桜国ものがたり〜君と僕、あの日の約束〜

 

第10話

 








































































「危機一髪だったですね…」

「この場はなんとか逃れても、依然崖っぷちであることに代わりはない!」



「あぁ…でもソレって思いっきり自業自得ですよ?」

 的確すぎるレイの一言が、今のイザークには痛すぎる。


「いつも思うが…出来た部下だよ。お前は…」

「私のもう一人の上司はエザリア様ですからv」


「………ふんっ……」





 と、何ともイザークたちがホッとしていた頃………右大臣家ではキラがひたすらとまどっていた。

 果たしてこれは「大ピィィ〜ンチ」なのだろうか?

 それとも「大ラッキィィ〜〜〜」なのだろうか?



 バルトフェルドが上機嫌でキラの肩をばしばしたたく。そのたびにキラはよろけ…それでもずっとフレイの方を見ながら目を丸くしていた。


「う゛〜〜〜…」

 目の前のフレイはずっと手で口元を押さえ、ルナマリアに背中をなでてもらいながら、気持ち悪いと言い続けていた。


「ねぇっフレイ…顔真っ青だよ。やっぱまだどこか悪いんでしょ?じっとしてなきゃ」

「ナァ〜にを言うんだ!キラ君ッ!やはり君を見込んだ私の目に狂いはなかった!よくやってくれた!」


「イヤ…バルトフェルドさん、フレイは思いっきり具合が悪そうなんですが……。僕たちここにいない方がいいんじゃないですか?」

「まったまたぁ〜!そんなこと言って、この張本人がv嬉しいのは君も一緒だろう?」



「スミマセン……。意味全く判りません…」

「そんなに謙遜しなくても良いんだよ、キラ君。さ、フレイだって今はとても不安だろうから、側についててあげるといいよっ」


 ところがそんなことされて都合が悪いのはフレイの方だ。


「パパうるさいっ!もう、辛いんだから、一人にしといてよッ」

「お〜こわ!もうすっかり娘はオトナになったんだなぁ〜!パパは嬉しいよ!」


 やっぱりバルトフェルドはキラの背中をバシバシたたきながら、非常にご機嫌で自室に戻っていった。





「う゛〜〜〜ぎぼぢわるい…きぼぢ……う゛っ………」

「あ…あの………フレイ…?」

 何のことだかサッパリ判らないキラが、オロオロしながら話しかける。



 その姿を見て、ルナマリアがキッとキラをにらみ据えた。

「キラ様…お話しがあります」


「ぇ?あ……うん………。じゃ、フレイごめんね。また来るからね…」

 そう言ってキラはルナマリアに先導されて、少し離れた別室に移動した。ちなみにフレイの「もう、来なくていい」と言う独り言は、キラには伝わらなかった。





「ねぇルナマリアさん。フレイ一体どうしちゃったの?なんかすごく具合が悪そうなんだけど、バルトフェルドさんなんかは上機嫌で……僕訳わかんないよ」


「……………」

「信じたくはないけど、これが物の怪ってヤツ?」



「………………」


「ね?君なら何か知ってない?知ってることあったら僕に言ってよ!じゃなきゃ何にもわかんないよ…」



 ルナマリアは思う。果たしてキラはそこまで純粋培養すぎただけなのか?


 それとも、本当に「あんぽんたん」なのか……。



「ホンットーに何にもわからないんですか?」


「え…?何が?」

 出た…。キラの名ゼリフ。このぽやぽやした疑問のセリフを、今まで何度あり得ないところで聞いてきたことか。



「姫さまはね…デキちゃったんですよ」

「えっ?何が?大っきなイボとか?」

 青くなるキラ。しかしそんな本人の正直さはルナマリアには伝わらない。


「張り倒しても良いですか?も〜どーしてあなたという人は、頭は良いのに鈍感なんですか…」

「………?ごめん…本当に、よくわからないんだ…」


「子供がですよ!」

「……………は?」


「だから、今姫さまのお腹の中に、子供が居るんです」

「え?そうだったの!!だから、みんな喜んでたんだ…」

「………っつ〜か、あなたそこまで言われてまだわかんないんですか……?」

「ん〜〜〜だから…何が?」


「子供が出来たってことは、あなた以外の男の人とアッハンウッフンなことをしたってことです!」



「ええっ!子供って…フレイ一人じゃ作れないの?」


「………………………」



 ルナマリアは思う。アンタはバカか!と。キラの顔はひたすら「?」で埋め尽くされている。


「一人で作れるなら結婚する意味ないでしょ!」

 キラは自分の目の前で手をポンと打つ。


「あ〜〜〜〜〜そっかぁ〜〜〜〜〜!」



「やっと判りましたか?」

「それって、みんなが言っている不倫ってヤツのことなんだね」



「………。なんでそんなとこだけ耳年増なんですか!」

「フレイに…僕以外のオトコかぁ〜〜?」

「やっと判りました?」


「ううん!やっぱサッパリ実感もてない」



 その瞬間、ルナマリアの目の前がにわかに暗くなり………彼女は貧血で倒れてしまった。



(ダメだ………ダメだコリャ……………)


 キラの心配する声も、ルナマリアには届かなかった。





 結局、一人ではどうしようもなくて、近くにいた人にルナマリアの介抱を任せ、キラは再びフレイの部屋に戻った。


「あ…ぁの、フレイ?大丈夫?ずっと一人にしててごめんね」

「何で帰ってきたのよ!」

「いや…何でっ…て」


 キラは言葉にとまどう。



「知ってるんでしょ!あたしのこと、全部知ってるんでしょ!だったら一人にしといてよッ」

「…ごめん」


「何よ!何よ!何でアンタが謝るのよッ」

「フレイ…」

「言えばいいでしょ!なじればいいでしょ!全部あたしのせいだって!」

 涙を浮かべながら、強い語気で向かってくるフレイにキラはうろたえた。



「ごめん。僕だって悪かったんだよ…。君のこと…もっと気をつけてあげてれば良かったのに…」


 ぱしん!


 フレイの細い手がキラの頬を打った。

「ぇ…」


「辛いのはアンタの方でしょ?滑稽なのはアンタの方でしょ?父親でもないのに、生まれてくる子の面倒見なきゃならなくなって……笑えちゃうわよね?どこの馬の骨ともわかんないような男の子供を!」

 フレイに泣きながら言われて、キラは苦しかった。もう少し優しくしていれば…なんて思っていた自分は間違っていたのだ。少なくともフレイは、そんなことを望んではいなかった。


 ひたすら泣きじゃくるフレイに、どう対処したらいいのか見当も付かなかった。


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言い訳vフレイもそうだけどバルトフェルドさん…ほんと違和感なく書けました。

次回予告
イザーク→カガリ………その思いが叶わなかったとき、想いはキラへ向く。
























































































































































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