桜国ものがたり〜君と僕、あの日の約束〜

 

第2話

 









































































 ある程度予測はしていた。

 想定外のことではなかったが、それでも面食らうことはある。


 ヘマはできないのでいつものようにウズミの額には脂汗がびっしりだ。座ってる場所が、ある程度離れているのは不幸中の幸いか。





「キラ君は、利発でいい子だねぇ。そんな子をいつまでも元服させなかったのは実に心惜しいよ」


 ちくちくと心につき刺さる帝デュランダルの厭味。

「いつまでも親元において独り占めしたいという気持ちはわかりますが、男の子はちゃんとしかるべき時に世の中に出さないとだめだよウズミさん」


 この親にしてこの子あり。東宮アスランとて一筋縄では行かない相手と、ウズミはうすうす知っていた。



「これだけ中も外も整った子はそうはいるまい。きっと、姫君のほうもさぞかし美しく賢い子だろうねぇ」

 来た…。


 これだから、世の中に出したくなかったんだ。

 しかし、ここまでくればウズミの中にもキラの言う「とりあえずばれなきゃいいじゃん」が脳裏をよぎる。

 実際問題、明日から無人島0円サバイバル生活なんて、到底できるものじゃない。





「む…娘は………まだ世のなんたるかを知らない、本当に子供ですから………」

 ウズミにはこれが精一杯だ。

 まさか、「姫は男ですから」なんて、口が裂けても言えるものか!


 ここは、いかなる手段を駆使しても、カガリの出仕を阻止しなければならなかった。間違って後宮に上がりでもしてみろ。男子禁制の職場に妙齢の男の子を一人………そんなことバレたら抜け目のない女たちにヤら…じゃない、帝や東宮に簡単にヤられあ〜〜〜れぇ〜〜〜………という息子でもないか…。


 とにかく、男だってことがばれるじゃないか!キラの時とは違うんだぞ!

 ウズミ・ナラ・アスハ、頭はぐるぐる回ってはいるが、思考がオカシイ方向に行きつつあった。





「世の中なんて経験だよ権大納言。とりあえず、悪いようにはしないから私のところに来てみないかね?どうせ最初は皆不慣れなんだ。大丈夫」

 そんなこと………そんなことしたらっ、アッサリ犯られちゃうだけじゃないか〜〜〜〜〜!



 ん?いや待てよ?


 カガリは男の子なわけだから………それはそれでヤバいやんけ〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!


 最悪の秘密が帝にバレる!!!





「ダメですッ!いくら陛下の思し召しでも、それだけは絶対にできませんっ!」

 ウズミは半ば叫んでいた。だがそんな悲痛な親の思いも、目の前の高貴な親子は簡単に踏みにじってゆく。



「娘可愛い親は誰でもそう言うものだよ権大納言」


 つまり、見たいってことだろ?

 それも、上から下までまんべんなく。だが、それだけは、それだけは阻止せねばならんのだ!それはもうウズミにとって使命であった。





「む…娘は………実は〜〜〜」


「実は…?」



 気まず〜〜〜い沈黙が、ひたすらこの場を覆う。そうは言ってもウズミとて考え考え話している。そうつらつらとウソ話が言えるもんか!



「字…字がとてつもなく下手でして…今、練習中なのです!書類のひとつも書けなければ、恥ずかしいことこの上ありません」


 苦し紛れにしては、うまい口実を考えたものだとウズミは内心、自分で自分をほめた。

 この線でいけば、数ヶ月は保つ。そのうちに話自体がうやむやになることを切に希望した。


(頼むから……きれいサッパリ忘れてくれ。その方が幸せだ)





 その頃。帝と東宮のお声がかりで、友人たちより一足先に出仕してしまったキラに、早くも友達と呼べる存在が出てきた。

 キラより1つ年上の宰相中将である。


 出仕したばかりで、何もかもがもの珍しいキラは、あちこちふらふら歩いているうちに完全に迷子になってしまった。偶然ピンチを助けたのが彼だった。



「もうあんなとこに迷い込むなよ。帰り道、判るな?」

「う、ん。判るけど…も一回来たらまた迷うかも……」


「ま、宮中は広いからな。キラも来たばかりだから、判らなくても仕方ないな。じゃ、とりあえず仕事終わったら俺のところに来い。少しずつ、案内してやるから」

「うんっ!ありがとうイザーク!僕、頑張って覚えるね」


「ここには行っていい場所と、そうでない場所があるんだ。それは自分の足で覚えるんだぞ」



 キラは初めてできた親友に嬉しくなって、本当に芯から笑いかけた。その瞬間、イザークの頬が真っ赤になったことなど、そのときのキラには知る由もなかった。





 その後、キラは仕事があるとき以外は、イザークとずっと一緒に過ごすことが多くなった。

 何でもよく知っている、ひとつ年上の頼りになる先輩に、キラはだんだん懐いてゆく。仲の良い二人の美男子は、宮廷内ですぐに噂になっていった。



「ね、イザーク。今日はね、帝にお歌を褒めてもらったんだ」

「よかったな、キラ。だが歌は奥が深い。だからといって油断せず、精進するんだぞ」

「うん」


 まるで兄弟のように仲の良い美男子二人組に、周囲の視線は嫌でも集まっていった。



「そういえばキラ、お前そろそろ笛を習ってみないか?」

「笛?あ、あのきれいな音がするの?うん!やってみたい」

「笛くらい吹けるようになっておかないとな。俺の友人としてもかっこ悪い。それに、お前の妹姫はなかなかの琴の名手だそうじゃないか」


 妹姫…カガリのことだ。キラも知らない、もうひとりのきょうだい。



「噂ではね。僕もよくは知らないんだけど。母さん同士があんま仲良くないらしくて」


「そうか…残念だな。だが、キラのきょうだいだろう?キラに良く似た美人だという噂もあるぞ」

「だからよくわかんないんだってば。だって、会ったことも話したこともないし」



 イザークはふっとため息をつき、それでもキラに優しく語りかける。

「お前も少しは噂話に注意しとけよ。そういう噂があるから、今彼女のところに来る求婚の手紙がすごいらしいぞ」


「え?そうなの?」

 情報通なイザークにキラは目を瞠った。



「知らないうちにお前に義弟が出来ていたりしたらどうするんだ?」

「う〜ん…。それはちょっと困るかも〜」


「急に仲良くしろといわれて、そうそう出来るものでもないだろう。なんなら、相手を俺ということにして、早くから虫除けしておくという手もあるが」

「ん〜〜やめとく。イザークってさ、すっごいきれいだから今でも、女の人から沢山手紙とか来てるんでしょ?一応僕のきょうだいなんだし、そういう争いに巻き込むのやだから…」


「コイツ!言うようになったじゃないか」

「ぇへ。ちょっとはね」





 そうこうしているうちに、帝が病気を理由に譲位し、東宮が帝になったことで主だった者に昇進があった。

 ウズミは関白左大臣に、キラは中納言になった。ただ新しい帝に男子がなかった為、姉宮が東宮に立った。



 だが安心もつかの間、ある衝撃がキラに襲いくる!


第3話へ→

言い訳vデュランダルと似たもの親子なアスラン…あれ?あれれれ?
 脂汗ウズミとの瀬戸際の攻防をサクッと終わらせ、イザークに懐くキラ。仕方ないんですとっっっても重要な伏線なので〜。

次回予告
充分あり得る話、しかしよく考えたらオカシイ話。バルトフェルドの陰謀がきらりと光る!彼とルナマリアの策略とは?
























































































































































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