第7話
左大臣邸。キラの部屋近く。 この間から、イザークは何となくヘンな気分だった。寝ても覚めても、キラの顔が頭から離れない。 まぁ確かに親しい友人として、四六時中一緒にいるようなものだから、全くウソという訳ではないが……この気になりようは、今までとは違う種類のもののように思えてならなかった。 友人として考えるならば、明らかに逸脱したもやもや感だった。 正面玄関から訪問し、堂々といつものようにキラの部屋に行けばいいものを、この日だけはなぜだかそんな気になれなくて………いわゆる覗き魔のようなことをしていた。 (しまったな…やはり堂々と入れば良かったか。〜〜イヤでも、黙って来たんだし、ここまでくればこんなことキラに見せられるか!) 抜き足差し足………生まれて初めて泥棒のようなまねをしている自分に、イザークは内心苦笑が止まらない。それでも、気になって仕方がないこの気分は、もうどうしようもなかった。 意を決してそのまま屋敷の下から進む。途中、見事に迷い、やはり断念しようかなどと考えていたら、都合良く人の話し声が聞こえた。 「もう、荷物とかは良いの?」 「いいさ。どっちみち向こうにある程度そろってるし。また要るなら持ってこさせるから」 「カガリ…」 「大丈夫さ近いんだからさ。ほらそれよりもキラ、その笛…もっとちゃんと見せてみろよ」 「あ、うん」 床下のイザークは一瞬びくりと震え、周囲に誰もいないことを確認すると、ホッと深いため息をついた。 (迷ったせいかな?案外ビンゴだったな) 考えるまでもなく彼は、真上から漏れ聞こえてくる会話に耳を傾けることにした。 こんな機会…滅多にない! 自分の知らないキラが、今真上にいる! しかも相手は噂に名高いカガリ姫だ。きょうだいだけに見せるキラの素顔が、無性に気になった。 「へぇ〜案外小さいんだな」 「一口に笛って言っても、たくさん種類があるんだよ。少しずつでも、ちゃんと覚えて行かなきゃいけないね」 「お互いな。ほら、琴もここにあるからさ」 「うわぁ、すごいね〜」 「じゃぁさキラ、なんか吹いてみろよ」 「カガリこそ…」 「じゃ、合奏するか?」 「あ!それいいね!カガリなんか弾いてよ、それに併せて僕が吹くからさ」 「よし。曲は何でも良いよな」 「何でも良いよ」 すぐに笛と琴の合奏が聞こえてきた。その美しい音色に床下のイザークは夢中になる。今まで気になっていた、頭にかかるクモの糸などどうでも良くなるくらいに。 「キラ………。俺のいないとき、こんなことしてたのか」 無性にうらやましくなった。 いま、どうしてキラの前にいるのが自分ではないのだろう?即興でこれだけ吹けるキラ。琴の音に合わせてくれるキラ。 この時ばかりはキラは目の前の相手に集中しているに違いない。 正直……今はカガリ姫がねたましかった。 「そういう風に……俺のことを見てくれればいいのに…」 キラにとってイザークは、いつまでも仲の良い親友だった。カガリのように自分の中に深く入り込んでこようとはしない。 それは確かにカガリ姫はキラのきょうだいなのだから、遠慮がないのは当たり前だろう。 それにしても、だ。 自分だって「そういう目」で見られたい。 (くそッ!こんなとこにいては、何にもならんッ) イザークは深く悩み、こっそり自宅に帰ってもさらに悶々とし、そして行動することに決めた。 「うだうだ悩んでも何も始まらん。とにかくキラに会えばいいんだ。キラだって、会いに行けば俺を拒んだりはしない」 そうだ。今夜訪ねていけばいい。 簡単なことだ。イザークはそう決意し、部下にいつもより少しだけ上品な香をたきしめさせた。 「いない?仕事…ですか?」 「ええ。本日は夜勤ですから、内裏の方に行っちゃいましたけど…。ご連絡しましょうか?」 シンが気を遣う。 しかし、この時ばかりはイザークは躊躇った。そんなことなどないはずなのになぜだか、心に後ろめたいものを感じてしまう。昼間ノゾキをしたことが、心に引っかかっているのだろうか。 「いや、いいんだ。居れば…と思って寄っただけだ。他に……用事もあるからッ、今夜はこれでおいとまするっ」 そう、言い捨ててイザークは左大臣邸を去った。だが……、 「しまったな……」 その場逃れのウソだった。 「…と言って、他に行く当ても………ぁっ」 思い出したように手をポンと打つ。どうせ、自宅にもしばらく戻らないと言って出てきているし、今のこのこ帰るのも、こう…プライドが許さない。 そんなときふっと思いついた訪問先………それは、右大臣邸だった。 「そっと覗くくらいなら…誰もとがめはしまい」 車の中でひとりごちる。月夜の明るくてらす大通りを、そのまま右大臣邸に向かって進んでいった。 どんなにゆっくり進んでも、所詮「ご近所」だ。屋敷に着くのにそれほど時間はかからなかった。 「とりあえず、部屋でも判れば良いのだが……四の君というと、フレイ姫か」 車から降りて、屋敷の中にそっと入る。 門扉は開いたままだった。きっと帰りにキラが寄るかも知れないと思って、家の者が気を利かせて開けているのだろう。 忍び込むには、なるほどちょうど都合が良かった。 「この辺りか……?」 しばらく歩いて辺りをうかがう。 幸い時刻は深夜。昼間のように部下がうろうろしている訳ではない。 そうは言ってもここは女性の部屋近くだ。決して捕まる訳には行かなかった。警戒しながら歩いていると、女の声が聞こえた。 「姫さま。あまり端に寄られますと危ないですよ。キラ様がごらんになられたら、おてんば娘なんて思われますよぉ」 「良いわよ!キラなら。私が何言ったって怒ったりなんかしないわよ」 「それはキラ様が優しいからじゃないですか」 「だったらいいじゃない!パパがあんなに言いふらしちゃったせいで、どうせ来るのはキラだけだもの。見つかったって良いじゃな………」 「…?……」 自分はどこまで間が悪いのだろう。イザークは我が身を呪った。 隠れて聞いているつもりがフレイ姫と、しっかり目が合ったのだ。 第8話へ→ 桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜 言い訳v*ぐぁっなんという偶然!イザークの回の文字色は何と紫…。紫って…そぉいう色だよね(滝汗) 次回予告*予告のイザフレ…ところがなぜかマジメな話にはなりません。ここのイザークはどっちかっつ〜と『フルメ●ル・パニック?ふもっふ』のあの方みたい(大笑) |
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