桜国ものがたり〜君と僕、あの日の約束〜

 

第1話

 









































































 幼いころ、僕にはとても仲のよかったともだちがいた。

 まいにち、外に出てあそんで…いろんな花を見にいったかな?


 そのなかで、僕もあの子も桜がいちばん好きだった。

「大っきくなったら、またここに来ようね。ぜったいだよ!」

「うん!僕もぜったい、ここにくるから」

「今ははなれちゃうけど、キラのこと忘れないからね」


「仕方ないよ。僕たちはちがう家のこどもだもん。でもっ…きっと、かならずまた会おうね」

「ぜったい、ぜったい会いにくるからね。大きくなってても、すぐにわかるように…おまじないっ」





 僕の記憶が正しければ確か…3歳か4歳の頃だった…ハズだ。そう言って彼は僕の小さな口に軽く口づけて、僕たちは離れ離れになった。以来全く会っていない。





 そんな美しい思い出、を見事にブチ壊した、もっと重大な問題がいまここに。


(ぶっちゃけ…覚えてない……。名前…なんていったっけ?)



 幼い頃、男の子と分けへだてなく遊んだせいか、都に戻ってもいまさら女の子らしい生活に慣れるはずもなく。あの時約束した友達を探したいという希望もあいまって、僕は気楽な男の子ライフを満喫していた。

 何てったって、男の子は楽だよ〜♪着物を重ね着しないでいいし、好きなときに外に出て遊べるし。

 こんな気楽さ味わったら、絶対女の子に戻ろうなんて思わないね!


 ちなみに、この屋敷にはもう一人子供がいるらしいが、実はよく知らない。



 そんなことよりも、長じてできた友達と遊ぶほうがよほど楽しかった。だから、大人の世界のことなど知らなかったし、知りたいとも思わなかった。

 ただ、この楽しい今の生活が続けばそれでよかった。





「キラ…非常に重大且つ大問題な話がある!」

 ある日、キラの父ウズミ−権大納言兼大将をしている−が渋い顔をしながら、食事中のキラの顔をまじまじと見つめてきた。


「なんですか?また、母上とイチャこいてるところに、もう一人の奥さんに乗り込まれたとか?そーいうことなら、聞きたくありませんよ」

「茶化すな!キラ。またとは何だ!本当に大事な話なんだッ」


「ド修羅場が?」

 ウズミの扇子がまっすぐにキラめがけて飛んでくる。それをひょいと身体をねじってキラはよけた。



「いい神経してるな…」

「慣れてますから」


「慣れちゃダメなんだ!お前は女の子だろう。女の子は女の子らしくしていればいいものを、お前がそんな格好をして外で遊びまわるものだから、とんでもないことになってしまったんだ!」


 ウズミは忌々しげにはき捨てた。

 小さな頃は少々おてんばでもいいや。元気であることに変わりはなし。大きくなるまでには何とかなるだろうと、高をくくっていた愛娘。


 んが…キラは一向に女の子に戻る気配はなく、お気楽な男の子暮らしだ。それは現時点でのウズミの最大の悩みのひとつでもあった。





「以前から断り続けてきた、お前の初出仕の話なんだがな…もう、ごまかせそうにない」
※出仕…出勤


「ふぅ〜ん…」


「ふぅ〜んじゃないッ!バレたら…おしまいなんだぞ我が家は!」

「大丈夫。ばれないよ。だって今だって誰も疑ってないし。このまましばらく男の子するの…面白そう!だって、父上には男の子もいるんでしょ?やばくなったらその子と替わればいいじゃん」



「そんな簡単な問題じゃないんだ…キラ、実はお前の出仕の話な…陛下(帝)と東宮(皇太子)さまにどぉ〜うしてもとせがまれて…。

 だからいったん出仕なぞしてみろ、顔がばれるんだぞ?おいそれと入れ替わりなどできるか」





 ウズミの苦渋にゆがむ顔を見ながらキラは考え込む。確かに父ウズミの言うとおり、出仕などしたら顔や筆跡や性格などを覚えられてしまうだろう。

「だからな、キラ。今のうちだぞ今のうち〜」


 ウズミの顔のアップがキラの視界を塞ぐ。非常に鬱陶しいものの、とりあえずその事実をスルーしてキラは頭を巡らせる。



 確かに後で入れ替わってばれない、という保証は限りなく低そうだ。

 だからといって、この話は間違いなく今の自分の噂話から出てきたものだろう。現時点で入れ替わったとしても、思いっきり噂と違う子ならそれはそれで怪しまれはしないか?


 現にもう一人の男の子が活発だなどという話はついぞ聞かない。


 それに…自分には個人的に、あの時別れた友達を探したいという個人的思惑も絡んでいる。





「でもさぁ、僕急に女の子に戻れたってできないし、それにもう一人の子も女の子に慣れちゃってるんでしょ?出仕の話、急いでるんだったら、今更じゃん。ぶっちゃけ時間もないんじゃない?」


 男の子と女の子では、必要なお勉強の内容が全然違う。いくら直前ゼミをしたところで、難しい本がスラスラ頭にはいるとは思えない。





「……ぐ…ッ………。〜〜〜〜〜もう知らんぞ!何があったって知らんぞ私はッ」

 ウズミはキラを突き放した。そうすればキラだって考え直してくれる。そう思っていたわずかな期待は、粉々に打ち砕かれることになった。



「いいよ!僕、出仕するよ」

 その瞬間、ウズミは気を失ったまま翌日まで意識が戻らなかった。





 時間は飛ぶように過ぎ、バタバタと権大納言家は準備に追われる。完全にやけくそになったウズミはかえって、あっけらかんとしていた。

 どうせ、何の間違いか息子のほうも女の子ライフを満喫中だ。もう後は野となれ山となれだ。


 最悪、一家で無人島0円生活だ〜〜〜!



 というわけで、いわゆる成人式をしなければならなくなった。男の子の成人式は元服、女の子は裳着だ。


 時の右大臣に冠をかぶせてもらい、キラは出仕する。

 宮廷の立派さに新鮮な驚きを覚え、帝と東宮に挨拶し、純粋に東宮を見て、きれいな男の人もいるもんだな〜と感心した。それだけでも大満足のキラに、侍従という職が与えられた。



 みんなにちやほやされウキウキ気分のキラに対し、始終涙を流しまくっていたウズミを世の人々は感涙と勘違い。


 しかも能天気なキラがやたら珍しがって笑顔を振りまくものだから、宮中の人のみならず帝や東宮までキラを凝視していることに、ウズミもキラもまっっったくと言っていいほど気づきもしなかった。



 この時既に歯車は回り始めていたのである。




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言い訳vはい、始まりました。一応、平安時代パラレルと言うことですが、あんまり予備知識がなくてもスパスパ読めるようになってる…はずです。

 写真は近所の公園で八重桜がきれいに咲いていたので、早速ケータイで撮影し、若干サイズを変更したものです。当初は壁紙にするつもりでしたが、当てはめてみると異常に鬱陶しいので却下(泣笑)

次回予告
帝&東宮コンビにウズミがネチネチと責められ苦悶していた頃、キラは余裕で社会生活を満喫!なんだか順調すぎて恐ろしい、嵐の前の静けさ。

※ストーリー主軸は結構『とりかへばや物語』を忠実に追っていってる…つもりv
























































































































































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