第14話
あれからイザークと何度も会う機会はあった。だが、イザークはキラを抱きしめるだけで、最初の時のように感情のままに行動することは決してなかった。 夜勤が重なって、宮中で二人っきりで夜を過ごすこともあった。それでも、イザークは事に及ばなかった。 「俺にはお前が女にしか見えないように、他に気づくやつもでてくるかも知れない」 「そりゃ…僕だって、いつまでもって訳にはいかないこと…判ってる」 「ちゃんと、元に戻って…女の子らしく暮らした方が絶対幸せなんだぞ」 「ね、イザーク……そしたら僕も、子供を産むって事?」 フレイのことが脳裏をよぎる。 苦しそうだったフレイ。終始気分が悪いと言っていたフレイ。 自分も…そう、なるのだろうかと思った。見てるだけでも辛かったのだから、自分がその当人にはなりたくなかった。 「できたら、キラとの間に子供が欲しい。それまでは、こうして我慢して待ってるから…」 「何を?」 「あのなキラ。ここまで来てボケるな。あの日…シただろ?俺たち。あんなことしてると、子供ができる可能性があるんだ」 キラは初めて世界がクリアーになった。永らく不思議に思っていた「子供ができる仕組み」それが今初めて解った。 「でも我慢…って?」 「俺は男だからな、キラ。好きな相手となら、ずっとあんな事していたいって思ってしまうんだ」 途端に押し寄せるフラッシュバック。 あの日…自分たちが何をしたのか。キラの脳裏に一瞬にして同じ事が再現された。 「………ぁ…っ…」 真っ赤になったキラにイザークは甘くささやく。 「キラがこのまま…俺のところに来てくれるって言うなら、今すぐにだってキラとシたい」 そう言いながら抱きしめる腕も、口づけも…イザークはただひたすら優しかった。 (でも…ホントここまで来ちゃったら、どうしようもないよね。僕たちに残された時間は少ないわけだし………イザークなら、ずっと僕のこと大事にしてくれるかも知れない) キラは最近そう思い始めた。 昔…幼い頃に大好きだったともだち……彼と再び会うためにも、男として宮中に上がった。そうすれば…会えばすぐに思い出せると高をくくっていた。 でも、実際にはやっぱり自分には全く記憶がなくて………。 (もう、諦めた方がいいのかな?あの子も…もういい年だし、僕のことなんか忘れて、普通に結婚して幸せになってるかも知れないし……) 「解った。ただ…もうすぐフレイが子供産むみたいだし、そうしたらカガリにも話してみる」 「フレイ姫…?」 知っていながらイザークは、わざと素知らぬ振りをした。今この場でキラにあのことをあかせば、キラは間違いなく自分から離れる。そのことだけが怖かった。 「うん。一応僕の奥さんだし…付いててあげなきゃ。みんなヘンに思っちゃうでしょ」 「そう…だな………」 「そしたら、イザーク……僕を、連れてって」 「判った。だったらそれまでは俺が全面的にサポートするから」 「…うん………」 もうすぐ夜勤が終わる。 夜更けでほの明るくなってきた詰所の中で、他に誰もいないことを確認して、イザークはキラの身体を押し倒し、彼女の柔らかい唇を自分のそれで塞いだ。 「ん…ッ」 「こんなところで声を上げるなよ?キラ」 「そんなこと言ったって…」 「じゃぁ、言えないようにすれば良いんだな?」 相変わらずイザークは優しい。それでもキラは自分の中からしっかりした部分…希望とか、夢とかいうものが崩れ落ちていくのを感じていた。 優しいけど…たぶん、自分にはイザークを好きになれる自信はない。今のキラには、他に手段はなかった。 その後程なくフレイが子供を生んだ。バルトフェルドを初め右大臣家待望の女の子だった。 それでも、キラの心は晴れない。密通の子供のことなんてどうでも良かった。 こんな、不本意な形でイザークに全面的に頼らなければならなくなるなんて、まさかそんなことはないと信じていた。 だから、年が明けて年始のお祝いの時期になっても、主だった者に昇進があっても、キラの心は憂鬱になるばかりだった。 あらかたのお祝いが済み、少しホッとした頃キラは改まった格好をしてフレイの元を訪れた。 「何よ、今頃…」 「うん、ごめん…」 「だから、何?キラだって知ってるんでしょ?この子の父親が、アンタじゃないって」 彼女の隣には彼女によく似た赤い髪をした、端正な顔の赤ん坊がすやすや眠っていた。 「うん…」 「こうなるまで、ずっと付いててくれたことには感謝してる。でも…私、悪いけどしばらくあんたに会いたくない」 「…ごめん」 「キラが…そうやって何も聞かずに謝ってばかりいるから!辛いのよ、私!」 そう、フレイはキラに当たった。 「フレイ…」 「バカみたい!そうやって、何にも悪くないのに…何にも知らないくせにすまなそうに私に謝って!そんなアンタを見たくないの私!だから…来ないでよ!もうここには来ないでよッ!」 「そうするよ、フレイ。僕も…しばらく会わない。ちゃんと…頭冷やしてくるから」 キラはそれだけ言うと、フレイを…彼女の頭が自分の鎖骨に当たる程度に軽く抱き寄せた。 「本当に…こんなところで君を一人にしてごめん。でも…僕ね、君に出会えて良かったと思ってるんだ。何にもできなかったけど、君には感謝してる。今まで本当にありがとう」 きょとんとするフレイに、今までで一番柔らかなほほえみを残して、彼女の元を去った。 そして、すぐさま宮中へ向かう。 会わなければならない人が、もう一人いた。 「キラ!どうした?」 いつもの場所に行くと、カガリには簡単に会えた。実のきょうだいと言うことで、やはり簡単に二人きりになれる。 「カガリ…身体の成長の方はどう?」 「まずいことに順調に成長してるな」 カガリは、乾いた笑いを漏らした。この分だと…もう半年か1年もしないうちにごまかしきれなくなるだろう。 「ごめんねカガリ。今まで、ずっと僕のわがままでカガリに迷惑かけてきたけど、もうそんなことも言ってられないね」 カガリはきょとんとする。 「キラ…?お前、熱でもあるのか?病気ならここにも良い医者いるぞ」 「茶化さないでよ!」 「キラ…もしかして憑かれてる?」 「カガリそれ、字違う…」 「何があったんだ?フレイ姫への密通事件か?」 「どーでも良いけど情報通だよねカガリ…」 「あほぅ!女はただでさえヒマなんだよ」 「僕ね…もう、ちゃんと戻ることにしたから……」 鳩が豆鉄砲を食らったような表情を、カガリはした。 第15話へ→ 桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜 言い訳v*ああ…なんてピッタリなんだイザーク…。違和感なかったですよ。 次回予告*きょうだいついに入れ替わります。時間軸はサクサクっとハイスピードで飛ばして〜〜〜、今まで沈黙を保っていた黒ラクスが動き出します! |
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