第8話
「誰よ、アンタ。キラ、じゃ……ないわね…」 「姫さま!」 やばいと思って身を翻す。しかし、フレイの目は鋭かった。 「逃げないでよ!逃げるくらいなら、はじめから来なきゃいいでしょ!」 「姫さま!お入り下さい」 ルナマリアがフレイを部屋に入れようとする。しかし、その手を彼女ははねのけた。 「黙って見逃せ!」 「アンタ人の話聞いてなかったの?あたしはアンタは誰かと聞いてんのよ」 「チッ!うるさい女だな……」 舌打ちしてからのイザークの行動は早かった。逃げようとしていたのをやめ、素早くフレイに近寄り彼女の後ろから手で口を塞いだ。 「ん〜〜〜〜〜ッ!」 あまりのことにルナマリアは手も出せずに、息を呑んでいた。 まかり間違ってこのまま姫がさらわれたり、殺されたりしたら申し開きが立たない。 「黙れと言うのが判らんか!お前は!」 「ぁ…っぇ……」 「今ここで見つかるとやばいんじゃないのか?」 フレイの身体がびくりと震えた。 相手は身体こそ細いものの、一応男だ。このまま連れ去られでもしたら、フレイとルナマリアだけでは防ぎようがない。 仕方なく彼女は、強ばっていた力を抜き、背後にいるイザークの方に振り返り………そして絶句した。 (きれい……。キラよりきれいかも…) 「やっと判ったか」 「やばいのは……お互い様でしょ?アンタだって、今見つかればパパに捕まっちゃうんだから!」 「じゃぁ、大人しく俺を見逃してくれるな?」 イザークの少々高飛車な物言いに、フレイはかちんと来たのか、キッと彼をにらみ据えた。 「じゃ、アンタの素性を教えなさいよ。ここにいるってことは、アンタは私のことは判っているんでしょ?」 遅々として進まない事態に、イザークは焦り…フレイを抱えたまま、そのまま彼女の部屋の中にその身を躍り込ませた。 「何するのよ!」 「仕方ないだろ!お互いばれちゃやばい身なんだから。少しは俺の言うことも聞け」 焦ったイザークの手がフレイに当たる。当たり所が悪かったのか、彼女はやたらなまめかしい声を出して嫌がった。 「何すんの!あたしは……」 ポカポカとイザークの胸ぐらをたたくその拳が、確かに女の手だ。小さい。それはふとイザークにキラの握り拳を連想させた。 (この女が、キラの妻か…予想外の展開だ。今、キラが夢中になってるっていう女…この女がキラを独り占めしてるんだ) そう思うと、目の前の女が急に憎くなった。 キラは今このフレイ姫に夢中になりすぎて、他のことが全く目に見えていないのだと、瞬間的にそう感じた。 だから………そのまま…イザークは、彼女を奪った。少しでもキラの目が彼女から逸れるように。 今この場で、イザークはそれしか彼女を黙らせる方法を見つけられなかった。 ……………が! (何で……?) 目の前の証拠を見るたびイザークの頭は?で占められる。 (いや、コレはコレでやばいことに代わりはないんだが………) それにしても………。 (っつ〜かキラ!お前今までナニやってたんだ!) 最初はまさかと思っていた。だが、今イザークの目の前には、それはそれはハッキリクッキリ「証拠」が残っている。 しかも、だ。 「大丈夫って言ったじゃないッ!なぁ〜〜〜にが、俺に任せろ、よ!」 「す…っすまん」 立場は完全に逆転していたのだった。 「口先だけで謝ればいいとでも思ってるの!」 「だからすまんと言っとるだろう」 「もうちょっと優しくしてくれたっていいじゃない!」 「ッ!それは…お前が………」 言い募ろうとして、イザークは言葉を濁した。それは彼でも不思議でたまらなかったこと。 <キラは…フレイ姫に手を出していなかった!> 「もう二度とあんな痛い思いはごめんよ!」 「だからそれも言っただろう!次からはそんなことないって」 「わかんないじゃない!アンタ特に男だからわかんないのよ!」 「だ〜ま〜れ!男だって…辛いときはあるわい!それに、アンタアンタ言うな!名前は教えてやったろうが!」 「聞いたわよ、イザーク…」 きゅぅ〜〜〜〜〜ん! イザークの目の前で花が乱舞した…ように見えた。 (し…しおらしいと、可愛い……かも…) 「そんなことより、イザーク」 きゅぅんきゅぅんきゅぅぅ〜〜〜ん! 加速する恋心。それにフレイは現実的な冷水を容赦なく浴びせる。 「ど…どうしたフ、レイ……姫」 「夜が明けるわよ。いつまでもこんなとこに居ちゃまずいんじゃない?間男さん」 「判ってるッ!」 「そんな言い方ないでしょ!私だって…今キラに来られちゃまずいから、そう言ってるだけよ」 フレイの心情に、ふっとイザークの気持ちが軽くなった。 いきなり来て、いきなり奪っていった男の身をここまで心配してくれている。少し余裕を持ってフレイの顔を見ると、評判通りかなりの美少女だった。 「判っている、フレイ。お前のせいじゃないんだ。巻き込んでしまったのは俺の方だから」 少しほほえんで語りかけると、フレイの頬が微かに染まったようだ。 「ま……っまたっ来るからなッ!」 そして…イザークはフレイの前をかっこよく去っていったあとに、重大な追加ミスを犯してしまったことに気づいた。 (あ…イカン!また行ったら今度こそやばい!) しか〜し!この世界にはちと面倒くさい習慣があった。 そう!後朝の文(きぬぎぬのふみ)だ。ウッフンアッハンなことをして別れた男女は、すぐに男の方からラブレターを送らなければならない。 世の常識を、この時ばかりはイザークは恨んだ。そうは言っても、送らなければ本格的に非常識な単なる間男になってしまう。 「くっそぉぉぉおおおッ」 などと憤慨しつつ車の中で手紙を書く。それをすぐさまフレイの元へ届けさせた。 そうしてフレイがそれを読んで、すぐさまゴミ箱へ捨てた直後、何にも知らないキラが夜勤から帰ってきた。 (か…っ間一髪ぅ〜〜〜) フレイから吹き出る玉のような冷や汗。 なぜならイザークはキラの親友。特にバレたらやばい手紙だった。 第9話へ→ 桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜 言い訳v*今はやりの「ツンデレ」ですか?イザ×フレも、嫌いじゃないですよ。 次回予告*入れ替わるようにしてキラが帰ってくる。そして問題のイザーク…早くも大ピィイ〜ンチィ!!? |
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