「とにかく、小人族と確実に接触できる滅多にない機会です。会って話をいたしましょう」 「そうだな」 皇后レノアの病気のことがある。 小人族にしか収穫・調合できない幻の薬。それが当初の目的だった。この際、いくら金銭を積んでも惜しくはない。 皇子の部下は意を決して、ドアをノックした。するとすぐに中から返事があり、黒い髪の小人が出てきた。
「なんですか?」 「君は小人族だね?」 「……はい」 「実は、君たちにしか頼めない、緊急かつ重要な依頼があるのだが、どうか話を聞いてはもらえないだろうか?」 礼儀正しい男の問いかけに、シンはいつもと違う感じを受けた。 目立ちにくい服装ではあるが身なりもしっかりしているし、どうやら近所の人間ではなさそうだ。 「どちらから来られたんですか?」 「インフィニットジャスティスから」 それは、アプリリウス帝国の帝都の名前だった。 「ちょっとお待ち下さい」 そう言って、シンは家の中に入り、しばらくして男たちをリビングに招き入れた。 「私どもは、アプリリウス帝国の伯爵の使いです」 そう、護衛の長は嘘をついた。だいたい表の張り紙からして怪しい。本当のことをあっさりばらすのは当然ためらわれた。 「実は当家の夫人が不治の病に苦しんでおりまして、その病を治せるのはあなた方小人族の調合した薬のみと伺い、こうして忍んでやって来ているのです」 「……はぁ」 期待していた話ではなかったから、小人たちの反応は鈍かった。 「息子のアレックス・ディノだ。私からも頼む。母の病気を…治して欲しい」 部下に合わせ、皇子も身分と名前を偽った。 「息子?伯爵の息子さんか?」 「…はい」 「条件がある…」 イザークの一言に、サッと緊張が走った。 「お前、未婚か?」 「ええ」 「付き合っている女は?愛人は?」 「いるわけないだろう!」 「子作りに興味はあるか?」 「………ないと言えば嘘になる」 「妻は複数欲しいほうか?」 「愛する人がいれば一人で充分だ。面倒くさい」 しばらく沈黙が流れ、皇子は小人たちにあれこれ身体をまさぐられ…そして、頑丈に鍵のかけられた別室に通された。 この中にいる女性の事情はあらかた聞いている。 だが、そうは言ってもあまりに唐突なこの話。嘘かも知れないのだ。断るかも知れないと、あらかじめ小人たちに言った上そっと部屋の中に入った。 そこで、前代未聞の衝撃を受けるとも思わないで。 「一回1000ゴールドです」 「ちょっと待て!金取るのか!」 「俺たちに飢えろとでも言うんですか?」 「そうは言わない!だが…」 「これは危険負担と思っていただきます。こちらにいるのは間違いなくこの国の姫さまです。こちらだって事情があるんです。そうそうたやすく素顔を見せて、ろくでもない男とくっつかれたら困ります」 今、キラはここに来たときのドレスを着ていた。質素ながらも上等なシルクのドレスは、そんじょそこらで手に入るようなものではないことはよく判る。 部下がシンやレイと値切り交渉をしているその横で、約一名があまりの衝撃にガタガタと震えていた。 「ア…アレックス様っ」 顔面も蒼白だった。 声をかけても、気づかない。 なにか、恐ろしい夢でも見ているような表情で、皇子はいまだ眠り続けるキラ姫を凝視していた。 「アレックス様!」 「いかん。震えておられる。とりあえずアレックス様を隣室へ」 そう言って、皇子を連れ出そうとしたら意外にもその皇子から止められた。 「いや、いい。ならぬ…」 「しかし!」 この震えは尋常ではない。部下は、この眠り続ける女性が何か皇子に悪影響を与えているのではないかと、冷や汗をかいた。 「出るには及ばん。俺は大丈夫だ」 ガタガタと震えながら、恐る恐るキラに近づく皇子。 手出しのできない緊張に、部下は焦りはピークに達した。 「か………か、わいい……」 「………………………は!?」 素っ頓狂な返答が、えらく場違いだった。 「こんな…かわいい娘………見たことない…」 そして皇子の指先がそっとキラの頬に触れる。瞬間、彼の頬に朱が走った。 第10話へ→ *kiminohitominonakaniorehaimasuka**kiminohitominonakaniorehaimasuka**kiminohitominonakaniorehaimasuka* 言い訳v:都市の名前に困り…もぉ良いですね(笑) 次回予告:へたれを強調するために、格好いい(?)アスランを書いてみました。え?要らない?いや〜ん、こんなところで見捨てないで(笑) |
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