桜国ものがたり〜君と僕、あの日の約束〜

 

第19話

 








































































 その日、ウズミは真っ青な顔をして帰ってきた。

「な…何かあったんですか?父上…」


 呼べど叫べど父は無反応だった。



「あ、いいよカガリ。いつものことだもん。ほっときゃ二、三日後には白目治ってるでしょ」


 無責任なキラの裾をウズミはぎゅっと掴む。慣れない衣装につるっと滑って、派手に転ぶ……ハズだったが危ういところでキラは激突しなかった。

「あ〜ありがとね〜シン〜!助かったぁ」


 そのシンの頭を軽くカガリがこづいた。

「お前はどっちの部下なんだ!シン」


 シンはしれっとして答えた。

「肩書きカガリ様、本命キラ様」


「堂々と言うな!堂々と!」


「でもぉ〜このお屋敷に仕える職員ですから?キラ様が危ないのを見過ごしてはおけないです!」


 シンはもう…完全に開き直っていた。



「ほぉ〜う?と言うことは俺のピンチも助けてくれるって事だな?」

「カガリ様はお一人でも充分お強いですから」


「差別だ!ソレ差別だッ」





 で、都合のいいところに怒鳴り声が乱入してきた。

「人の話を聞かんか!バカモノどもが!」


「今まで気絶してたじゃん…」

「そうですよ。さっきまでずっと泡吹いて白目剥いてたの、父上ですよ?」



「うぅううるさいッ!今日遂に言われたんだよカガリ!」

「はい」


「陛下がな…お前の出仕はま・だ・かvとな…」



 ウズミがアスランの様子を事細かに再現してのけるもんだから、目の前にいた三人はさすがに気分が悪くなって鳥肌が立った。

「つ〜かそれ…僕ですね?僕だと思ってるんですよね?」

「ああ…。間違いなく…な」


 ヤバい!ヤバすぎるぅ〜〜〜っ!と、ウズミは叫び、そして再び気絶の海に沈んだ。



「あ”〜〜〜」

「まぁ、こーなるだろうことはおおかた予想はしていたがな…」


 二人が元に戻ってくれたのは嬉しい。しかしそうなったらそうなったで、ごまかさねばならないことが多すぎる。こんな事なら最初から、逆転出仕なぞしなければ良かったのだ!ウズミの思いはただそれだけだった。


 そんな、ともすればすぐに『いきなり!黄金●説』ネタに走るウズミを蚊帳の外に置いて、きょうだいの会話はどんどん先へ進んでゆく。





「…で、どうする?カガリ」


「どーするってったって、行かないわけにはいかんだろ?ま…とりあえず行ってみるさ」

「そぉだね。あ〜帝はねぇ…僕ずいぶん気に入られてたみたいでぇ、用事もないのに呼び出しとかされてたこと多かったから、別にあんま気にしなくっても良いと思うよ。どぉせ、久しぶりだからって、顔見せだけだろうし」


 カガリの元気がはたと止まる。

「ちょとマテ!そぉいうもんなのか?」


「うん、結構。あ、それとベタベタ触られることも多かったけど、気にしないで」



「待てキラ!フツー気になるだろ?それ…」


「だって、そういう人だもん」


「……………」



 カガリは呆れる。後宮で聞いていた噂とはまっっっったくかけ離れたキラからの情報だった。


「とにかくさ、当たって砕けろで良いと思うよ。ヤバくなったらさ、久しぶりで忘れちゃったとかなんとか言っておけば通用するし」

「なんか…話聞いてると、大丈夫なようなヤバすぎのような………」


「ん〜でもね、行かないとここにお忍びで来ちゃいかねない人だから、それはそれでヤバくない?」


「オマエな…今までどんな生活してたんだよ……」

「ぇえっ!結構普通だって思ってたけど?」


 カガリの手が額に到着した。はぁ〜〜と溜息をつきながらカガリは悩む。

 どうやら自分が散々聞いた噂とは全然違う人みたいだが、これはもう会ってみなければ判らない。そう言う結論に達した。



「じゃっカガリ、頑張ってねぇ〜〜〜」


 軽い調子で手をヒラヒラさせて笑うキラがこれほどまでに、小憎く感じられたときはなかった。





 で、問題の出仕。

 カガリはキラに教えられたとおりの道を歩く。何でも教えられたとおりにし、教わったような言葉を返す。それだけで、結構なんとかなるもんだった。

 途中、どうしても物珍しいので視線がちらちらしてしまうが、それも久しぶりだからの一言で片づけられてしまった。



「久しぶりだね。写経とかいうのは、もう終わったの?」


「あ…はい」


 そして…間近すぎる帝と、どうしても目があった。

 いやこの距離で外せと言う方が無理なのかも知れない。今カガリとアスランはこぶし一つ分くらいしか離れていない。



 でもね…と、アスランは溜息をつく。

「せっかく祈りを込めてやってくれたんだけど、ラクスのご機嫌が未だに直らなくってね…」

 そう。世間的には兄弟で写経と言うことになってるんだった。

 無論そんな七面倒くさいことなんかつゆほどもしたことはないが、とにかく東宮ラクスのイライラを治めるため…という名目………を考えたのもラクスではあったが。





「そう…ですか。すみません。精一杯祈らせてはいただいたんですが…」


「うぅ〜〜〜ん…。ま、仕方ないんだけどね。祈ってなんとかなるものなら、いくらでも祈れば済むじゃないか」

 アスランはやたら冷めていた。その間にも、カガリの顔をまじまじと眺めつつ、彼は全く視線を外さない。

 キラが言っていたのはこれかと納得はいく。


 納得はいくが…そうは言ってもネバネバした視線を向けられて、あまり気持ちのいいものではなかった。



 キラとは違い、自分も帝も男同士だ。そんな状態でこの至近距離で見つめ合っていて………いったいナニが楽しいというのだろうかこの男。


「……はぁ…」

「も少し側に寄って」


「もうこれ以上は無理です」


 カガリでなくても誰でもそう思うはずだ。だがアスランは全く意に介さない。

「雰囲気は1年も経たないうちにこんなにも変わったのに…そーいうとこはちっとも変わってないね」


 カガリはびくっと来た。

 これは………もしや当のうちにバレてる?

 いや、違う?


 どちらかに寄った答え方をしたら、こちらからバラすようなもの…。正直、正念場だった。





「はァ〜〜〜…。つまんない」

 ところがアスランは終始同じ調子を崩さない。カガリの顔をじろじろと眺めては、つまらなそうなため息ばかりだった。


「………は?」



「いやね、ついにヒゲが生えてきちゃったんだな〜って思って………」


「あ………ぁの〜陛下?」

 目の前のアスランはほろほろと涙をこぼしながら述懐する。



「月日の経つのは辛いもんだね。そのすべすべのお肌を触るのが日課だったのに………楽しかった日々は、もう戻ってこないんだ………」



「………………………」



 これは…バレてない!


 …のは良いが………日課!!?

 毎日御前に伺候して…気持ちいいからと、あちこち肌を触り倒されてたのか!?キラは!



「自分でも思うんだけど…ヒゲって結構触り心地悪いよねぇ…」

 アスランは、さも悲しそうに涙を流し、時々しゃくり上げながら、恨めしそうにカガリをちらちら見ては、ず〜〜〜っとため息を漏らしていた。


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言い訳vアスラン、全然気づいていませんよ。そこんとこ原作と同じv

次回予告
アスランに溜息をつかれ、ラクスにネチネチ言われ…カガリの前途は多難なのか順調なのか?
























































































































































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