桜国ものがたり〜君と僕、あの日の約束〜

 

第9話

 








































































 キラの姿を見た途端、冷や汗は瞬間的に止まり涙があふれて止まらなくなった。

「ど……どうしたの?フレイ」


「何でもないわよ」

「でも…そんなに泣いてちゃ、何があったか判んないし。それに…こんな状態の君を放っとけないよ」


「何でもないったら!キラのせいじゃないんだから、いいでしょ!」



 今の今まで、自分は何をしていたのか!キラの姿を見ると一瞬にして、犯した罪業の重さが彼女を責めた。


「でも……」

 キラには訳がわからないだろう。さりとて、イザークの名前を出す訳には行かない。キラは、さぞかし怒るだろう。



 どうにもならない感情に耐えきれなくなって、フレイは部屋の隅にうずくまったまま、本格的に泣き出してしまった。

「わかんないよ、フレイ。何があったのか言ってくれないと……」


 何も知らないキラは優しい。何も知らないだけに、「彼」は優しい。



 今の自分に優しくされるだけの資格があるとは、フレイにはとうてい思えなかった。


「困ったな…」



 フレイはもう、泣き続けるだけでキラには対処のしようがなかった。それでもキラは、フレイのの肩をさすりながら、慰める。


 大丈夫…大丈夫だから。

 今、キラにはこんな言葉しかかけられない。それがますますフレイを泣かせる。



 理由の判らない悪循環に、キラは困り果ててしまった。

「ルナマリアさん…」

「はい…」


「フレイが…今朝からずっとこんな調子で。このままだと本当に病気になっちゃうから、後をルナマリアに任せてもいいかなぁ?僕では…もう、どうしたらいいか判らなくって……」


「ぁ…はぃ……」

「ごめんね。ルナマリアさん…」


 キラは心からすまなそうな表情をして、静かに部屋を去っていった。その寂しそうな背中がルナマリアの心にぐさりと突き刺さる。

 自分もあのとき止めていれば…。そんな後悔が心を席巻した。





 その頃。イザークは自室にてショックのどん底にいた。

 いや!それは確かに自業自得だ。今さら「不可抗力」とか「仕方がなかった」なんて言葉で誤魔化せるたぐいのものではないことは、重々知っている。


 だからこそ、よけいにマズかった。なにせ、フレイの夫は親友キラだ。この間、せっかく堂々と左大臣邸に入り浸れる理由を見つけられたというのに。こんなことが明るみに出た日には、もう自分は二度とキラの目の前に姿を現すことなどできない。

 それは都じゅうの笑われ者になることなどより、はるかに辛かった。


(と…とりあえず……しばらく顔を合わせない方がいい、な…)



 今まで何もなかったとは言え、密通がばれるのは時間の問題だ。それ以上にやましいことがありすぎて、自分自身の心に整理をつけるのにある程度の時間が要りそうだった。





 でもって、さっそく翌日。

「こんちわ〜!イザークぅ〜居る?」

 何にも知らないキラは宮中の仕事場にひょいと顔を出す。


「あれ?来てないの?」

「ああ、キラ君。イザークは方角が悪いから、しばらく休むって連絡あったけど?」


「ええ〜?また触りぃ〜?」

 キラはげんなりする。

 全く!信じていない者にとってはやっかいなこの習慣。でも「まぁいいや。しばらくしたら来るんだし」と高をくくっていたら、いつまで経ってもイザークは仕事に来なかった。





 ………で、

「ええ〜〜っ!今度は病気!!?イザークが?」


「うん。なんかヘンなこと言いながらずっとうなされてるって話聞いたけど、大丈夫かなぁ?物の怪にでも取り憑かれてないと良いんだけど……」

 物の怪………。そんなの居るわけないだろ、とキラは個人的に思う。ま、それも個人の信心だから別にどうでも良いんだけど…。


 それにしても、長い。見舞いに行くぐらいなら構わないかなと思い、キラもその日は早引けした。



 でもって、その日はまっすぐに自宅に帰らずにそのままイザークの部屋へ直行する。





 …が、

「え?会えない?そんなに具合悪いの?」


「う゛〜まァ……そのぉ…何と言いましょうか〜〜」

 粗方事情を知っている部下レイは言葉を濁す。こんなところにキラに来られても、ハッキリ言って困る。気まずいことこの上ない。


「でも、うつる訳じゃないんでしょ?だって君がずっと付いてるわけだし」

 キラの目の前の部下……確かに彼はピンピンしている。


 伝染性の病気じゃないなら良いよね?と言われ、ついに彼には為すすべがなくなってしまった。仕方ないから、先に部屋に行ってイザークに耳打ちする。


「何っ!?キ…キラが……。来なくていいっ会えないと伝えてくれぇッ」



 そしてこんな時に限ってひたすら悪い、間。

「イザーク?なんだ…もう起きあがれるの?良かった〜僕ね、すっごく心配したんだよぉ〜」


 寝てる姿ならまだしも、こんなところを見られてしまってはもう、「病気」路線は使えない。

 イザークは思わず部下をにらみつけた。レイは「不可抗力です」と言わんばかりに、ぶるんぶるんと首を振っている。



 イザークが微かに「チッ!」と舌打ちした頃、キラは既に彼の眼前に迫っていた。心底心配そうにのぞき込むキラ。

 その深い紫色の大きな瞳が…細い首元が…なんとも匂い立つような線の細い身体が………無言でイザークを誘っているようにしか見えなかった。



「…う゛………」

 その瞬間キラの表情がさっと青ざめた。


「だ…っ大丈夫?イザーク!どこか痛いの?苦しいの?」

 キラは勘違いしたまま、ますますイザークに詰め寄る。それは滑稽なほど悪循環でしかなかった。


(痛いさ、心が!苦しいさ、胸が!そんなに近寄るな〜〜〜キラぁあああ…。手が……手が…無意識にお前を抱きかかえてしまいそうになる…)

 イザークは今、別の意味で大ピ〜ンチだった。



「だ…大丈夫……だ。もうかなりっ良くなったから……」

 どう考えても苦し紛れ。いつものようにすらすらとしゃべれない。


「でもやっぱどこか苦しそうだよ…どうしよう。フレイだってなんか調子が悪そうなのに…」

 フレイ!と聞いてイザークの心臓は更にドッキ〜ン!と跳ね上がる。


「問題ないさ、キラ。じっとしてれば治るって医者に言われてる、から」

「そ…そうなの?あ、じゃ…ごめんねイザーク。でもっ早く治るように、僕一生懸命祈ってるねv」



「ぁ…ああ……」


 何も知らないが故の心からの笑顔。

 それを裏切ってしまった自分が限りなく汚いもののように、イザークには思えた。


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言い訳vキラ×フレは『種』時代みたいで懐かしかったです。

次回予告
フレイ妊娠!!!
























































































































































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