「これが怪しいですね」 「ああ。このリンゴが怪しいな…」 「でも普通のリンゴですよね?」 「あっ!こら、シン。食べるな」 「何で?」 「まずは調べてからだ」 「あ、そっか」
「とりあえず、残されたリンゴに毒薬試験紙を当ててみましょう」 毒薬試験紙。森の全てを知り尽くす小人たちが、独自に開発したものだ。この試験紙は毒という毒に100%反応する。 それだけではない。試験紙の反応した色によって、その毒の種類、強さが判るというスグレモノだった。 「イザーク、ピンシャー持ってきて」 「判ってるッ」 この毒薬試験紙は、ピンシャーと名付けられ、市井にも売られていた。 薬学に詳しいイザークが、試験紙を慎重にリンゴに当てる。するとみるみるうちに試験紙が反応した。 「うっわ…まっぴんく………」 色はピンクだった。 しかも相当「濃い」。 つまりこれは毒薬と言うより、超強力な「ヤラシイ薬」か「惚れ薬」だ。 「もしかして…キラさん……死んだわけじゃない?」 「どうやらそのようだな。まぁ、たいがい惚れ薬だろう。今は薬で眠っているが、きっと目が覚めたら目の前にいる異性に惚れ込んでしまうとか、とにかくそういった類のものだ」 「じゃ…じゃぁ、俺たちがキラさんを起こしちゃまずいってことですか…」 そう、結論づいた。 キラは、いくら図太くなっていようが、商魂たくましくなっていようが、この国の姫だ。 もしこれが本当に惚れ薬だとして、下手な男に惚れてしまったらとんでもないことになる。じっさい、キラの惚れた変な男がこの国の王になったら、自分たち小人族はこの森から追い出されるかも知れないのだ。 そうなればもう、生きてゆく手段がない。 「素性のちゃんとした、しっかりした身分の人をこちらが見つけるしかなかろう…」 それは…困難を極めそうだった。 だいたい、こんな森の側近くに、都合良く貴族や王族が通るはずがない。 しかも、キラが好きになったところで、その相手がキラを嫌ったり大事にしてくれなければどっちみち困ることになる。 「とりあえずさ、もしキラ起きたらこちらから説明するとして、キラの視界をとりあえず塞ごう」 そして眠り姫に、小人特製アイマスクがかけられることになった。 だがそうすれば、キラの素顔が見てみたいと思わせるような色気が出てくる。小人たちはそんなキラの姿にごくりとのどを鳴らした。 数日が無為に過ぎた頃、隣国の皇子はわずかな護衛とともに、遂にお忍びでこの森の近くまでやって来た。 「都合良く見つかったとしても、小人族はすぐに森に逃げ込んでしまい、話し合いができるかどうかは保証しかねますぞ」 「ああ、判っている」 それでも、皇子は急がねばならない理由があった。 「レノア様のご病状は逐一私どもに報告が入ることになっております。その報告いかんによっては、諦めて王宮へお戻り頂きます」 「判っている!」 苦々しく、皇子は言った。 しばらく森沿いに馬を進めていると、一軒のこぢんまりとした建物が見えてきた。 「殿下、お待ち下され。様子を見てまいります」 部下の一人が言い、先に家の前まで馬を進め………そして家の玄関とおぼしき場所の前で固まっているのが視認できた。 「どうした?」 「なんじゃ…コリャ………?」 「危険なのか?」 「いえ、そうではないようですが…その、意味不明な張り紙が…」 「張り紙?」 皇子は不思議に思い、自分の馬をその場所に進めていき、やはり固まった。 −人間の方へのお願い。当家では身分の高くて、若くてソッチ方面にも自信と実力のあるイケメンを探しております。結婚をお考えの高位のお年頃の方はぜひご連絡下さい。小人族− 「なんだコリャ…?」 意味は理解しかねるものの、条件は合っているように思われた。 ここにいるのは隣国だが一国の皇子。 そしてその皇子はまだ若くて未婚だ。 「この…ソッチ方面………というのは?」 その後の条件が問題だった。部下同士が顔を見合わせる。 「…だから、アレのことだろ?アッチ方面………」 そして、失礼とも気づかずに視線はある一点に集中した。その視線に気づいた皇子が、乗騎の鞍のほうに目線を向け、不思議そうな表情をしていた。 「ココ……?」 第9話へ→ *kiminohitominonakaniorehaimasuka**kiminohitominonakaniorehaimasuka**kiminohitominonakaniorehaimasuka* 言い訳v:相変わらず場違いなサブタイトルですが、全体を通して統制を取っている(つもりな)ので…(笑)ちなみにもうお判りと思いますが、物の名前に困り、犬種名が多出してます。 次回予告:アレックスvsイザーク。「子作りに興味はあるか?」 |
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