桜国ものがたり〜君と僕、あの日の約束〜

 

第4話

 









































































 あれよあれよと言う間に、キラはフレイ姫と結婚することになってしまった。

 とは言っても、通う屋敷が増えたという程度のものだ。キラは基本的に左大臣ウズミの屋敷に住みながら、夜だけ右大臣家…つまりフレイ姫の元を訪れる。

 そして将来の后がねが生まれればいい、世の中が期待するのはそのことばかりだった。





 右大臣家を訪れると、バルトフェルドさんへの挨拶もそこそこに切り上げられ、ルナマリアに姫の部屋に通されてしまった。


「キ…キラです……。よろしく…」



「フレイよ!何してんの?ボーっと突っ立ってないで座りなさいよ」

「あ、うん…」


「アンタでも我慢してあげようって言うんだから感謝なさいよ。あ、でも飽きたなら早く言ってよね。私だって次の恋を見つけるんだから!こんなとこで小さく収まってる気なんて無いもの!」

「そう…かな?でも、とりあえず、こんなことになっちゃったんだからさ、ちゃんと…話とかしてみない?」


「それもそうね。私だってアンタなんて全く知らないもの。いいわね、とりあえず話をすることから始めましょ」


 初めて会ったフレイは最初からこんな調子だった。


 ついこないだ話をしたタリア姫とは全然違う感じの人だ。同じ姉妹でもかなり性格が違うもんだなと、キラは驚かずにはいられない。


 でも…フレイ姫だってすごい美人だ。そんなに悪い気はしなかった。



「ま…いっか。どっちみちやばくなったら入れ替わるんだし。フレイのとこ行くのは夜だから、そんな顔なんてはっきり見える訳じゃないし……」


 ちょっとプライドが高いけど、悪い子じゃない。

 それに、入れ替わったときにちゃんと本当の結婚生活が送れるように、フレイと仲良くしておかなくちゃ!


 キラには新たなプチ目標ができた。





 数日後。仕事も休みだったので、自宅での〜んびりくつろいでいると、急な来客があることを知らされた。誰だろうと思っていたら、イザークで……。


「キラ…」

「イザーク!どうしたの?今日お仕事は?」

「今日はダメだ。行かれん」


「あ…なんか障りがあるの……」
※出勤日であっても、占いでその方向が悪い場合、連絡さえずれば無理に出勤しなくてもいい習慣。ずる休みの口実などにも利用された。



「知らん!陰陽師がそう言うんだ。無理に行って、同僚から気味悪がられるのも癪だからな…」
※陰陽師…いわゆる占い師



「あはは。まぁね。所詮占いだからって、僕も思うけど…信じてる人多いもんね〜」

 キラは笑い飛ばす。

 隣でイザークが小声で、ふんっとふて腐れていた。



「大丈夫だよ。気にすることなんてないよ、ね?イザーク」

 そう、ほほえみながらキラは、イザークの肩を細い手でポンとたたく。


 その、間近で見るキラの指先が、男にしては細すぎるような気がして、イザークはそこへ自然に視線が向いた。



(誰彼構わずそんなことするなよ、キラ。俺でさえ…時々………お…女みたいな手だって……)



 白く、細い…自分の手のひらでも充分包み込めそうな指が、今彼の目の前にあった。

 急に心臓がどきんと高鳴る。


 イザークは、今自分が狼狽していることがバレやしないかと、キラをのぞき込むが、どうも目の前にいるキラは相変わらずのキラで……。

 意味がわからないのか、キラは小首をかしげてきょとんとしていた。





「こ……この前言ってた笛の件は…あれからどうなってるんだッ?」

 話の継ぎ目に困って、イザークはやっとの事で別の話題を振ることに成功した。



「笛?あ、そうそう!あれからね、色々と試してみたんだけど、やっぱダメ…」


「なぜだ?指が届かない訳でもあるまい」

「ううん。そんなことじゃないの。結局…イザーク以上の笛の名手はいなかったってこと」


「何?」


 立場がにわかに逆になった。真剣な表情のキラと、目が点になるイザーク。


「だから、イザークが教えてよ」



「そ…れは、構わんが………」


「父上も言ってたもん。上手な人に教えてもらわないと、ヘンなくせを覚えちゃって、なかなか直んないんだって」

 イザークは、本格的にうろたえた。

 なぜならば、キラは真剣になるあまり自分の腕をぎゅっと掴んでいる。その腕が…今自分を凝視してくる澄んだ紫の瞳が…そして、わずかにかいま見えるなまめかしい喉元が………全てが自分を色の道に誘っているとしか思えなくて……。





「……………」


「ダメ?僕じゃ、ダメかな…?」

 それはまさに決定打。雰囲気に呑まれ、イザークは即答でOKしていた。


「お…俺で良ければっ全然…構わんぞっ!」

「やったぁあああ〜〜〜〜vありがとう〜イザーク〜!持つべきものはやっぱ友達だよねぇ〜♪」



 イザークの目の前でキラは無邪気にはしゃいでいる。

 確かに、これから笛を教えるという名目で左大臣家に遊びに来られる。そして…ともすればキラのそのなまめかしい指に、触れる機会もあるだろう。

 それは…正直なところ嬉しい。

 きっと触り心地も、良いんだろうな。



 しかしこのことはやはり諸刃の刃でもある。

 目の前のキラを見る限り、どう考えてもこいつは恋愛感情じゃぁない。


 確かに、男色なんて昨今珍しいことでもないが、キラを「そう言う目」で見るのは躊躇われた。



「じゃっ今度からイザーク先生、だね!よろしくねっ先生」

 相変わらずのほほんとして嬉しがるキラに、かぁっと赤くなって思わず大きな声を出してごまかした。


「ば……ッバカ者っ!誰が先生だ!そんなこと言うヤツには教えてやらんぞ」



 心とは正反対に口走ってしまうセリフ。イザークは自分で言いながら寂寥感にさいなまれる。

「だって……先生でしょ?」


「友達だって言ったろ!キラは…それで良いんだ!」

 キラは再びきょとんとし、それから何かが割れたように大笑いしだした。


「そこは笑うところじゃないッ」



「あははははは…っごめん、ごめんねイザーク。そうだよね?これからよろしく、イザーク」

「それで……良いんだっキラ」


 イザークは、嬉しいのかやばいのかよく判らないが、とりあえずこれからもキラの側にいられることに安心した。





 だが、心温まるひとときも束の間。左大臣家は非常に切迫していた。


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言い訳v「イザーク先生」が書きたかっただけなんです。さすがに、伏線ばかりではつまらないので(笑)それと、フレイは決して悪い子じゃないですよ。プライドが高すぎて、心を開けないだけです。

次回予告
ついにカガリにもその手の話が!ウズミが白目を剥いて倒れる中、キラとカガリが初対面する。「無人島0円生活」か「1ヶ月1万円生活」か…左大臣家の明日はどっちだ!?
























































































































































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