桜国ものがたり〜君と僕、あの日の約束〜

 

第5話

 








































































 左大臣ウズミはこの日何度気絶したか知れない。

 意識を取り戻しても顔面蒼白で、何を話しかけても、目の前で手をヒラヒラさせても、全く気づかない事態が続いた。


「父上…父う〜えっ?」

「……………」



 ウズミの目の焦点が合い、彼はカッと瞳をぎらつかせたかと思うと、途端にすさまじい勢いでキラに言い募った。

「キラぁあああっお前のせいだ…お前がわがままを通すからこんなことになるんだぁあ」


「……………は?」


 キラにはサッパリ事態が飲み込めていない。

 今日もご機嫌で仕事を終え、帰ってきたらこの調子。


 キラの部下、シンに父が大変なことになっていると聞かされ、いつものことかと思いながら部屋に入ったらいきなりコレだった。



「我が家はもうお終いだぁあ〜〜〜。キラっ…もう、一家で無人島0円サバイバル生活で、伝説を築くしかないッ」

 キラでなくったって、急にこんなこと言われて解るわけがない。


「………何の話ですか…?ってか、何のことだかサッパリ判らないんで、最初から順序立てて話してくれます?」

 瞬間、ウズミの目が黒く光った。



「いいだろう。これはツケだ…我が家の……犯してきた罪のツケだ…」

「すいません。ますます判りません…」



「聞いて驚け………。お前の…もう一人のきょうだいが…尚侍として宮廷に上がることになった」
※尚侍…ないしのかみ、と読みます。仕事内容は〜まー、小間使いです。


 キラは、ウズミの言葉を聞き一瞬固まったものの、しばら〜く考えて冷静に言った。

「…ってかそれ、予想の範囲内じゃない?」



 ぶくぶくぶくぶく………。

 ウズミは泡を吹いて倒れた。





 1時間後、なんとか復活したウズミは、怖い顔をしてキラを説得にかかる。無駄だと判ってはいても……。

「キラ…今でも遅くはない。あいつと…カガリと入れ替わらんか?」


「……てかそれ、無理でしょ?いまさら」

 キラは真顔で答える。もちろん大まじめに。


「即答するなぁ〜〜〜!バカもんがああッ。東宮さまの後見人だぞ!理由がなきゃこの屋敷に戻れないんだぞ!」


「尚侍でしょ?そりゃぁそうでしょ!住み込みなんだから」



「お前も…ちったぁ考えるということはせんのか!アホんだら〜〜〜。尚侍と言ったらなぁ!院や帝のお目に止まる機会も高い………となれば、ど〜いうことか判るだろ!」


 キラは笑顔で手をポンと鳴らす。

「仲良くなれるかなぁ?あの子って僕と全然タイプ違うんでしょ?ちゃんとやっていけると良いんだけどv」



 冷ややかな視線がキラをぐさりと突き刺した。

「いっぺん死んでくるか!」

「それは絶対にイヤ!」


「お前ははっきり言わなければ、まっっったく判らんようだからえぐい表現をしよう。帝や院のお目に止まるということは、そのままアッハンウッフンなことをされ、手込めにされると言うことだバカ者」



「それってあの子が結婚しちゃうってこと?」


「…………………。キラ?基本を確認して良いか?カガリは男なんだが………」



「あ”ッ!ぁあ”〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」



「今頃気づいたか……」

 だからお前を世に出したくなかったんだ。そう言わんばかりにウズミは額に手をやり、天を仰いだ。

 ため息が、止まらない。

 この娘…頭の回転は速いのに、肝心な部分に気づかないのであった。





「でも…どうしよう?僕さぁ…帝にもんのすごく気に入られてるみたいなんだよね〜〜〜」


「……………ぇ”…………………」


 脂汗も…止まらなくなった。

「…って、イザークが言ってた。僕にはよく判んないけど。だって、みんな親切なんだもんv」



 バターーーーーン!


 キラの目の前でウズミはカニのように口から泡を吹きだし、倒れたまま戻ってこなくなってしまった。父の気持ちは解らないでもない。

 でも、これだけ毎日のように帝と話しなんかしてりゃ、入れ替わった途端ばれちゃうよね?

 それはそれでやばい気がしない?





「こんなことになるなんて、僕だって想像してなかったんだよ…」


 白目を剥いて気絶したままの父を無情にも、放ったらかしにしたまま自室に戻り、キラはブツブツと独り言ワールドに入ってしまう。



 世の中は自分に優しい(気がする)

 友達だってたくさんできた(これは本当)

 帝の覚えもめでたい(らしい)



 正直、今のこの生活スタイルを手放したくはない。仕事だっておもしろいし、やりがいもある。それに…自分には、他に目的もある。


”ぜったいわすれないからね”

”かならずまた会おうね”


 言葉尻だけが、キラの記憶に微かに残っているこの言葉だけが、今の彼女の原動力でもあった。

「約束…したもんね。絶対、また会おうって。その約束…僕が忘れてちゃダメなんだよやっぱ」


 だが、尚侍として出仕する日はもう近くに迫っている。今急に入れ替わったとしても、ほぼ間違いなく辻褄が合わなくなるだろうことは容易に予想は付く。何せ自分とカガリとは違うのだから。特に髪の長さはごまかしようがない。

 カガリは切ればいいが自分は?


「それでも………」





 そう最後に呟いてキラはその場を立って、カガリのいるという部屋に向かった。

 カガリの母親が止めるかも知れないが、ことは急を要する。無理にでも押し通るつもりと息巻いたが、行ってみると結局何の苦労もなくカガリの部屋の前に着いてしまった。


(こんなことなら、もっと早くに来るんだったな〜)

 そう思いながら声をかけた。するとすぐに中から、カガリだろう。返事がした。


「入っちゃ…ダメかな……?」

「構わん、入れよ。きょうだいだろ?」

「ぁ…うん……」


 そっと部屋に入ると、長く伸びたきれいな髪の毛と、とてもきれいな女の子独特の衣装が目を引いた。


「ぅわっすごい着物だね…」

「今朝からずっとこれだよ。重い上にきつくてしようがない」


「うん、僕のせいだね。ごめんね」


「お前の…キラのせいじゃないさ。俺だって、小さい頃は病気がちでしょっちゅう寝込んでたからな。抵抗できない俺に母上がこんなもの着せるから、ついこないだまで俺だって女の子だと信じて育ってきてたし」


「そっか。僕たち二人とも勘違いしたまま育っちゃったんだね」

「………みたいだな」



「ねぇカガリ。尚侍の話聞いたんだけど……その、院や帝に手込めにされるって、聞いて…僕、びっくりして……」

 キラが言うとカガリは、すぐさま笑い飛ばした。



「だから、帝じゃなくて東宮の後見人という話だったからOKしたんだよ。実際女性ばかりの職場だし」

「え…っ?」


 キラは目をしばたたいた。


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言い訳v『種です』のキラセリフ「うわ!すっごいドレスだね…」の時代劇版vいんやぁ、公式設定(キラ♂カガリ♀)を考えるとこの状態の方が正しいんですが、なんでこんなに違和感がするんでしょうね。

次回予告
子供…大暴走!→のツケがカガリにやってくる。次回、東宮ラクスの脅威。
























































































































































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