桜国ものがたり〜君と僕、あの日の約束〜

 

第3話

 








































































「結……婚………!?」


 よく晴れたある日、キラの素っ頓狂な声が関白左大臣邸にとどろき渡る。顔面蒼白になった父が、話があると言うのでやれやれと思いながらやって来たらコレだった。



「……誰が…?」


「キラがだ!」

「………誰と……?」



「右大臣の四女とだ」

 そうは言われても何の話だか全くピンと来ない。それどころか心当たりさえない。



「僕…この話……初耳なんだけど…?」


「私だって初耳だ」



 気まずい沈黙がこの場を覆う。

「じゃ断ればいいじゃん?」


 まさかこんなにも早く話が来るとは全く想像してなかった。



「それが出来れば苦労はしてない!なんとしてもこの話を成功させたがって…バルトフェルドのヤツ、ラブラブだことの、毎日イチャイチャしてるだことの、尾ひれ葉ひれをつけて噂を流しまくってるんだ。もう遅い、キラ。世の中的にはお前とフレイ姫との結婚はもう秒読み段階だ!それもこれもお前のせいだ。腹をくくるんだな……ハッハッハ…」

 と、言いつつも目線は思いっきりあさっての方角を向いている、時の関白左大臣ウズミ。


 乾いた笑いがちとキラの目に痛い。



「と…とにかく、彼女のこと何にも知らないままじゃどうしようもないし。手紙くらい送ってみるよ」

 本人たちをさしおいてどんどん進んでしまう世界に、キラもウズミも面食らいつつも、そうとばかりは言っていられない。

 じっさい、キラもフレイもお互いのことは何にも知らないのだ。しかもキラには口外できない秘密を抱えている。


 たかが手紙と言っても、慎重にならざるを得なかった。





「姫さま、キラ様からお歌が届いてますよ〜」
※歌…手紙とほぼ同じ

 ところが。事態はフレイの方でも似たようなものだった。


「いや!見たくない」


「そうおっしゃらないで、姫さま」

 フレイ付きの侍女ルナマリアが彼女に手紙を渡そうとする。そのほのかに桜の香りのする美しい紙を、フレイは鬱陶しげにはねのけた。



「なんで?どうして私があんなヤツと一緒にならなきゃいけないの?帝がいるじゃない」

「でも、陛下も姫さまの姉君とご結婚でしょう。それに、噂によればキラ様はとてもすばらしいお方みたいですよ」


「要は子供よ!アイシャ姉さんはもう年なんだから、若い私が行くしかないでしょ?」

 フレイはその美しい髪に手をやり、ルナマリアに妖しく微笑みかける。


 いつものこととため息をつき、彼女は置いておきますよと言って、手紙を文机の上に置いて去っていった。どうせあまのじゃくな姫のことだ。自分がいるうちはきっと見ないだろう。


 果たして事態はそうなった。



「何よ!こんな手紙送ってきて!あんたなんかと結婚しても、ちっとも幸せになんかなれやしないのに…」

  口ではそう言いながらも、彼女は桜の香のする薄いピンク色の手紙をちらちら眺めていた。





 夜、ルナマリアと右大臣は、彼女に黙ってこっそり会っていた。


「どぅだね?彼女の様子は?」

 右大臣たるバルトフェルドが問う。彼こそ、この話を成功させるべく、裏からさんざん手を回してきた張本人であった。



「お渡ししたあと何度かご様子を見にまいりましたけど、それほど嫌がっておいでではないみたいでしたよ」

「そうかそうか!良いことだ」


 バルトフェルドは彼女からの報告に上機嫌になった。



「それにしても、姫さまは女御として入内されることを夢見ておられたようですが……」

 ルナマリアの言をバルトフェルドは一笑に付す。



「イカンな。入内だけが我が家の繁栄ではない。考えても見ろ、今の状況を」

「そりゃぁ、確かにタリア姫も院との間に、アイシャ姫も陛下との間に皇子さまを儲けではいらっしゃいませんけど…」


「問題はそれだ。うちは4人姉妹…そのうち二人は失敗している。仲はいいかも知れなくても、所詮皇子だ。皇子を儲けないことには入内させた意味がない」



「それは……おっしゃるとおりですけど?」


「だからキラ君なのだよ。今、宮中で一番勢いがあるのがキラ君とイザーク君だ。しかしキラ君は院と帝のお声掛かりで出仕している。そして今も帝の視線はキラ君と……まぁ、実情妹姫だな。そこに集中しているんだ」





 キラの父親、ウズミは関白左大臣。

 となれば、今の帝の女御としての入内は無理でも、フレイ姫にキラ君との間に女の子を産んでもらえばどうなる?

 帝のお気に入りのキラ君の子だ。是が非にでも自分の女御か、将来生まれくる東宮の后がねにと向こうから指名してくる。


 こちらはその時期をじっくりと待てばいいのだ。そう…じっくりとな。





「確かに。おっしゃるとおりです。何も今すぐ政権奪取を無理に狙うことはないと私も思います」

 現関白左大臣はキラの父親ウズミなのだから。10年後を狙えばいい。時はすぐにやってくる!


 当人たちの全く知らないところで、結婚の話はトントン拍子に進んでいった。





 翌日。キラは仕事で宮中にいた。

 と言っても休み時間もたっぷりあるから、朝から晩まで机にかじりついている訳ではない。


 キラはふと気になって、普段は行かない女御だちの住む部屋に足を向けた。
※女御…帝や院の奥さん


(フレイ姫……か。本当の女の子は僕みたいにむやみに顔なんて見せないから、どんな子なのかさっぱりだけど……着てるものならこの辺にくれば想像できるよね)





 そっと縁側に身体を寄せた。


「良い香がするわね…」



 微かに声が聞こえたもんだから、キラはびっくりして…それでも気をすぐに取り直した。

 ここは、タリアさんの住むお屋敷だ。


 タリアさんと言えばフレイ姫のお姉さん。彼女の姉妹なんだ、と思った。





「ここは…桜がとてもきれいだから。つい惹きつけられちゃって……」


「ありがとう。ゆっくり見ていく?」



「やめときます。あんまり長居すると、帰れそうになくなっちゃいそうだから」

 ふっと寂しげにほほえんで、キラはその場をほわりと立ち去った。


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言い訳vああ本当に申し訳ない。伏線だらけ…(泣)
 補足:キラの成人式の時に、冠をかぶせたのがバルトフェルドさんなのです。

次回予告
フレイ姫との初対面をなんとかやり過ごし、キラにはイザークとの束の間の平和が訪れる。だが、イザークは同時にある悩みを抱えることになって…。
























































































































































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