「少しの間だけでいいから、一人暮らしがしたいんです」


 キラから言われた一言に、ギルバートはショックを隠しきれなかった。



「どうしたね。ミーアとケンカでもしたのかね?」


 キラはしばらくうつむき、黙ってそしておもむろに答えた。

「そういうことじゃないんですが、僕一人娘だし、どうせお婿さんを迎えるんでしょう?だったら、この国のこと、もっと知っておかなくちゃって…思ったんです」


 嘘だった。


 キラだって考え考え言っているのだ。それがギルバートに判らないはずはない。

 だが、キラとてもう限界だった。


 ギルバートの知らないところで城中に張りめぐらされた、子供じみた罠の数々。落とし穴の底に大量の墨が入れられていたり、お気に入りのドレスを盗まれたり破られたり、はたまた寝室に大量のヤブ蚊を放たれていたことさえあった。


 誰がやってるかなんて調べなくても判る。


 正直、そんな下らないことから解放されて、一人でのんびり冷静になる時間が欲しかった。





「君の瞳の中に、俺は居ますか?」

<第3話>キラ、城から追い出…てやる





「しかしなぁ、そうは言ってもお前を一人で市井に出すのは不安だよ。いつ何時不届きな男がお前の貞操を狙ってやってくるかも知れないし…とにかく危険な目に遭わせたくないんだ」



「…………………」


 さすがエロオヤジ。露骨すぎるデュランダルの様子に、キラはますますこんな父親から離れたいと思う。

 しかもミーアとイチャイチャしている姿なんて、正直見たくなかった。


 歳を考えれば今さら更正はムリとしても、せめて自分がいる前では自重とか言う言葉を知って欲しい。





「ミーアはどう思うかね?」


「う〜ん〜、よく判らないけどぉ〜、ほら子供って旅をさせるといいって聞いたことあるしぃ〜、ミーアは別にいいと思うけどぉ……」


(っつぅか!それフツー男の子だけだから!)



 キラは知っている。

 「かわいい子には旅をさせよ」

 一人で暮らしてみて、身も心も大きくなる…それは普通男の子に使う表現だ。


 生半可な知識を自信満々に披露するミーアに頭を抱えていたら、彼女にメロメロのデュランダルも同調したのですっかり幻滅してしまった。



(ダメだ。この親父は………もうダメだ…)


 そう。色んな意味で。


 これはもう、自分が早く独り立ちしなければ、この国はとっとと滅びるだろう。それはもう、目と鼻の先まで見えていた。





「でもぉ…ギルぅ、ミーアね、心配なのぉ。だって、キラは一応ミーアの娘でしょ?だからぁ、キラの住むところはぁ、ミーアが決めたいの。いいでしょ?」


 心にもないことを言っているのがバレバレな状態のミーア。彼女の魂胆は言われなくても判る。体よくキラを追い出したいだけだ。


 それでもデュランダルは気づかなかった。



「そうか、それもそうだな。じゃぁミーア、君に全て任せるよ」

「やったぁあv嬉しいッ嬉しいわ、ギルv」


「私もだよ。君がそれほどまでにキラのことを心配してくれているなんて。ここに来て間もないというのに、本当に君は美しくしっかりしたすばらしい女性だ」



 既に目がハートマーク状態のデュランダル。思いっきり含むところのあるミーア。キラは苦笑しつつも、心の中で完全に父親を切り捨てた。



(さよなら。もうあなたは僕の親でも何でもないと思うことにするから)





 そして一週間後。荷物をあらかた整頓し、最低限の持ち物だけをそろえたキラに、ミーアの部下が迎えにやってきた。

「ではキラ様、出発いたしても宜しいでしょうか?」

「うん、いいよ。ごめんね、君にも迷惑かけるね。あんな馬鹿親父のせいでさ」


「そんなことはございません。すばらしい国王様でいらっしゃいます」

「あぁ〜いいよ。ムリして褒めなくても。所詮エロオヤジは煮たって焼いたってエロオヤジだから。どうせこのままエロジジイになるだけだよ」



「………。キラ様…」


「いいから連れてって。ここにいると僕、気が変になりそう。しばらく外の世界を見て、たくさん学んで、サッサと自分を成長させなきゃ!」



 親に似合わずしっかり者の姫は、とても鼻息が荒かった。





 それで、馬車に揺られること半日。城を出たのが早朝だったから、もう陽が傾きかけてきた時間になっていた。

 国境に近い大きな森の近くにあるちょっとした一軒家に、キラ姫は着いた。



「キラ様、キラ様!」


 ミーアの部下がキラを呼ぶ。どうやらあまりに長い行程で、キラは寝込んでいたらしい。


 目をこすりながらもそもそと起きて、痛む腰を抱えながら彼に一言ありがとうと言って、その一軒家に入っていった。


 すぐに馬車が城の方角に引き返していったのを見届けた後、キラは家の周りを見渡した。



 近隣にあまり家はなく、まさしく森のはずれの一軒家と言った方が正しかった。だが、時刻が夜のせいで、そう遠くないところに市街地の明かりが見える。それだけでも、ミーアの考えていることはよく判った。


 とにかく、追い出したいだけなのだ。



 しかも、こんなところで自給自足生活をすればすぐに肌は焼け、田舎じみた感じになるだろう。それを狙っての選択だ。この場所は。





「寝ちゃったからなぁ。ここ、どこだろ?」


 だがすぐに、まあいいや、と思い直し侍女が用意してくれた質素な服に着替えた。そうすれば、市井に出ていっても怪しまれることもない。だいたい、城で何不自由なく育った姫なのだ。いきなり市民と同じ生活ができるわけもない。


「とりあえず今夜はお弁当を食べて、明日になったら早速お買い物に行こう」



 そうだ。こんなこともあろうかと、しっかりちゃっかりお金を用意してきているのだ。

 最悪、三食外食でもいい。とにかく食べられさえすれば後はゆっくり覚えていかれるのだ。


「…って、ミリィも言ってたし!」



 家の奥にきちんとベッドも用意されていたので、キラはとりあえずそこで寝ることにした。


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言い訳v:当初は原作通りミーアに追い出させる予定でしたが、あまりのキラのちゃっかりさにスパッと変更。どんどんオリジナルから離れていくね(笑)
次回予告:朝起きたら男5人と同衾していた!キラ姫驚愕の市井編。

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