん!でも、信号赤になっちゃったから、もう一度握ってもいい?」


 そう言ってアスランは再びキラの手を握りしめた。


 キラは自分を包み込む、温かくて大きな男性の手の感触に、どうしていいか判らない。





 一方アスランは……、

(ラクスの手〜〜〜!温かいッ小っちゃいッ…ムッチャクチャ可愛い〜〜〜〜〜ッ)


 後続の車にクラクションを鳴らされるまで昇天していた。





 その頃。ミリアリアとフレイは繁華街のど真ん中にいた。


「見失っちゃったね…」

「早いわね…あの男!」


「そもそも自動エレカで追いかけようっていうのが、間違いだったのよね〜!」


「そりゃぁ、エレカは交通法規厳守で、危ない運転しないものねぇ。目立つ高級車だったから楽だろうと思ってたけど、あの人運転荒ッ」



「どうする?フレイ。明日は運転手雇う?」


「サイとトール、どっちが運転上手?」

「トールは無理ね!危ないと思ったらすぐ止まるもん。そりゃぁ、私はそれでいいけど……」



「じゃ、サイね」

 そう言いながらサイの携帯に電話をかける。

 ところが出られない状態だったらしく、留守番電話メッセージが流れ始めた。


 しかしそんな程度で諦めるフレイではない。



「あ〜サイ?私!フレイだけど〜〜〜アンタ明日私たちのドライバーだから!じゃ、そーいうことでよろしくぅ!」

 一方的なメッセージを喋り、そのまま通話を切って、本人の了承もなく、キラ尾行計画は入念に練られていったのであった。





 同時刻、キラは久しぶりにケーキをおごってもらって、ひどくご満悦だった。駐車場に帰る道すがら、何度も何度もアスランに感謝する。


「ありがとうございます!ここのケーキって、すっごく評判で、食べに行きたいなって思ってたんですけど、今月も小遣い使っちゃってて…また今度また今度って思ってるうちに、結局行きづらくなっちゃってたんです」


「おいしかった?」

「うん!とっても」



「良かった!その笑顔見ると、疲れなんか吹き飛んじゃいそうだよ。仕事早く片づけて急いで来てよかった」


「そんな……大層なもんじゃないで………」

 ピリリリリリリリリ……………。

 いいところでアスランの携帯電話に着信がかかる。



 キラに「ごめんね」と謝って電話に出ると、ヘリオポリスの得意先の社長からだった。





「パトリックから、こっちに来ていると聞いてね。デートは明日明後日だそうだから、今から会えないかな?夕食をご一緒しよう」

「ああ、お世話になってます。こないだはすみませんでした、無理なお願いしちゃって。…で、今からですか?う〜ん…でも今もう彼女と一緒なんで……」


「若くて実力があって、可愛い彼女持ちかね?羨ましいね、私にも分けてもらいたいもんだ。良ければ今度彼女を紹介してもらえんかね?君の奥さんになる人だろう?」


「ええ、そう……なりたいと努力しているとこ………」



 となりで、キラが携帯片手になにやらゴソゴソとしているのは、知っていた。


 その携帯画面をいきなり自分のほうに向けるもんだから、びっくりして振り向くと、メモ機能の欄に、

「仕事関係でしょ?大事にしたほうが良いよ。僕とはまた明日会えるんだからさ、今夜はその人のところへ行って」

と、自分へのメッセージが書かれていて、知らずクスリと笑いが漏れてしまった。



 どうして全く!ラクスは賢い人なんだろう……。





「社長さん……いいですよ。今夜は夕食をご一緒しましょう」


「忙しいなら今度で構わんよ。大事な彼女なんだろう?」



「その彼女からGOサインが出てまして」

「仕事しろと?あっははははは!今時珍しい、得難い子じゃないか。その彼女の話も聞かせてくれるかね?」


「ええ喜んで!」





 ピッと音をさせて通話を切り、キラに「ごめん」と謝った。


「自宅まで送るつもりだったけど…」

「いいよ。もともと明日って約束だったし、学校のカバンを持ったままってのもね。それに、僕も就活してるからよく判るけど、お仕事はやっぱ大事にしたほうが良いよ」



「うん!そうだね、ありがとう」


「じゃ、僕はこのまま帰るから。明日、改めて…ね」

「待ち合わせの時間と場所は、後で必ずメールするから…待っててね」



 キラは満開の笑顔を向け、大きくうなづいたあと、手を大きく振りながら上機嫌で帰っていった。


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言い訳:
慣れているというのか、スケコマシすぎなアスラン。寅さん「人はすぐ慣れる」ですか?

次回予告:女優の思考回路に、サイの現実的なツッコミが鋭く突き刺さる。土曜日のデートは、第三者視点からネチネチ(←?)とお送りします。

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