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金被姫

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前編

 

「いやぁぁあああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!ゼッッッタイにイヤッ!」

 

 城内にキラの金切り声が響き渡る。ズルズルとひこずるドレスを面倒くさそうに両手でかかえ、追いかけてくる父王から必死に逃げていた。

 

「そんなこと言っても、お前ももういい年だろう!それにっ悲しいかなうちは一人娘しかいないんだから、お前に誰かよい婿さんを見つけてだな……」

 

 

「だからイヤだって言ってんの!父さんが連れてくる相手ってろくなヤツいないじゃないっ!ムルタ・アズラエル、ギルバート・デュランダル、ロード・ジブリール、スティング・オークレー…僕はね、結婚がイヤな訳じゃないよ。でもね、もっとマトモな人がいいの」

 

 キラは逃げ回す。後ろからハルマが追いかける。ハルマはいっこうに懲りない様子で、ニコニコ笑いながら爆弾発言を投下した。

 

「ダーイジョーブ!そんなこともあろうかと、全国民中の男という男を招待することにしたからv今度舞踏会を開くよ!これだけ選択肢を広げたんだ。一人はキラの気に入る人がいるだろう」

 

 

 

「なんだってぇーーーーっ!!!」

 

 

 

 キラがあまりにびっくりして止まったところに父が追いついて、キラをそのかいなに抱きしめる。

 

「だってもう決めちゃったもんね〜〜〜♪キラv今度こそ逃げられないよ〜!必ずやキラに男を!目指せわが王家のお婿さん!そして私たちは孫の誕生を待つばかり〜〜〜♪」

 

 

 

 数時間後、王を探し回っていた家臣たちが、ありえない場所です巻きにされているハルマ・ヤマトを発見したのだった。

 

 

 

 

 

 時はさかのぼって数日前。ここ、ザラ家にも例の招待状は届いていた。アスランは上の二人の兄が何やらわいわい騒いでいるのを見て、普段と違うことがあると感じ取っていた。しかし、若くして母が死んで、父は行方不明。そうして自分は親戚の家に引き取られている身。どうしてわがままが言えようか。

 

 

「あ…あの、何かあったの、ですか……?」

 

「お前には関係ないんだよアスラン。俺の部屋の掃除はもう終わったのか?」

長兄ミゲル。

 

「そうだよ。それにそろそろ夕食の準備をしないと、間に合わないぞお前…」

次兄ハイネ。

 

 

 二人は本家の子であるがゆえ、何かにつけて年下のアスランに冷たく当たっていた。

「はい。すみません。すぐに準備します」

 

 

 

 素直に引き下がってアスランは夕食の準備のためにキッチンに向かった。そして、無事に一日が終わり、食器の後かたづけをしていたら、偶然二人の兄が見ていた招待状が目に入った。

 

 

 

「お城からの…招待状?」

 

「おおアスラン!何でもお城のお姫さんの婿を全国から募集するんだとよ。なんでも、まだいい人が見つからないらしくてな、俺たちのような庶民のところまで来ちゃったって訳」

 

 

 おおかた招待状らしからぬその手紙には、とんでもないことが書かれていた。

<国中の男性からキラ姫のお婿さんを募集しています。若くて健康で精力に自信のある方は、下記の日程にて行われる舞踏会にぜひご出席下さい。当国では一日も早い跡継ぎ息子の誕生を望んでいます!>

 

 

 

「ま…さ、こんだけ探していないってことは、とんでもないブサイクかワガママ姫だろうけどよ、そんなこと俺たちには関係ないじゃん?要は裕福に暮らせればいいのよ、な?ハイネ!」

「そうそう兄さん。でもお前はダメな!家の仕事が残ってるし、だいたいお前舞踏会に着ていく服持ってないだろ」

 

 そうだった。今まで持っていたいい服は全て生活費に消えていったのであった。

 

 

「………はい。すみません、行ってらっしゃい兄さん。あの、でもできれば何か食べ物を持って帰ってくれると……」

 

「ばーか!そんなヒマあるかよ!それに、俺たち美男子コンビがいけば、ワガママ姫さんでもイチコロよ。そん時まで、家の切り盛りは任せたぞアスラン!」

 

 

 そして、二人の兄はウキウキと舞踏会への準備を始めていったのであった。

 

 

 

 

 

 「あっっ」と言う間に時間は過ぎ、いよいよ本日がお城での舞踏会の当日となってしまった。二人の兄はすでに一張羅に着替えて出かけている。ザラ家にいるのはアスラン一人になってしまっていた。アスランはふとお城の方角を向き、中で行われていること……イヤ正確には並べられている料理の数々に思いをはせた。

 

 

「俺も……行きたかったな……舞踏会……………」

 

 確かに、二人の兄が出かけてこの家はやっと静かになってはいた。ミゲル、ハイネと一緒くたに「漫才トリオ」などと今日ばかりは言われずにすむ。正直、一人の時間も欲しかったところだ。しかし…そんなことよりも急を要する問題が、ザラ家をおおっていた。

 

 

 きゅるる〜〜〜…ぐぎゅ……きゅるるる〜〜〜〜〜〜ッッ……………。

 

 

「お腹……すいたよぉ……」

 

 

 招待状が来てからと言うものの、アスランの食事は二人の兄に全て取られ、ここのところわずかに残っていたパンしか食べていなかった。もう、キッチンに余分な食材はない。

 

「何でもいいから…食べたい……」

 

 

 

 きっとお城でも色とりどりの料理が並べられているんだろうな〜〜。ちょっとくらいお裾分けしてもらえないかな…?そうしたら、二、三日分はゆうに食べられるのに……。

と思っていたら目の前が急に明るくなった。

 

 

「お城に行きたいかね?」

 

 という声まで聞こえる。あまりな超常現象にさすがに引いていると、目の前に現れたもやはだんだん結晶になっていき、最終的には人の形になった。

 

「ち……ッ父上!」

 そう。それは十年ほど前から行方不明になっていた父パトリック・ザラの姿であった。

 

 

「そんなにお城に行きたいかね?アスラン」

 

 

 

「……………。一体あなたはナニをしてるんですか……」

 

 

 アスランがいぶかしむのも無理はなかろう。一人息子をおいて行方をくらました父は、すっかり魔法使いになっていた。それは服装を見ればすぐ判る。判るが……ナニかが間違っている、とアスランは強く思う。

 

 

 それは…いわゆる「魔女」の格好だった。

 

「うむ。あのとき私に天の啓示がおりてきてな。弟子入りした先が魔女だったのだよ」

 

 

 

「あ”〜〜〜ソレは今の父上を見ればすぐに判りますから」

「判ってくれるか?さすが私の息子だ!」

 

 父が感慨にふけっている目の前でアスランはボロボロの自宅をビシッと指さす。

 

 

「……だったら、なんでこうなる前に俺たちを助けてくれなかったんです!明日食べる食料もなくて…でも兄さんたちは相変わらずワガママ放題だしッお金がないと言えばどっかのサラ金から借りてきて…ソレを全部俺に押しつけるんですよ!ザラ家の家計は火の車だ」

 

「ううむ、すまんな。だって修行を終えて山を下りてきたらこうなっていたのだ。お詫びにお前をお城に連れてってやるから……な!」

 

 

 

 アスランはここぞとばかりに父の胸ぐらを掴んで、眉間にシワを寄せながら言いつのった。

 

「ええぜひ連れてってください!そこで俺は当面の食料と……それとありったけの貴金属を盗んで帰らなきゃ…」

 

 

「こらこら!盗みはいかんぞアスラン。ザラ家の息子として恥ずかしくないのか」

 

 

「よくもまぁ今さらそんなことをぬけぬけと言えますね!アナタはっ!兄さんたちのせいで、この家も抵当に入ってるんですよ!盗みでもして金を稼がなきゃ、俺たちは即飢え死にだ!というわけで、サァ連れてってください今すぐ!お城へ!」

 

 

 

「わ…判った!わかったから落ち着けアスラン。今、舞踏会に必要なものを出してやるから、台所から何か食品を…」

 

 最後まで言い終える前にパトリックは息子に張りとばされた。

「そんなモノ……ウチにあるわけないだろーーーッ!!!俺のものと言えば今着てるこのボロ服しかないですよ!」

 

 

 

「あ〜だったらそれでいい!じゃ、アスラン、その服を脱げ!」

 

 

「こんのド変態〜〜〜〜〜ッ」

 

 

 しばらくすったもんだしていたが、それ以外に方法はないと知ると仕方なくアスランは今着ている唯一のボロ服を脱ぎだした。息子の脱いだ服を汚そうに指でつまみ上げながら、パトリックは呪文を唱えて次々と馬車や馬に替えていく。

 

 

「てく●くまやこんてくまくま●こん、息子の汚らしいパンツよスーツになぁれv」

 

 

「…………………………」

 

 

 何かが激しく間違っている………と、アスランは強烈に思った。大体十年以上もこんな下らないことに時間を費やすくらいなら、フツ〜に働いてフツ〜〜〜に稼いだ方がよっぽどマシだ……。

 

 

「では行ってきなさい!あ……ところでな、私の魔力不足で魔法は深夜0時には解けるから」

 

 次の瞬間、パトリック・ザラは隣町まで殴り飛ばされたという。

 

 

 

「もう二度と帰ってくんなクソ親父〜〜〜〜〜ッ!!!!!」

 そうしてアスランはいそいそとお城に向かったのであった。

 

 

 

 

 

 その頃。お城では相変わらずキラが逃げ回っていた。

 

「キラ姫!私のものになってくれると約束したでしょうッ」

「その話はお断りって言ったはずでしょッ!」

 まずアズラエルが蹴り飛ばされる。

 

「キラ姫ッ私と世界を手中に……」

「要らないよそんなもん!」

 ジブリールが池に沈み……

 

「やぁやぁキラ姫お久しぶりですな。私ならあなただけでなく、国民の皆まで幸せにしてみせるから」

「ワカメは去ってッ!」

 デュランダルの顔面にこぶしが見事にヒットする。

「す…ばら、しい……キラ姫………さすが、わが国の…至宝、最高、の……」

 

 バタン!しかしデュランダルが倒れようとも追跡者が消えたわけではない。押し寄せる男の大群に、キラの顔は真っ青になっていった。

 

 

 

 城の外ではアスランが到着していた。

「すみません。遅くなったのですが……」

 

 門番は大きな包みを抱えているアスランの従者を不審がる。

「その包みは?」

「姫様への献上品です」

 こんな時のために前もって考えておいた言い訳を言う。

 

 

「そうですか。で、あなたは正真正銘の男ですね?」

 アスランの頭に?マークがいくつも浮かんだ。

 

「申し訳ありませんが、規則ですのでちょっと確認させていただきます」

 

 ムニュッ!

 

 

「ギャァアッ!何するんですかッ」

 

 しかし、アスランの怒りをスルーして門番は彼を問題なく城内に案内した。結局何事もなく舞踏会会場に入り込んだアスランは、早速従者になにがしか命令し、持ってきた包みを開け、「作業」に取りかかった。

 

 

 

 ところが数分後、大音響とともに周囲がにわかに騒がしくなってくる。しかしそんなことに構っている余裕はなかった。アスランにとっては貴重な貴重な「明日っからの食料」ここで逃すわけにはいかないッ!

 

 

「き……っ…君ィッ!僕と…っ、僕と踊ってください…ッ!!!!!」

 背後から急に女の声が聞こえた。

 

 

後編へ→

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言い訳v:急に思いつくネタを急いで書くからこんな事に(冷汗)滅多にありえないミゲル、ハイネ、アスラン3兄弟。 しかも上の二人は同じ顔、同じ声、同じ性格だからたまったもんじゃないですね(笑)いやぁアスランが猛烈にお城へ行きたがる理由は案外簡単に思い浮かびました。この設定で書いてゆくと「ごはん」しかないな…と(末期症状…)
………で、問題のパトリックの変態セリフなんですが、アレは後編への伏線のため、彼の性格を変えざるをえませんでした。所詮コメディですから…そーいう伏線ですけどね(笑)

次回予告:飢餓状態のアスランにはキラが食費に見える!そうこうしているうちに約束の0時はあっさりやってきた。危うしアスラン!そして彼の前代未聞の忘れ物が、数ヶ月後国中を駆けめぐる!いやラストはハピエンなんですけどねv

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