桜国ものがたり〜君と僕、あの日の約束〜

 

第17話

 








































































 その夜、すぐにイザークに押し倒されたときも、キラは抵抗一つしなかった。

 ただ、いつもよりたくさんキスをねだった。自分から彼の首に腕を回してまで、もっとしてと言った。



「どうしたんだ?」


「……待ちくたびれたから…」



「急いで帰ってきたんだぞ?」


 せっかく着替えたのに、すぐにはだけてしまって、着ているというより被っていると言った方が正しいような自分たちの服。



「そんなこと判ってる。…けど、女の子って…正直ヒマ!」

「キラは男の生活が長かったから、比べてしまうんだろ?」


「こうも極端に、何にもやることないなんて思わなかったよ」


「そのうち慣れるさ」

「飽きるのも早いかも…」



「そのために俺が付いてるだろ?俺ならキラを飽きさせないさ」

「すっごい自信だね!」

「お前にだけだぞ」



「じゃぁもいっかい。僕を夢中にさせるようなキスをして!」


「判った」



 そしてその夜は更け…翌日の夜も二人っきりで明かした。

 今までに何度かシて、身体はイザークに馴染んでいる。キラもイザークも理性を手放すのにそう時間は要しなかった。





 翌朝、けだるい身体を抱え、キラはイザークを送り出す。

「もう行かないと、遅れちゃうよ」


「このまま離れたくない」

「何言ってるの?イザークが僕を女の子に戻したんでしょ?今更…もう無理だよ」


「そうだな。こんなにも可愛いお前を手に入れたんだ。それだけでも満足しないとな」



「またしばらく会えなくなっちゃうけど、僕は大丈夫だから」

「判った。キラのことだもんな。大丈夫だな?」


「うん」



 都からいささか距離があるせいで、イザークは早めに屋敷を出発する。その後ろ姿を見届けると、なぜだか涙があふれて止まらなくなった。


「ごめんね…ごめんね……ひくっ、えぐっ……イザーク…ごめんね………」


 涙が涸れるのも知らず、キラは泣き続けた。

 自分から別れると決意した。

 イザークに言うと、別れられなくなるから、黙って行くことに決めた。


 でもそれは同時に、親友を裏切ることになるわけで………。


「ごめんね…っごめんね………」





 昼近くなり、シンが迎えに来てもキラはまだ泣いていた。

「キラ様…?」


「うっく……ひぐ………ぇぐ……っ」


「キラ様ぁ…?」


「シン〜〜〜っ!」

 目の前のシンにがばっと抱きつき、キラはさらにしゃくり上げた。

 泣きながらずっと、親友を裏切ったと彼女は叫んだ。


 自分のせいだ。

 自分のわがままのせいで…大切な人を失ってしまうのだと。



「キラ様……」


「…でも、ダメなんだ。……僕には…今でもイザークは親友で……ひぐ…ぅ…」



 イザークの見る目が変わっても、どんなに優しくされても、キラの心は変わらなかった。

 今でも、親友という視点でしかイザークを見られない、と彼女は言った。





「キラ様がそうなら…それでいいんだと、俺…思いますよ」


「シン?」

 シンはキラの背中をあやすようにポンポンたたきながら、語りかける。


「ジュール様にとってはそうだったかも知れないですけど、キラ様にとってはやっぱ恋愛感情じゃなかったんですよ」

 それでは恋人にすらなれないじゃないですか、とシンは言った。



「イザークはね、ずっと優しくて…僕の言うこと何でも聞いてくれて……でも僕はそういう感情にはなれなくて…だから何も、返せてない…」


 キラの言葉にシンはキッとなった。

「だったらキラ様のお心が済むまでここにいるって言うんですか?冗談じゃないですよ!それじゃ、ジュール様の幸せにはなっても、キラ様の幸せにはならない!」


「シン…?」



「キラ様は決断されたんでしょ?だったら早くここを出ていった方がいいと、俺思います。それでもまだめそめそしてるんなら…」

「………?」


「………俺が、ここでキラ様を奪っちゃいますよ?俺だっていっぱしの男なんです。そんなことができないほど子供じゃないですよ」

「それはヤダ」


「………っつぅか何でそこだけ即答できるんですかアンタは!」


「だってシン…男の子って言うより、僕の弟だもん」

 シンはふくれた。キラに抱きつかれたままで。



「そっか〜シンももう立派な男の子なんだねぇ」


「何年も前に成人してますってば!キラ様は一体どこを見てたんですか!」

「ん〜〜顔かな?あと…尻尾?」



「……………は?ありませんよ、尻尾なんて…」



「いやねぇ、シン見てるとね…あるような気がするんだよね〜おしりんとこに…大っきな犬の尻尾」

 ふさふさなんだよ、などと言われてもシンが嬉しがるはずもなく。



「…………………」



「ふくれないふくれない!」


「もぅ!全てキラ様のせいですからね!俺をからかって…今だって、こんなにもキラ様からいい香りして……」

 それはキラが好んで使う桜の香。昔別れた、あの大好きだったともだちのことを忘れないように、キラがずっと身につけている香だった。


 ぷいっとそっぽを向いたシンからキラはようやく離れた。

「あ”ぁ〜〜〜シンったら僕に欲情してる〜〜〜〜〜」

 頬をピンク色に染めたシンをキラは更にからかった。


「誰のせいですかっ!誰のッ!!」

「はァ〜〜〜い!僕でぇす!」


と、そこへハリセンが飛んできて、シンの頭をすぱーんと殴り飛ばした。





 「ナニやってんだお前は!」


 しかしそうなると、キラがシンをかばって彼の頭をむぎゅぅ〜と抱き込む。

「あっ!酷いよカガリぃ…シンの頭がぺったんこになったらどうしてくれるのぉ!」


「ぺったんこになんかなるか!ずぶとい頭!しぶとい根性!生きることには人一倍欲望の強いこいつが!」


「カガリ様、なにげに酷い言いようですよね……」



「カガリぃ。シンをいじめちゃダメだよ。これから君の部下になるんだから!シンはいい子なんだから、優しくしてあげなきゃ僕が取り返しちゃうぞ!」

 カガリは呆れた。

「キラお前な…。女の子に戻ったお前がシンを取り返してどーするっていうんだ?コイツに女装でもさせる気か?第一似合わんだろ…」



「そりゃ…そうだけどー。でも、シンに酷いことするなら渡さないよっ」


 むぎゅ〜〜ぅ。

 着物越しとは言え、いささか大きくなったキラの胸がシンの顔に当たる。上品な桜の香と、その柔らかい感触にシンはいつでも昇天出来ると思った。


「き…キラ様………そこ…お胸………」



「殴っていいよ、カガリ」

「判ったッ!」

「でも手加減して」

「らじゃ!」


 そうしてシンは、ほわほわした感覚のままカガリに殴られた。



「キラ、とりあえずここを出るぞ」

「……うん…」


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言い訳vラストのきょうだい漫才が書きたかった秋山。シンをからかえてシアハセv←ぇ

次回予告
キラカガきょうだいの周到な準備編。…に、シン→キラが絡みまくります。
























































































































































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