プルシャン・ブルー

第12話



「夕食おいしかったです!でも…あんな高いとこ、ホントに良かったんですか?」


 キラがそう言うとアスランはにこにこ笑って、「君と出会えた記念だから」と言った。



 確かにおいしかったけど、中流家庭のキラには「ゼロ」が一つ多かった(値段は10倍)ような気がする。


(でもまぁ、セイラン家の人ともなると、このくらいが普通なのかなぁ……)



 ぼんやり思って、頭のモヤモヤを払いのけた。


 それからまた少しマイクロユニットとプログラムの話題で盛り上がって…気がついたら日はとっぷり暮れていた。





「こんな遅くなっちゃったね」


「うん、ごめんね。あのさ、明日のシャトル、二人分もう取ってあるから今日は泊まっていって」



 キラはびっくりしてアスランを見返した。

「あ…でも……あ、いやそれよりもシャトル代……ッ…じゃない、あ…違うそれもあるけど…その…」



「怖い?」

 聞かれてキラはふるふると首を横にふった。怖いなんて、ちっとも思わない。



「じゃ、初めて?」





 そうそう!そんな感じ。

 いや実はそうなんだった。学校の行事でもなければ、家族以外の人と泊まるのは初めてで…。


 キラがうんうんと頷くと、アスランはクスリと微笑んだ。





「大丈夫!なんにもしないよ。ただ、乗るシャトルも利用する宇宙港も一緒だろ?君がヘリオポリスに着いてしまえばしばらく会えなくなるから、できるだけ一緒にいたいなって思っただけなんだ。もしかして、嫌だった?」



 あ…そうか!とキラは思った。ここに来るのでさえ寝坊したキラだ。せっかく取ってくれたシャトル代、乗らなきゃ意味がないよね。


「嫌とか、そんなんじゃないです」



「良かった!俺さ、後から気づいたんだよね。もし嫌われてたら迷惑だったなって」

 アスランは少し苦笑しながらそう言った。


「嫌いじゃないです!シャトル代だって出してもらって、迷惑だなんて……」


「じゃ……好きになってくれた?」





 キラはそう言われて初めて気がついた。

(…好き?……誰が?あ、僕か。僕が……ユウナさんを?今日会ったばっかなのに………?)





「あ…ぇと……」

 アスランはゆっくりとキラの元へ歩み寄っていった。そして彼女をその腕のなかにすっぽり包み込んでしまう。


 慣れた動作も、気が動転しているキラには判らない。



「俺は…好きになったよ。だから、君も同じ気持ちでいてくれると嬉しいな」





 キラはあいかわらず、どうしていいか判らずあーとかうーとか言いながら、バタバタともがいていた。


 しかしそんなことなどすでに計算済みのアスランは、さらにキラを惑わせるセリフをぬけぬけと吐く。





「ね、キスは……嫌い?」

 目の前の彼女が真っ赤になって自分を見上げてきているのは、よく知っていた。





「キっ…キスっ……て?あ、ぁのドラマとかでやってる…その……」



 アスランは目を見開き、一瞬固まり、そして小さく吹き出した。

(ドラマ……?あ、そうか!そうだったね。慣れてないんだ、ラクスは!…となると、これは彼女のファーストかな?)



「え?え……?」


 キラには何のことだか判らない。とにかくこっぱずかしくてここから逃れたい一心だった。


「キスするの、初めてなんだ?」



 言うが早いかアスランはがっちり捕まえていた腕をほどき、キラを窓の近くにエスコートする。


「あの……」



「見て!夜景が、キレイだから」


 開けられたカーテンから、オーブの夜景が見えた。

「ここの夜景は、南海の宝石箱って別名があるんだ」





 キラは自由になった安心感からか、しばし夜景に見とれた。


 アスランは、キラの呼吸が落ちつくまで、肩を抱いたままひたすらキラを眺めて待っていた。


 キラははたと何かに気づいて、アスランを再び見上げた。



「もしかして!この夜景を僕に見せたくて、帰りの時間を遅くしようって言ってくれたの?」



「うん。それもあるけど、やっぱロマンチックなファースト・キスにしたくて…いいかな?」





 キラはしばらくアスランをまじまじと眺めた。そのままとてつもなく時間が過ぎ、急がなきゃ!と思った時には、口が勝手に動いていた。


「キ、キス…くらいなら……」



「ありがとう。じゃ、目…閉じて」


 アスランは慣れた手つきでキラの腰を引きよせ、身体を密着させながら彼女にゆっくり口づけた。

 想像してた以上に温かくて柔らかい唇と、なにもかもが初めてでまともに応えることさえできない彼女を感じて、胸の奥がじんと熱くなるのを感じる。



 初々しい「ラクス」が、もうすでに愛しくてならなかった。


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言い訳:
なんとまぁ次から次へと、口から出任せが出てくることかこの男(笑)自分で書いておいてこんなに腹の立つアスランも珍しいや(大笑)お互いの思い違いが少しずつ明らかになっていきます。

次回予告:キラ、そのままアスランの部屋にお泊まり。…の前に、カガリもちゃんと出さなきゃね。そろそろ彼の介入が始まります。

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