プルシャン・ブルー

第15話



「大丈夫?忘れ物はない?ちゃんと確認して。それと、君が取ってた部屋にも、寄って行かなきゃいけないからね」


「あ、そうか」





 結局アスランは本当に朝まで、「ただ手を握って」いただけだった。


 ねぼすけのキラがぼんやり目を覚ました頃、アスランはすでに私服に着替え、部屋の整頓をしていた。


 その姿を見てキラは飛び上がって驚き、アスランに苦笑され、「急に起きたら、カゼ引くよ」と言われ、肩からずり落ちそうになっていたバスローブを直されたのだった。



 キラが真っ赤になって口をぱくぱくさせていると、彼はふわりと微笑みかけた。



「心配しないで。本当に手を握ってただけだから。その手が、小っちゃくって可愛くって…本当に離したくなかったんだよ」





 アスランの背中を見ながら、そんな朝のやりとりを思いだし、キラは何度も頬を染めた。


 自分のなかで落ちつくまでに多少の時間を要し、時計に目をやりあわてて洗面所にかけ込む。

 ボーっとしていたせいか、今でも寝起きのままだったことを思い出し、いつもの調子が出ないことがひどくふしぎだった。





 その後、なんとか着替え…荷物をまとめ…忘れ物がないか確認し、途中キラの取っていた部屋に寄り、荷物と部屋のキーを取ってフロントに返却し……ついでに遅めのブランチを取って、ホテルを出るころには昼前になっていた。


「あ…あの、僕もどれか持ちますからっ」



 キラがそう言ったのは、キラの荷物までをアスランが持って歩いてくれているからだった。

 とは言っても、急がないものはホテルから宅配便で送るようにしてあるからそんなにたくさんあるわけではないが、今までの習慣で手元がハンドバッグ一つだとさすがに気が引けた。



「いいよ。そんなにあるわけじゃないし…シャトルに乗れば手荷物なんて財布だけだろう?そんなことよりも、ちょっと寄り道していこう!」

「え?」


 言うが早いかアスランはキラを連れて、近くの店の中へすたすた入っていく。そこは普段キラが行き着けないような、いわゆる「ブランドショップ」だった。



「あ、あの……?」

「ほら、可愛い帽子とかあるから、見ていかない?似合うと思うんだけどな」



「……でも、ここって………」


 視界に入る値段に、キラは正直引きかけていた。帽子なんてめったにかぶらないし、こんなに値段の張るものは買わない。

 確かに、可愛いとは思うが。


「記念だから。気に入るものを買ってあげたくて」



 確かに、ショウウィンドウをチラチラ眺めながら歩いてはいた。こんな所を歩くのも滅多にないことだったから。

 キラだって、これからユウナさん(だと思っている)と付きあっていくなら、こういったものも要るのかな……なんてぼんやり感じていたのも事実だった。





「もったいないですよ。また今度に……」


 キラが引きかけているのは知っていたが、アスランにも引くに引けない事情があった。



(このままラクスが一般客に紛れてシャトルに乗ってる…なんて知られたら、大騒ぎになるからなぁ。ラクスは本当に可愛いから、帽子でもかぶっててもらわないと、まともに歩けもしなくなるし……)



「何言ってんの!こういうものは気になった時に買わなきゃ、ね?どれかかぶってみてよ」


 二言三言話したところに、店員がやってきて……キラは引くに引けなくなって、結局彼の言うまま可愛らしい帽子と、おそろいの色のネックレスをプレゼントしてもらうことになってしまった。


 慣れないことをしてどぎまぎしてるうちに、アスランはサッサと代金をカードで支払い、キラを見ては、可愛い可愛いとご満悦だった。





「帽子は、持ってなかったの?」


「…ぅん」

「なかなかオシャレできないって気持ちも判るけど、女の子なんだから、こっちもちゃんと楽しんで」

「…うん。なんかそう言われると、頑張んなきゃって気になるね!僕、少しずつ頑張るね!」



 アスランはにっこり微笑んで、キラと連れだって宇宙港へ向かった。着いた時間はちょうど良くて、搭乗手続をしてシャトルへ向かう。





 その日の夕方。


「キサカ!まだ来ないのか?」


「………。まだですな。カガリ様、いい加減あきらめたほうが良いんじゃないですか?」



「冗談じゃない!俺は兄として、このオーブの次期代表首長として、全力でキラを救い出さねばならんのだ!」

 キサカはため息をつく。次期代表首長は関係ないのでは………と。ところがカガリは必死だ。周囲のことなどまるで目に入っていない。





「いいか!鳶色の髪の超〜〜〜ッ絶可愛い女の子と、水色髪のスケコマシ変態だ!見誤るなよッ!」



「……………」



 そうこうしているうちに日はとっぷり暮れ、カガリとキサカは、ついにキラを見つけることはできなかった。


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言い訳:
帽子は苦し紛れ(笑)ま…アスランも専用シャトルを持つほど、権力はないってことで(冷汗)

次回予告:へリオポリスに帰ったキラとカガリが電話で話すも、すれ違うばかり。そんな中アスランからのデートの申し込みに、キラはますます思い込む。

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