第18話
車に揺られて、着いた先は左大臣家の別荘だった。 「ここって……」 そう…忘れもしない大きな桜の木。 花は当の間に散り、完全に葉桜になっていたが、絶対に忘れられない思い出の樹だ。 「ここなら何かと便利だろ?ジュール家の別荘よりも格段に都に近い。隠れるにも通うにも都合はいいはずだ」 「あ…ぅん……」 「そんなことよりキラ、ほらボーっとしてないで!やることいっぱいあるんだぞ!とりあえずそこに座る!」 「は〜ぃ!」 「いいか?俺には書籍やら本やらで、読めばいいものばかりかも知れないが、お前には文字になってない話がいぃ〜〜〜っぱいあるんだ!それを短期間で全部覚えるんだぞ」 キラはさっと青ざめる。 そ…それって……もしかして…。 「いわゆる女のうわさ話ってヤツ?ぅっわ!くっだらない…」 すぱこぉん!ちなみにハリセンはいくつか予備があるらしい。 「痛いじゃないか!カガリ!乱暴な女の子は嫌われるんだぞ」 「ば〜か〜や〜ろ〜う!俺はもう男なんだが!」 「あ、そっかぁ〜〜〜!そうだったんだよねぇ。ごめん…すっかり忘れてた」 カガリは頭を抱えた。 「キラお前な…今の俺見てよくそんなことが言えるな…」 キラより若干ごつい体格、少し伸びてきた無精ヒゲ…そんなものを見ても、未だにキラは気づかなかったらしい。 そんなことで果たして大丈夫なのか? きょうだいの前途は結構ギャンブルだった。 ………で、きょうだいが必死こいてお互いの情報を交換し合っている最中。久しぶりにシンがやってきた。 「あ、シン。久しぶりぃ」 「はい、キラ様」 ちなみに近くで青筋を立てて震えている人が約一名。 「こらシン。お前は俺付になったんだろう?どうして真っ先にキラの元へ行くんだ!」 「別にいいじゃないですか!もうここを出たら、おいそれとキラ様に会えなくなるわけだし、今のうちに精一杯名残を惜しんでても!」 カガリはピンと来る。 「それは俺に対する嫌がらせか当てつけか!」 「ひどいよぉ、カガリぃっ!シンは一生懸命頑張ってくれているんだからっ!すっごいいい子なんだよ!カガリだって大事にしなきゃ!」 「……………と言いつつキラぁ!お前がそ〜やっていちいちシンの頭を抱え込むからだろうが!」 「ええ〜〜〜〜っ」 「お…俺は別に、いいですけどぉ〜ゃ…役得だしぃ…」 「あ〜〜シンったら、イヤらしいぃ〜」 カガリの眉間の青筋の数はどんどん増していった。 「ってキラ!お前のせいだろうが!だいたいシン、何しに来たんだ!」 「あ、そうそう。キラ様に報告があるんですよ」 「僕に…」 シンはキラになにがしか耳打ちした。途端、キラから涙が止まらなくなる。 「ごめん…ごめんね………」 キラは今はここにいない人に向かって、ひたすら謝った。 後悔はしていない。 でも、裏切ったことに間違いはない。 「キラ様…」 「判ってる…判ってるよぉ。僕のせいだけど…でも……だけど…」 「キラ?どうしたんだいきなり…」 確かにカガリには判らない感情だった。 自分にすがって泣きじゃくるキラを見ていられなくてシンは、今日の打合せはもう終わりにして欲しいと、カガリに頼んだ。 「そりゃまぁ、キラがこんなに泣きじゃくってるんだから、できないけど…」 「キラ様のおっしゃるとおり、ジュール様はキラ様にとって大事な親友だったんです。少しは察してくださいよ」 「止まらない…止まんないよ……シン〜〜今夜はずっと付いててっ」 「あっバカ!キラっ、そんなことできるか!」 「泣かせてよぉ〜!一晩中僕の話聞いて…側にいてっ」 キラは強い力でシンを抱え込んだまま離さない。 「でもキラ…」 「カガリじゃ判んないんだ〜っ!シンじゃなきゃ!だから…ッお願いシン!」 「〜〜〜〜〜!判ったよ!だがシン!もしも大事なキラと何かあったりなんかしてみろ。タダじゃおかないからなッ」 「しませんよ!ってかカガリ様は後宮での暮らしが長いから、ついそう思ってしまうんでしょうけどッ、表の世界はそんなことばっかじゃないですからね!」 「うぅううるさいなっ!判ってるッ。こっちだってにわかなんだ。そうそう思い通りに行くか!」 その日、カガリはそう言って、キラの部屋を去った。 それからしばらく。二人が情報を交換するのにさして日数がかかるわけでもなかった。 もともときょうだい。息もピッタリで、キラの髪が伸びるのが間に合わないくらいだった。 「これだけは、仕方ないな。ま…でも、カツラあるし。しばらくそれで誤魔化せ、キラ」 ※当時既に「かもじ」という名前でいわゆる「女性用カツラ」がありました。 「うん、判った。やってみる。カガリの言うとおりにすれば間違いないんだよね?」 「キラこそ。でも、今まで以上に手紙は寄こせよ。こっちだって初めてなんだ。判らないことだらけさ」 「僕もだよ…」 「それともう一つ!ラクス様にだけは言ってある…と言うよりあの人にはごまかしは利かないが、一人称僕はヤバいぞ。気をつけろよ?」 「あ、うん。わかった」 そうは言っても、幼き頃よりの口癖。そう簡単に治れば苦労はしない。 心の中で乾いた笑いをしながら、二人はようやく本来あるべき性で実家に戻った。 ちなみに父ウズミがまたもや口から泡を吹きながら、泣いて気絶したのは言うまでもない。 「ナニやってんの?父さん…」 「さぁな〜?父上のやることは昔からいまいちわからん」 ぶくぶくぶくぶく………父の口から吹き出る白い泡、にやついたまま白目を剥いて気を失っているウズミを、このきょうだいは揃ってほったからしにして部屋を去っていった。 でもってさらに数日後。 念には念を入れて、最終確認をしておけ、などと言う父ウズミの一言でカガリとキラは「ここがもし宮中だったら」舞台をやらされる羽目になり…朝まで付きあわされた。 「父上…」 「よいかカガリ〜間違っても最初から自分を出すんじゃないぞぉ〜全てはキラと同じように!同じようにぃ〜」 「いい加減しつっこいですよ!父上!キラだってこれで良いって言ってるじゃないですか!」 「いや…うん。良いと思うよ、それで…」 「ぁ…」 「くぉらぁあっ!キラ!寝るな!まだ特訓は終わっていないぞ〜〜〜」 「僕もう眠いぃぃ〜」 「あ!こらキラ!」 「…あ”」 「一人称は、私だと言っただろ!油断するからそんなヘマをするんだ!やり直しッ」 「ぇえ”っ」 第19話へ→ 桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜 言い訳v*カツラは原作とは違います。ちなみにどこまで行ってもキラとカガリはきょうだいなので、カガリもある程度ポケポケです。キラとは現れ方が違うだけ。 次回予告*ご無沙汰だったあのお方が再登場します。変態アスランです。 |
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