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 金被姫

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後編

 悲壮感ただよう声と、ぐわし!と掴まれた腕ではじめて我に返った。はっきり言って、ヤバイ!今彼は何をしているのかというと、テーブルの上に並べられた料理を日持ちのしそうなものから順にタッパーに詰めている最中であった。

 

 

「あ……ぇと、俺……はッ……」

 

 

 

 いきなり目の前に現れたのはとてつもなく高そうなドレスを着た超絶美人。ああ…このドレス、いくらで売れるんだろうなーと、不謹慎な頭で考えた。

 

 

「お願いッ!僕と……踊って…!人助けだと思って……」

 言われて周囲を見渡すと、ぎらついた目をした男どもが黒いオーラをただよわせている。

 

 

「あ、でも俺踊り方…知らな……」

「僕がリードするからッ君は僕に合わせてくれればいいから…ねっ」

 

 食料のタッパー詰めと、目の前の人助け……アスランの頭の中で天秤がかけられ、そして彼は人助けのほうを取った。これだけ周囲の注目を浴びていては盗みなんてできない。貴金属の窃盗のほうは従者に任せてあるわけだし、最悪明日の食料はあきらめても、宝石の一つでもあれば当面食べていける………。とりあえず目の前の可愛子ちゃんと踊って、一生の思い出を作るのもいいかもな……窃盗はそれからでも………。この間0.2秒。

 

 

「はい」

 

 

 

 予定にはなかったことだが、アスランは目の前の超絶可愛い女の子と踊るハメになった。とは言ってもダンスなんて知らないアスランは終始キラにリードされっぱなしだったが、それでもキラは上手にアスランがリードしているように見せてくれた。

 

 

 

「相談があるんだけど……」

 話が音楽にかき消されるのをいいことに、キラがアスランにひそひそ話を持ちかける。

 

「……え?」

「周りでぎらついてる変態……見れば判るよね。みんな僕を狙ってるんだ」

 

 

「!!!!!」

 

 その一言で急に視界がクリアーになる。目の前にいるこの超〜絶可愛い女の子こそ、「キラ姫」なのだと。アスランの心臓はガラにもなく跳ね上がった。

 

「でね、この曲が終わったら全力で逃げるから、君に僕の護衛をお願いしたいんだ」

「……姫…」

 

 

「もちろん報酬はたっっっっぷり払うよ!」

 頭の中で針が急激に振れた。

 

 

(やったぁッ!お・か・ね〜〜〜〜〜vありがとうッ俺の食費〜〜〜〜〜v)

 

 

「判りました!野獣どもから姫を守りきって見せます!」

 

 

 

 ゆっくりとした時間が過ぎ、ダンスのステップもおおかた飲み込めてきた頃、問題の音楽は終了した。

 

「ではいきますよ!姫」

「うんv」

 

 とたん、二人は猛ダッシュをかける。アスランに引っ張られて風のように逃げ去る二人を、最後まで追いかけられる者はいなかった。

 

 

 

 

 

「ハァハァハァ……っあり、が…とう。おかげで、助かった……」

「どういたしまして、姫。俺もこんな形で姫にお会いできるなんて思ってなかったから、良い思い出になります」

 

 

「ごめんね。僕のワガママに付きあってもらっちゃって…でも、あんな変態と結婚するなんて死んでもイヤだったから」

 キラ姫が笑いかけた。その笑顔にアスランはノックダウンしてしまった。

 

 

(かわいい………すっごい、可愛い……)

 

 

「あ、そうだ君!口座を、ちゃんとお礼を振り込むから振込先を教えて」

 

「あ、いやキラ姫…」

「なんだかんだ言ってさ、現金が一番嬉しいでしょ?」

 

 

 アスランは思わず出かけていたよだれを引っ込め、ポケットの中をあわてて探し出した。しかし、そんなところにメモ紙なんてあるわけがない。焦っているうちにアラームが鳴り出した。ヤバイ!5分前だ。

 

 

 

「あぁあのさ、また…また姫に会いに来るから、その時で…」

 

「その時っていつ?僕お金用意しとくから…」

「いや、いつっ…て、言われても……」

 

 

 アラームはもうすぐ鳴り終わりそうだ。

 

「ホントにまた…また姫に会いに行くから、ね?ほらアラーム鳴ってるし、俺これから用事なんだ…だから、だから必ずね……ッッ」

 

 

 

 言うが早いか、アスランは真っ青になってキラの前から逃げ出した。だって…本当にもう帰ってしまわないと、魔法が解けてしまう。あの後懲りもせずに自分の前に戻ってきた父を脅して、城門前で待っていてもらうことにしたがこのままでは間に合わなくなってしまう。

 

 

 キラが、

「せめて…せめて名前でも……」

 

と言いながら追いかけてきてくれているのは知ってはいたが、その段ではなかった。

 

 

 

 

 

 深夜0時過ぎ、目の前から急に逃げ去った男の落とし物を見つけて、キラはくすっと微笑んだ。

「こんな落とし物して…おちゃめな人」

 

 

 

 

 

 数ヶ月後。男の「落とし物」を持って、お城からの使者が一軒一軒落とし主を捜していた。そしてようやく使者はザラ家の扉を叩く。

 

 

「何だよ!借金取りなら帰りな!」

 ミゲルが怒鳴りながら出ていくと目の前には、国の使者がいた。

 

「今、姫様のご命令で落とし物の持ち主を捜しているのです」

 

 

 ミゲルはその一言でピンと来たらしく、いったん家の中に入ってハイネを呼んできた。

「こないだのキラ姫の婿取りの話だろ?……で、俺たちのどっちに決まったんだ?」

 

「あいにく姫様がお名前を覚えておいででないと言うことですので、こちらの落とし物をお持ちして探しているのですよ」

 

 

 

 落とし物……目の前に大事そうに出されたソレは………なんと「パンツ」であった。

 

「アレ?これ…アスランのパンツじゃん…」

 

 

 ミゲルとハイネが固まっている。目の前の落とし物(パンツ)を見て、二人はどうしてもあらぬ想像をしてしまう。まさか、魔法が解け、スーツがパンツに戻ったとは思えない。

 

 

「アスラン?ああこの家の末っ子の!アスラン・ザラ様ですな?アスラン様、いらっしゃるならこちらへ出てきていただけませんか?」

 

 使者が大声をあげるのでアスランは何だろうと思いながら玄関へ出る。そして…数ヶ月前になくしたばかりの、数少ない自分のパンツを見て素っ頓狂な声をあげた。

 

 

 

「あ〜〜〜〜〜!俺のパンツ!!ありがとうございます!なくしたと思ったんですけど、あって良かった俺のパンツ〜」

 

「アスラン様?アスラン・ザラ様でございますな?」

 

 

「へ?あ、はい。そうですけど?」

「姫様がお待ちかねでございます。今すぐお城へいらしてくださいませ」

 

「え?あ…?でも、俺……」

 

 

 

「ちょっと待てよ!何でアスランなんだよ!」

 ハイネがぶーたれる。ミゲルも同じ気分のようだ。

 

「あの舞踏会の日から、姫様は片時もこの落とし物を放されることはありませんでした。自分を助けてくれた素敵な恩人だとおっしゃって……それは大事にしておられたのです」

 

 

「……………。その小汚いパンツを?」

 

 

「意中の方ですかとお聞きしたら、頬を染められて「そうかも…」とおっしゃるので、もうその方をお捜しするしかないと言う話になりましてな…それが、アスラン・ザラ様だったのです」

 

 

 当のアスランは、あまり事態を飲み込めていないようで、ひたすら呆然としていた。

 

「ささ、アスラン様……こちらの馬車へ」

 

 

 

 使者に促されるままに馬車に乗り、ボーっとしている間にお城に着き、ボロの一張羅を強制的に着替えさせられたところでキラ姫との対面となった。

 

 

 

「この間は、ごめんね。僕のワガママに付きあってもらって」

 

「あ、うん。いいんだ。俺こそごめん。君が……その、お姫様だなんて知らなかったから……すごく可愛いなっとは思ったけど」

 

 

 やけに照れてしまって、敬語も忘れてしどろもどろになっていた間に、当のキラ姫はなんだか真っ赤になっていた。

「なんかね、僕…君が走っていっちゃってから、すごく寂しくなって…ヘンだなって相談したらこんなことになっちゃって…侍女が、僕は君に惚れてるんだって言ってて、僕そういうのよくわかんなくって……」

 

 

 

 アスランは、ああ…、と気づいた。純粋すぎて、恋心のなんたるかも知らないままに大きくなっちゃったんだ……でも姫はちゃんと成長してるよ……。

 

 

「あの日助けてもらった君のこと、どうやって説明しようかと思ってさ、髪は藍色で、色白の肌に綺麗な瞳をしてるんだって何度も言ってたら、侍女がね、そう言うんだ…」

 キラは何かに焦っているような口調になっていた。そんな彼女を見て、ゆっくり近づき、彼女の両肩に軽く手を載せた。

 

 

 

「姫…今、姫の心臓がすごくドキドキしてる?」

 

「う…ん。なんだか、すごく……ヘン。いつもの僕じゃないよ…」

「これがね、恋なんだよ姫。姫は俺を好きになっちゃったんだね」

 

 

「好き…?と…父さんとね、母さんが好きな人と結婚しなさいって…そう言ってたけど、好きだったら、結婚できるの?」

「うん。世の中で一番好きって思う人と結婚するのが一番幸せなんだよ、姫」

 

「アスランは…?」

「俺も…姫のこと、好きになっちゃったな。ずっと、姫と一緒にいたいと思うよ」

「アスラン……」

 

 

 

「姫…キス、してもいいですか?」

 

 そう言うとキラはきょとんとして、即決でOKを出した。紫の瞳を軽く閉じて、頬を差し出すキラ。どうやら「あいさつのキス」と間違えているようだ。キラ姫の瞳が閉じられているのをいいことに、アスランはキラに近寄りうむを言わせない強引さで彼女の唇を奪った。びっくりして目をぱちぱちさせているがもう遅い。何が遅いって、アスランの気持ちも引き返せないところまで来ていた。実際キラの抵抗が止み、アスランにすがってくるまでほとんど時間はかからなかった。

 

 

 

「キラ…俺と、結婚して」

 

 

「結婚、したらずっとアスランと一緒にいられる?」

「結婚するから、ずっとキラと一緒にいられるんだよ」

 

「うんvじゃ、僕アスランと結婚するv」

 

 

 

 いつの間にか人払いされた部屋で、二人はしばらく熱い口づけを交わした。

 

 

 それからさらに数週間後、めでたく二人は結婚しとても幸せに暮らしました。

 

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言い訳v:他の素敵サイト様ではもっと素晴らしいシンデレラパラレルが読めるというのに、どうして秋山の頭はこうなんですよ(諦)この言い訳コーナーを読んでくださってるってことは、今までのおふざけを笑って許してくれた心の広〜ぉい方なんですよねvこんなありえないシンデレラ書いちゃってさ(遠い目…)

 すみませんねぇ…シリアス路線では書けないネタもコメディ全開なんで堂々と書けるんすよね〜今回は貧乏性アスランです(笑)何てったってタッパーですよタッパー。この庶民的な響きが何とも言えません(冷汗)…でもってお金に目が眩んだアスランの忘れ物は、ガラスの靴なんてメルフェンなもんじゃありません(笑)「パンツ」になったのはあくまでも設定の都合上ですけどね。と……とにかくご笑納下さり誠に有難うございました!

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