キラは本当にお姫様で、何にもできない少女だと言うことが、小人たちの説明でよく判った。途中、どうにもおかしいと感じたディアッカが、貴族かどこかのお嬢様かと聞いたので、もはや隠しておけないと思い、キラは思いきってこの国の姫だと明かした。


 そのことを驚きつつも受け入れてくれた小人たちに、キラは感謝をしている。

 普通、あり得ない話だ。お金目当てとか、でっち上げだと思われても仕方がない。





「君の瞳の中に、俺は居ますか?」

<第5話>水を得たサカナ





「だったら、ちょっとずつでいいから覚えていけばいいじゃないですか」

 黒髪のシンに言われ、キラはふっと強ばっていた気分が軽くなったと思った。


「そうさ。別に俺たちは今日明日って焦らないし、それよか毎日食料が要るキラのほうが大変なんだからさ」

 ディアッカも賛成してくれた。


「俺たちは最低限の食料さえあればいい。別に二、三日食べなくても水さえあれば平気な種族だしな」

 イザークでさえ、キラに味方してくれた。ちなみに小鳥のトリィと球体生物のハロは、既にキラに懐いている。



「街に行くときはですね、このハロとトリィを連れて行くといいですよ。人間に対して警戒心もないし、怪しまれないし、何より客引きになるから結構役に立つと思うよ」

「ありがとう!ニコルさん。僕…初めてだからよくわかんないけど、とにかく何でもやってみるね!」



 念のため、持ってきたお金のこともみんなに話した。

 とにかく何もなくても当面お金があるのだから、困ることはないと言われ、キラは少しだけ自分に自信を持った。





「あ、なんだかいい匂いがしてきた…」


 不思議に思っていると、いつの間にか姿を消していたレイがキッチンからやって来た。どうやら食事の準備をしていたらしい。



「昨日採ってきた果物が少しあるから、食べませんか?」

「食べよう食べよう!キラさんも一緒に食べましょうよ。ここの森で採れる果物は美味しいんですよ」

 シンがはしゃぎながらキッチンに行き、配膳の手伝いを始めた。



「僕がもらっても、いいの?」

 昨日食べたお弁当の残りが少しあるから良いといったが、ディアッカやニコルに誘われ果物を頂くことになった。


「これ…何?」



 それはキラにとって初めての体験と言っても良かった。お城でも果物は結構食べていたが、世の中にはこんなにもたくさんの種類の果物があるとはついぞ知らなかったのだ。


「ああこれはスパニエルという桃の一種です。それでこちらがマンゴーの品種でマラミュート。果樹園で栽培してるものじゃないから甘みは強いですが、ちょっと癖があるかも知れません。お嫌いだったらいいですけど……」

 レイが説明してくれた。


 この森は地域によって寒いところと暑いところが混在し、意外にも年がら年中多くの種類の果物が採れるという。

 食卓には他にも色んな種類の果物が少しずつ盛ってあった。量を必要とするわけではないが、確かに多種類の食べ物を同時に摂った方が健康にはいい。

 ちなみに残った果物は干して保存食にしておくという。これがまた売れるのだとか。



「でもよく人に盗られないね…」

 キラは不思議に思った。そんなに良質の果物が通年採れるなら、人間が立ち入ってそのほとんどを収穫していくことはないのか、と。


「それはあり得ないな。第一そういうところは俺たちでなければ入れんのだ」

 と、イザーク。



「……なんで?」

「そういうところの周りはたいてい地盤が悪かったり、森自体が迷宮になってて帰ってこられなくなったり、人間の侵入を拒む樹木とかが生えてたりするんです」

 ちなみにそういうところに入り込むと、体の調子が悪くなったり、ひどいときは枝や蔦で人間を直接攻撃することもあるという。



「すごいところだね…」


「だからこそ俺たちが生きていかれるし、人間との取引も成り立つんだ」


 イザークに言われ、キラはなるほどと思った。


 この小人たちはそういう自然の中で、独自に進化した種族と言うことらしかった。自分にはまだまだこの国で知らないことがたくさんある!


 キラは新しい可能性と知識に目を輝かせた。





「ねぇニコルさん。僕お昼から街へ出かけていきたいんだけど、いいかなぁ?」

 今まで自分の生活圏にはなかった”市街地”。

 キラの興味はどんどんふくらんでいっていた。



「いいですよ。できたらこの干した果物を売ってきてくれると助かります」

「どうやって売ればいいの?」


「大丈夫ですよ。トリィとハロが付いていきますから。彼らが全て知っています」

「うん、判った」



「そうやっていったんお金に換えて、そのお金で白い布を買ってきて欲しいんです」

「布?」


「ええ。色は自分たちで染めて、僕たちの服を作るんです」

 見ればけっこうカラフルな服を着ている。それが既製品でないことにキラはびっくりした。


 でもそれも説明されれば容易に理解できることで。

 いわく「種族が違うから、子供用の服では合わない」のだそうだ。



「へぇ〜すごーい!おもしろそう!ねっ服作るとことか、僕も見てもいい?」

「もっちろん!」


 お調子者のディアッカが飛び上がって喜んだ。



 そうやって少しずつ、キラは小人たちに溶けこんでいった。


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言い訳v:森に入るとザコ敵がわんさか…RPGゲームの王道です。ゴブリンとか、キラービーとか…(笑)
次回予告:お待たせしました。やっとこさあのお方の登場です。名前は出てきませんが、バレバレです。

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