第13話
<お前が好きだ!二人で一緒に暮らそう!> 「…………………」 コレは…後朝の文だ。 どう考えたって、いわゆるラブレターだ。 逆さにしたところで、ヒラヒラ振ったところで、裏から透かしてみたって………同性の友人に送る手紙じゃない。 「ど〜します?返事しますかぁ?」 と、目の前で何も知らないシンが焦れている。 (ゼッタイしない!) それは…のっぴきならないところまで行き着きたくはないから。だいたい、あのときの約束が…まだ残っている。 (絶対、会おうって決めたのに…) 「キラ様…?」 「ん〜いいや。たいした用事じゃないから、ほっといて良いよ」 「そーですか…」 さして気にもとめずにシンは自分の用事をするべく、キラの前を離れた。 「仕事でもすれば気が紛れるよね。イザークのところは…しばらく行かないようにすれば…」 だがしかぁし!キラの考えはひたすら甘かった。 朝の会議で…イザークはキラの隣に座る。何もこんな時に!とキラは思うがそんなことはお構いなしだ。 「何故だ?キラ」 イザークが聞いてきたのは分かり切っている。あのラブレターに返事をしなかったせいだ。 「こんな時に…」 まだ始まっていないので、周囲の同僚たちも思い思いに話をしているのは幸いか。しかし話題が話題だけに、ひそひそ話でも、普段以上に気を遣う。 「気持ちは解るが、そう保たんぞ…」 何がって? そりゃぁ、イザークの理性がだ。できることなら今すぐこの場でキラをひっつかんで、ばびゅんと連れて帰りたいらしい。 「後で…」 「そうしたら逃げるだろお前」 「ちゃんと…するから」 キラはちらちら周りを窺う。 「俺はお前のことを、真剣に考えてるんだ」 「僕だって、ちゃんと考えてるよぉ」 そして、定例会議が始まり、危ないひそひそ話はお流れになった。会議終了直後、イザークはキラを引き留めようとするものの、都合良く帝から呼び出しがかかっていて、そういうわけにも行かない。 「はァ〜〜〜〜〜………」 こんな時に、呼び出しがあって良かったのかも知れない。話の内容は何かはよく知らないが、ある種の運の良さにキラは感謝した。 ……………のも束の間。 「あ……あの…ぉ、何か………ヘンですか…?」 今日に限って、ねっっっっとりと絡みついてくる帝の視線。青緑の瞳がキラをとらえて離さない。 「……………」 「……あ、のぉ………」 「キラ…側に来てくれないか?」 何だろう?と思いつつ、人一人分ほど前に座り直す。 「そんな遠くじゃない。ココ!ココ!」 アスランが指さした先、そこは彼のあぐらの上。 っつーか、フツーあり得ないだろ!そこ……。 「無理ですよ」 「何で?」 何でじゃないだろ!何でじゃ! 「僕、普通に重いですから…」 「判ってて言ってるから大丈夫」 「……………」 チョット待て!ちったぁ考えろよ! そこは、どこからどう常識で判断してもあり得ない場所だろ! それでも、キラは警戒してアスランと相対するくらいの距離を開けて座り直した。 「もぉ〜焦れったいなぁ…。じゃ、俺が行く」 そう言うとアスランはふわりと立ち上がって、キラの度真ん前に来た。あまりの近さにさすがにキラだってどぎまぎする。 目の前には端正なアスランの顔があるわけで。でもってその彼に両手でがっちり頬を包み込まれているわけで。 ついこの間イザークと、あんなことがあったばかりだ。キラは自分の秘密がバレやしないかと、さすがに恐ろしくなった。 「ごめん、キラを怖がらせる気はないんだ」 小刻みに震えるキラを、アスランはいい方向で解釈する。誤解なのだが、便利がいいのでそのまま放っておいた。 「あ…ぁの?」 「どうしても、見たくなって……キラ、しばらくこのままキラの顔を俺に見せて」 「ぇ?」 「キラにそっくりって言う尚侍と、会ったことがないんだ」 ああ、そういうこと!と、キラは思う。 要するにそっくりだという噂の自分の顔を見ながら、カガリを想像してるって訳だ。 だがソレではとりあえず自分に危機はないものの、カガリがやばくならないか? 何がやばいのかって………それはたったこないだ経験したことだからさすがに理解できた。つまり…あ〜いうこととか、こ〜いうこととかがあるわけで………。 誰も知らない話、カガリは男なわけで……。 ところが目の前にいるのは、自分の主君。嫌です、の一言はキラには言えなかった。しかもそのまま昼食を食べ終わるまで、アスランはキラを側から離さなかった。 「ぼ…僕午前中の仕事、残ってますから…」 「大丈夫。誰か替わりにさせておくから」 指パッチ〜ン! たったそれだけのことで、キラのその日の仕事はなくなった。 でもって、尚侍と会ったらあんなことしたいこんなことしたいと、ドリー夢を散々キラに向かってささやき、挙げ句の果てには昼食を同伴させ…「はいvあ〜〜〜んv」ときたもんだ。 白昼堂々、イヤらしい話はなかったものの、職務と引き替えにしてまで重要だとはキラは思えない。イヤまぁ、世界中の誰が見ても思えないだろう。 「陛下ぁ〜っ!さすがにお仕事していただかないと、決裁すべき書類が山ッほど溜まってるんですが…」 「う…うるさいな!判ってる!」 この時ばかりは、同僚に感謝した。まかり間違ってこのまま、イザークの時みたいなことになったりでもしたらどうしようかと冷や汗をかいた。 細くても、やはり相手は男で自分は女。現実に押し倒されたとき、出るはずの力も出なくなることは良く知っていたから。 「ごめんねキラ。じゃぁ、またね」 アスランは名残惜しいのか手をヒラヒラさせて、ニッコニコ! 「また」があってたまるか!と思うものの、誰が逆らえるだろうか……。 よく考えたら、「呼び出し」た上に、「人払い」ができる身分なんだ彼は!それって…ヘビに睨まれたカエル!!? 「いったい何だったんだろ…」 ブツブツぼやきながら退出すると、影から手を強い力で引っ張られた。 「やめてくださいッ」 「俺だ。キラ」 「イザーク!?」 そのままイザークの休憩所に連れ込まれる。 「何なんだ、あれは!」 イザークはあからさまに苛ついていた。 「ってか、ずっと見てたの?」 「まさか…バレてないだろうな?」 「うん。バレてはないみたいだけど……」 「でもずっとキラのこと見てただろ…」 「ん〜というより、僕を通してカガリをね」 この時、イザークはキラを真剣に怒った。 「バカかお前は!」 「酷いよイザーク!だって、ただ見てただけだったんだから…」 「俺だって最初はそうだったさ!」 「………それを言われると…」 現実にあった「そういう可能性」。 「何も言えんだろう」 「……うん」 「だから戻れと言っている。キラが望むなら、誰にも知られないような場所に、ちゃんとした屋敷だって用意できる」 「でも…だって、まだ誰にも言い出せなくて……」 「キラ、一つだけ心に留め置いてくれ。俺はお前のこと…マジなんだ」 「イザーク…」 「お前以外…考えられないんだ……」 イザークは苦しげにキラを見据えた。親友であるが故に、キラの心は痛んだ。 第14話へ→ 桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜*桜 言い訳v*ほぼ原作通りの展開です。もとの性に戻ることを渋る女君に対し、女姿に戻って暮らそうと説く中将のほうが、ここでは輝くような人間性を見せている……なんていう書かれ方をしてたな〜。 次回予告*オフィス・ラブ? |
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