鏡は早速困っていた。原因は朝から目の前にいるピンク色の髪の少女だった。

 彼女は鏡を見つけるとすぐに目の前に陣取り、ねちこくねちこく質問し続けていたからだ。



「鏡よ鏡よ、鏡さぁ〜んっ!世界で一番美しいのは、この私っもちろんこの私よねぇ〜〜〜っ♪」


「………………」





「君の瞳の中に、俺は居ますか?」

<第2話>秘宝タリアの憂鬱





 ちなみにこの質問、今朝から数えて既に86回目になる。最初は正直に答えていた鏡だったが、ある事情によりだんだんと「嘘」をつくようになっていた。



 理由は、


「それはやはりキラ様でしょう」



と答えた瞬間、ミーアは信じられない強さとスピードで、国宝の鏡に連続足蹴りを食らわせてきたからだ。


 答えるのを渋る間中食らわされる足蹴りに、当の鏡が耐えられそうになくヒビが入りかけたので、仕方なく嘘を答えたのだ。


 そうすればすぐに満足してミーアは去っていく。鏡はそう思い込んでいた。



 ところがどっこい、自分が一番美しいと言われたことに非常に気をよくして、ミーアはず〜〜〜〜〜っと鏡の前に居座ったまま、同じ質問を繰り返しているのであった。





「ねぇ〜え、鏡さぁんv」


「はいはい。王妃様が一番美しい女性です!」

 さすがに頭に来て、いい加減に答えるとミーアの機嫌が悪くなった。



「なによ!いい加減な物言いをして!鏡のくせに生意気ですわよ。そんな減らず口をたたくなら、このまま売り飛ばしてしまうから!」


「王妃様………。それに鏡鏡と言わないで下さい。タリアという人格がちゃんとあるんですよ」



 そう、実はこの鏡、人格を持つ鏡でプラント王国の秘宝中の秘宝であったのだ。

 だが、全てを見通せるという千里眼の能力を持つ一方、鏡の中の人格タリア・グラディスが国王ギルバート・デュランダルに惚れているため、他に売り飛ばされては困るというデメリットも抱えていた。



「判ってますわよタリア!でも、覚えておいてちょうだい!あなたはその能力ゆえに、本当に高く売れるのよ!それが嫌なら、わたくしの言うことを聞くことね」



「………。はい、判っています」





 タリアは折れた。

 売られてしまったら愛しいギルバートの姿を見られないのだ。


 しかもこの新しい王妃は真実の言葉など必要としていない。ならばいくらでもうそを言えると、自分の心に言い聞かせた。



 そして再び、同じ応酬が始まった。


「ねぇタリア〜、この世で一番美しいのは私?私よねぇ〜?」


「……………。はい、ミーア様でございます」

 エンドレスエンドレス…リフレインリフレイン……。





 そうして、一週間もしないうちに、耐えきれなくなってタリアはギルバートに懇願した。

「ちょっと議長陛下、何とかなりませんの?新しい王妃様……。お気持ちは判りますがこう毎日毎日朝から晩まで同じ質問攻めでは、さすがに私の頭もどうにかなりそうです」


「すまないね、タリア。彼女はいい子なのだがね…迎えて間もないから、私の愛情がまっすぐ伝わってないのかも知れないね。よし、彼女には私からよく言っておこう」



 どうしても話はこうなる。それはわかっていた。タリアは鏡でミーアはギルバートの王妃なのだから。

 寂しさをこらえながら、愛しい男を見る。それでもタリアはこの男に、再び鏡の前に立って欲しかった。何度でも、その姿を見て、ずっと話をしていたかった。





 そんなことが積もりに積もって半年後。遂にタリアは「ブチ切れ」た。遂に言ってしまったのだ。本当にお美しいのは「キラ姫」なのだと。


「何よっ!この私に逆らうの?どうなるか判っているんでしょう?」



「逆らうも何も、私は本当のことを言ったまでです!そのどこが悪いんです!」


「嘘を言わないで!本当にキレイなのはあたし!王妃のこのあたしよッ」


「そんなに見たくないなら、自室にでも籠もっていなさい!でなければ、いい加減現実を見なさい!」



 言っちゃった…。

 遂にタリアは言ってしまった。



 でも、もうどうでも良かった。例えミーアに売り飛ばされても、自分の心にうそは付けない。確かにギルバートは惚れた男だが、こんなことで自分を手放すならそれだけの器だと思うことにした。


 ミーアに、魂まで売った覚えはなかった。





(もういい。もういいわタリア。よく頑張ったと思うわ。これで売られるならこれも運命なのよね。さよなら…ギルバート……)



 心で静かに涙を流していると、ふと目の前からミーアの姿が消えていることに気が付いた。きっと、自分を売り飛ばすべく、色々と手配をしているに違いないかと思えば、あまりの悔しさに気を失いそうだったが、それでもギルバートを愛することをやめたいとは思えなかった。


(ばかね私も。惚れて…惚れて、あなたに心底惚れているのよギルバート……)





 ちなみにその頃、ミーアは何をしていたかというと、お城の端にある変な部屋へと直行していた。


「許さないんだから!絶対っ!あたしのほうがキレイなのに!だから王妃になれたのに!あたしより綺麗な女がいるなんて、絶っ対に許さないんだからッ」

 ブツブツとつぶやきながら足早に入っていたのは、表に「化学室」と書かれたプレートの張ってある、ギルバートも知らない部屋だった。


 中にはミーアお気に入りの技術者が何人もいて、もわもわと怪しい煙を立てながら、研究にいそしんでいる。



「新しい薬を作って欲しいの。今すぐよ」


「ぇえ〜〜〜っ!またですか?今度は何です?」



「またとは何よ!国随一の技術者であるあなた達に、最高の環境を整えてあげてるのよ!当然のことだわ」

「そうは言われましても、注文される薬の数が多すぎますよ。だいたい何なんです?この、惚れ薬A、惚れ薬B、惚れ薬C…って!RPGじゃあるまいし……


「全部要るんだから!いいから早く作るの!超強力な毒薬を作ってちょうだい。味は〜甘いのがいいわ」



「ぅぇっ…えぅぇええええええ〜〜〜〜〜〜っ!!!」


 技術者主任は大げさな態度で驚きをあらわにした。


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言い訳v:まぁ…ネ。一応話の進行上伏線は要るからね。でもってイキナリ『種です』ラストシーン(笑)あ、そうそう。もう。お判りですね。技術者主任はアーサー・トライン氏でした。
次回予告:世にも珍しいギル×ミアバカップルと、白雪姫にはあり得ないちゃっかり者のキラ姫。

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