ラクスの陰謀編・後編



「………………」

「………………」


 改めて今自分たちが取っている体勢を、恥ずかしいと感じる。





「電話…取るね」


「ああ…」





 着信は、カリダからだった。なかなか帰らない娘を心配して、寄り道もいい加減にしなさい、ということだった。

 春先でかなり明るくなってきたとはいえ、時刻は7時を過ぎていた。



「ごめん。もう、帰らなきゃ…」


「もどかしいな。早く、キラと一緒に住めてたらいいのに。そしたら、これからもずっと朝までいられるのに……」

「仕方ないよ、僕もアスランも高校生で…僕は両親と一緒に住んでるんだし」



「じゃぁ、ぎりぎりまでそばにいたいから今日も送るね」


「…って、もしかしてあの車?」

「キラ以外は乗せてないよ、俺の愛車に」



「いつも思うけどアスランって、変なところにこだわるよね…」


「そうかなぁ?キラ限定が、変だとは思えないけどな〜」

「そぅいうとことか…」





 結局、アスランをだしにして謝ってもらったところで、キラはカリダから目玉を食らった。やはり、親としては娘の安全が気にならないわけはない。


「ね、母さん。アスランああ言ってるし、土曜日曜なら遊びに行っていいでしょ?撮影所」


「迷惑にならなければいいのだけど…」



「みんなの邪魔にならないように、端っこから見るだけだからさ。それに、ちゃんと夕方までには帰るし、ね?」





 そして、カリダはしぶしぶOKし、キラはおやつを持って撮影所に遊びに行った。

 そして、キラの思わぬところで話は進む。スタッフや共演者に簡単に紹介されたとき、キラがいきなり受けたのはラクス・クラインによる挨拶のキスだった。



 慌てふためく周囲にラクスは、一向に意に介さない様子で、

「だって、こんなにお可愛らしいですものvキラ、わたくしともぜひ友達になってくださいなv」



 あれから髪を伸ばし、今日は特に女の子らしい服装を心がけてきたキラに、周囲は気づいていないようでとりあえず安心した。

 そして、彼女は今目の前にいる憧れのラクス・クラインに舞い上がった。





「僕こそっ、光栄です!ラクスさんってこんな近くで見てもすっごいきれいです!」


「そんなことありませんわっ!キラだって、とてもかわいらしい方で…ああわたくしが男だったらすぐにでも奪っていましたのに…」



「ラクス!一般人をからかうのはやめていただきたい」


「あら!あらあらあら?その一般人の方を特別に招きいれたのはどちらでしたでしょうか?」





「…とにかく、はじめましょう」


 ADの横槍で、舌戦は中断され撮影は始まった。

 そしてすぐに問題は起きた。アスランが、彼女役たるカガリの顔をまともに見つめられないのであった。すぐにそらされる視線。



「どうかしたんですか?アスラン」


 いぶかしむ共演者とスタッフ。それが続く中、事態にいち早く気づいたラクスがキラの腕を取り、アスランの視線の先にキラを誘導する。

 おかげでアスランは何度もピンチを救われることになる。それでも、撮影中何度かある休憩になれば、必ずアスランはキラを控え室につれて帰り、キラを抱きしめた。





「相手が…キラならいいのに!今からでも変更できないかなぁ…」


「無茶言わないでよ、ね?僕はちゃんとこうしてそばにいるんだし、それでいいじゃない?」

「今だってギリギリ限界…。キスシーンだって…本音言うとやりたくない」



「……ね〜ぇアスラ〜ン。キスシーンって言ったって大したことないじゃない!こう…ちょっと触れるか触れないかくらいだし。アスランがいつも僕にしてるのなんて、そんなもんじゃないじゃない…ね?」


「キラは別!遠慮したくないもん!キラなら、触れてないとこなんてないくらいに触り倒したいしv」



「アスラン…ホンットTVで見る君とは別人だよね」


「芸能人なんてそんなもんだよ。現にラクス…彼女の常識なんてすごいだろ?」



「うん。出会って…いきなり抱きしめられて、ほっぺにキスされるなんて思わなかった……」

「あんまり深入りすると、俺との時間が激減するからほどほどにしてくれよ」



 判ったよ…と、キラは笑い飛ばす。


「休憩、あと1分あるからそれまでキスしてよvキラ」


「それ休んだことにならないんじゃない?」

「ん〜〜〜時間もったいない〜〜〜〜〜」





 そうして。数週間後、キラは出来上がったドラマを見て唖然とし…アスランに抗議の電話をしていた。


「僕…僕……全ッ然記憶にないんだけど?どういうことなの…?」



 電話の向こうからも、乾いた笑いが消えない。アスランにも、全く知らされていなかったらしい。


「俺もよくは知らないんだ…というか、間違いなくラクスだ。ラクスの陰謀だ……」


 セリフやセットは確かに撮影所で見たあのままだ。



 しかし…しかしだ。

 視聴者に非常にわかりにくい部分で、カガリの顔とキラの顔が差し替えられていた。



「アレ…やばくない?判りにくいけど、どう考えたってセリフだけカガリさんで、顔のアップだけ僕だよね?」


「…確かに……。俺もあんなことになるなんて思ってなかったんだよ」



「どうしよう…カガリさん、怒ってなければいいんだけど。だって、もう放送のし直しなんてできないよね」


「………………」





 すぐにアスランがラクスに電話をかけ…そして事実が判明した。


 ラクスいわく、

「だって、あのほうがとても臨場感が出ていましたものv」


「しかし!あれではカガリが怒るんじゃないのか?」

「それは大丈夫ですわ。だってカガリ、あまりに緊張して目は閉じるわセリフは棒読みだわで、本人も悩んでいましたし。だからわたくしが、映像に手を加えて、カガリにアフレコしてもらいましたのよ。よくできていますでしょう?」



「ラクス!なら何故俺に黙ってそういうことをするんです!」


「え?だって、あなたとキラは恋人同士でしょう?あれだけお熱いのですから、問題はないのではありませんか」



「…ということはラクス…全部……見て…」



「実はあなたとキラとの個人的なお付き合いについては、カガリにも内緒でいますのよv感謝なさい」



「え…っ?」

 意外なことをラクスは口にした。



「あのように見えても、カガリも女の子ですから。これからの撮影に影響を与えないように、キラのアイコラだと説明してありますの。後のつじつま合わせはよろしくv」





 アスランは通話を切り、しばらく考えた末キラにかけなおした。


「あのときのカガリの撮りが、ちょっと悪かったらしくて、ラクスの判断で勝手に差し替えたのは事実だった。カガリにはごまかしてあるって言ってたが…」



「で…でもっ僕たちの…その…っ、全部…ラクスさんにばれてるって事だよね?」

「そのラクスが、何故だか俺たちのこと知ってて黙ってくれてるんだ」


「ええ〜〜〜っ僕もう、アスランのとこに遊びになんて行けない〜〜っ!ラクスさんともせっかく友達になれるかもと思ったのに〜」



「それが、これからもぜひ来て欲しいって言ってた」

「なんで!?」


「俺が、こんなだから…キラにしか笑顔が出ないから、どうしても撮影がうまくいかなかったときは、そこんとこだけ俺とキラで別撮りするからって」



「え”ぇ〜〜〜っ」

「キラごめんね。俺さ、ラブシーンってホント苦手なんだ。けど…別撮りのことキラがOKすれば、もう控え室に盗撮カメラ仕込まれることもないわけだし、キラには絶対迷惑かけないようにするから、ね」





 確かに…ラブシーンがあるときはキラが撮影所に行かなければ、話にならない。

 かといって、もうこれ以上控え室でのアレコレを盗撮されるのもごめんだ。それがたとえラクスと言えども。



「僕がうんって言わなきゃラクスさん…どこで僕たちのこと見てるかわかんないって、事だよね?」


「ぶっちゃけ…そうなるな。でも、俺こんな程度の障害でキラと別れたくない!」



「あのね…実は僕も……」

「ぇ…っ」



「だから、別撮りの件、僕OKするよ。そしたら問題ないでしょ?もう少しだけ…アスランと一緒にいられる」


「キラ?」



「この先どうなるかわかんないけど、でもこんなに好きなのに別れたりなんかしたら、きっと後で後悔すると思うんだ。だから、もう少しだけ…」





 アスランはこの会話が電話であることを悔やみ、しかしすぐに電話でよかったかもと思い直した。

 ちょっと、今のキラには見られたくない欲情が鎌首をもたげている。苦笑して、何気なくカレンダーに視線を移すと、キラの誕生日が近いことに気づいた。


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言い訳v:なぜこんな中途半端なところで…って?だって書いてったら異様に長くなったんだもん(汗)ここのラクスは、割とアス×キラにはキューピッドなラクスさんです。でも最強ですけどネ。

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