桜国ものがたり〜君と僕、あの日の約束〜

 

第23話

 








































































「じゃぁ、キラが行けって言うから行くけど…」

 ここは未だに後宮。対外的にはアスランはお忍びで来たことになっている。


 ちなみにキラとこんなことになった仲などというのは公然の秘密。



「あのねぇ…。もうとっくに朝でしょ?これから色々やることあるでしょ!」

 そういえば、今日もまともに朝の定例会議があるはずだ。キラはそのことを知っている。

 知っているが、口には出せない。知らないフリ知らないフリ。


 ここは何としてもごまかさなければならない。



「ぶー」

「ブーイングしない!しかもだいたいここ、お忍びで来てるんでしょ!だったら夜が明ける前に帰るの当たり前じゃない!」


「約束だよキラ。俺はこれが夢だった…なんて言うのは嫌だからねっ」



「判った!判りました!」

「じゃ、証拠ちょうだい」


「証拠?」



「ここにvキラからの担保ちょうだい!」

 キラの目の前には、にんまり笑いながら自分の口を指さす阿呆が一人。呆れて溜息をつきながらもキラはその口に軽く自分を合わせた。


「絶対だからねっ」

「しつこいよ!」


 などと言って、未練たらたらのアスランを見送って、ようやく自分も仕事モードに入れると思っていた。





 ところがすぐに難題はやってきた。

「キラ、手紙だ」

「……………」


「キラ?俺がわかんなくなったか?」



「あのさカガリ…何で朝っぱらからこんなとこにいんの?」

 カガリは胸を張って答える。

「そりゃ、渡すようにって頼まれたからに決まってるだろ?」


「………誰に?」


「心当たりはないのか?」

 含むようなカガリの言い回しに、彼が薄々感づいていることをキラは悟った。


「むぅぅ〜〜〜〜〜」



「読むだけなら構わないだろ?書いた本人はここにいないわけだから、読んでも読まなくても一緒じゃないか」

「そりゃっ…そう、だけど〜〜〜」


 キラはそれでも躊躇う。自分に他の男の影があること、おそらくはアスランはそれを知っている。

 知っていながらも知らないフリをしてくれているのは、正直嬉しい。でもそれだけに、キラから罪悪感は消えないわけであって……。



「ま、いいさ。別段返事は書かなくってもさ。ちゃんとごまかしてやるよ」

「カガリ…」


「きょうだいだろ?俺たち」

「うん…ごめんねカガリ」



 そうしてキラはアスランからのラブレターの返事を断った。少しでも、興ざめしてくれることを期待しながら。



 しかし、事態はそう簡単にキラの思い通りに行くはずはない。


「また…手紙………」

「精一杯取り繕ってるけど、かなりぞっこんみたいだぞ」



「……………」





 キラが何度か返事を断っていたら、すぐに堪忍袋の緒が切れたらしく、ついにアスランは実力行使に出てきた。


「ねぇえ〜アスラン〜…」

 今、キラはひどく不思議な感覚だった。


「ん〜なぁに?」

 しかし、彼女の「真下」にいるアスランは、全然…意に介していない。



「何で僕こんなところにいるの?」

 そこは、アスランのあぐらの上。



「こらっ動くなよキラ。俺にすがっててv字がぶれちゃ、書き直しになるだろ」

 あからさまにオカシイことになぜ彼は気づかないのだろうか?


「だったら僕をここから降ろせばいいじゃない。だいたい、今思いっきり仕事中でしょ?」

「仕事中だけど…何でキラをここから降ろさなきゃいけないの?」



 いや、そこは「何で?」と不思議がるところじゃないだろう!


「いやその前にね、ここ女性厳禁じゃなかったっけ?」



 居並ぶ高官たち。そのほとんどの顔をキラは覚えている。

 かつて自分がともに時間を過ごした同僚たちだ。さすがに薄いすだれで見えづらいとは言っても…ここは間違っても後宮じゃない。



「気のせいだよ。キラの記憶違いv」


 この男………自分の欲情のためには法すら曲げる気らしい。ここまでくればさすがに開いた口がふさがらなかった。





 アスランは仕事中。その彼のあぐらの上にちょこんと腰掛け、筆を走らす彼の邪魔にならないように、ずっとすがりついている。


 しかも…。

「あ、書き間違いあったら教えてね」


 待てコラ!基本的に女性の教養と男性の教養は、それはそれは全く違うんですけど?



「わかんないよ…」

「つまんないなぁ…。じゃ、それも教えてあげるねっ」

「そんなことしてると、残業する羽目になっちゃわない?」


 そうとぼけるとアスランは観念したと笑いながら、テンポよく仕事をこなしていった。相変わらずそのあぐらの上にキラを抱っこしながら。





「オカシイよ…なんか、すごくオカシイと思わない?」

「え?…何が?」


「そこ驚くとこじゃないし!」



 頭の上に?マークを並べながら、アスランは周囲に遠慮することなくキラを押し倒す。事態に気づいた侍女たちが、いっせいにこの部屋から姿を消した。



「アスランってさ、確か他にも奥さんとかいたよね?」

「ん〜?興味ないよ。俺、政略結婚とかって嫌いだし…」


 フッツ〜に喋ってるんですけど、立場を考慮したら政略結婚とは無縁ではいられない身分だと思うんですけど?

「嫌い……って…」


「キラさえいてくれればいいのv」

 世間一様な恋人みたいにアスランは言う。

 でもそれは、朝っぱらから仕事の同伴をさせ、食事時にはいちゃいちゃしながら「はい、あ〜んv」。でもって日が暮れるまで女子禁制の場所でべたべた触りまくり、夜は夜で寝室にわざわざ呼びつけて、思う存分キラを食べちゃうことでは………ないはずだ。





「はぁ〜…」


 少々気疲れして、あてがわれた部屋に戻ると、上司が非常にご機嫌な顔をして待ち構えていた。

「おかえりなさい。キラv」


「……………。ラクス…どうしてあなたがこんなところにいるんですか?」



「あら!わたくしは今のところキラの上司でしょう?ここで行ってはならない場所などありましたかしら?」



「いえ…ありません」

「でしたらよろしいじゃないですかv触りたいときに触りたいだけキラを触り倒してもv」



「………ラクス……」

「あら?ダメですの?」


 心底不思議そうな東宮ラクス。キラは思う。なぜそれをオカシイと思えないのか、と。


「いやだって…フツーしないでしょ?そんな…いくら同性とは言っても、上司が部下の胸を毎日揉みにくるなんて……」

 キラとしてはとがめたつもりだった。が、ラクスは心から悲しそうに溜息をついた。



「残念ですわねぇ……。キラは既に売約済みだったのですか。ああ…へたれの手の早さにも困ったものですわ…」


 などと言いつつ、ラクスの瞳は青黒く光り、ひどく楽しそうだった。


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言い訳v脱兎!

次回予告
黒ラクスの綿密に練られた計画…その結果が今!次回でラストになります。もう少しお付き合い下さいv
























































































































































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