第19話
ウキウキ気分でヘリオポリス宇宙港に到着した。 こんな気持ちになったのは人生で初めてだ。カバンに荷物を詰めることが、こんなにも楽しいことだとは知らなかった。 アスランはつい昨日の自分を回想する。 ラクスラクス〜と、鼻歌をならしながらクローゼットを物色する。嬉々とした気分のまま、考えなしに詰めていたら、途中であることに気づいた。 「う〜ん…やっぱ初めから……は、マズイよなぁ………」 そう、ブツブツ呟きながら避妊具(!!!)を取り出す。 そうしてガチャガチャと要らないものを除いていったら、かなり手荷物は減っていた。 「ラクスは!こーいった付き合いは初めて!オトコも初めて!優しく…ゆっくり進まないとダメじゃないか、俺ェ!」 自分を叱咤する。 彼は真剣なのだが、それはどこか間違っていた。 「今度の土日は正念場!会って遊ぶだけ!あ…遊ぶってったって、エッチはしない、エッチはしない!ここで逃げられたら終わりだぞ俺!ガマン…ガマンだ息子!」 (だって、もしラクスに振られでもして、俺の知らないところであのラクスが他の男と腕を組んで歩いているとしたら……) 「ぅああああッ!!!耐えられないッ」 アスランは24時間前、自宅の寝室で避妊具を握りしめたまま叫んだばかりだった。 ヘリオポリスの工業カレッジ。 夕方頃キラはいつもの部室にいた。そして猛然とした勢いでキーボードを叩いている。近くに寄ってきたフレイがあきれているのにも気づいていなかった。 「アンタ…飽きないわねぇ……」 「ぅわッ!……あ、フレイ」 「何よ!面白いことがありそうだから、キラも誘いに来たのに…」 「え〜〜?今いいとこなのに〜」 「そーんなカタカタカタカタ、オタクみたいにパソコンに向かってて、な〜にが楽しいんだか……」 「いいじゃん!フレイにはわかんないかもしんないけど、僕には充分楽しいんだからさ」 「ね?キラ、今校門に人だかりができてるんだけど、見に行かない?」 「ん〜〜〜行かない…」 「アンタもつまんない子ね〜三流でも、芸能人が来てるかも知れないじゃない!ホラ、ミリアリアも一緒に行くって行ってたし…」 フレイにせっつかれ、キラは仕方なくパソコンの電源を落とし、通学用カバンを手にして部室を出た。 「ハァイ!ミリアリア!」 「あ、キラ来た。行こ行こ!見るだけタダよ」 「あ…うん」 フレイに腕を引っ張られ、ミリアリアに言われた通り、3人で校門付近に行くと、確かに女の子の集団ができていて、黄色い歓声が上がっていた。 「男の人かな?よくわかんないけど……」 集団のはじっこから、うーんとうなりながら背伸びをしてみるが、あまりな人だかりでよく見えない。 「ねぇフレイ〜〜やっぱやめようよ…。見えないもんは見えないし、きっと中にいる人だって困ってるよ……」 その時、かすかな男声とともに、集団に動きがあった。どうやら中にいる人が、女の子の厳重な人垣を掻き分けているようだ。 ところがそんな声もキラには届かない。 「行かないで下さぁい」 「もう少しお話しを〜」 「こっち向いてぇ〜〜」 キラがフレイの裾を引っ張って引いていると、ついに中から人が出てきた。その姿にキラは「あ!」と声をあげ、そのまま固まってしまう。 (ユ……ユウ、ナ…さん………?) アスランは周囲の女の子たちに、少しばかり困ったような顔をして、そしてキラに向かってほほえみながら歩いてきた。 あまりに突然の出現にキラは言葉も出ない。 「ごめん、意外に早く着いたから…携帯で学校探してさ、ここで待ってたら来るだろうと思ってたんだけど、捕まっちゃって………」 「あ……ぁ、の………」 目を丸くして、ひたすら固まっているキラの両肩を掴み、アスランはさりげなく間合いを詰める。 それがそのまま女の子たちへの牽制となって、一種近寄りがたい雰囲気をかもし出していた。 「明日って言ったけど、早く顔を見たくて…。学校は、今日はもう終わり?」 「あ…ぅん。終わり。もう、帰るだけ……」 「じゃぁ、帰りを送らせて。車で来てるから」 アスランは真っ赤になって立ち止まっているキラを、そっとエスコートし、校門前に横付けしている高級車の助手席に乗せ……女の子たちと、呆然としたままのミリアリアやフレイを残したまま、発進してしまった。 「信じらんない〜〜〜!若くてチョー格好良かったのに、もう彼女がいるなんてぇ〜〜〜〜〜」 そのとなりで。 「キラ……彼氏がいるなんて、一言も言ってなかったわよね……ど〜いうこと!?」 「こんなことしてらんないわ!ミリィ……早速出動準備よッ!!!」 フレイがやたら張り切っていた。 第20話へ→ ◇◇prussianblue◇prussianblue◇prussianblue◇prussianblue◇prussianblue◇prussianblue◇◇ 言い訳:ふふふ。やっぱ女優(フレイ)来ないとネ。出撃準備完了です(笑) 次回予告:へリオポリスデート。だがしかぁし!いちゃつく二人に、まるでサスペンスのように追跡する人たちが! |
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