ラクスの陰謀編・中編


「でも…全然わかんなかった…」


 そう、ぱっと見たとき、キラは全く気づかなかった。

 普段の面影はあまりない。プラント大附属の制服を着ているうえに髪は暗めの金髪…しかもそれを後頭部で大雑把にひとくくりにしている。



「じゃなきゃ外、歩けないしね」


 確かにそうだと思う。

 これだけ活躍しているモデルともなると、変装でもしなければ気軽に外出などできないだろう。


 しかも、彼も高校生だ。それも…いわゆる進学校で、きちんと成績を取らない生徒などを、学校側が野放しにしておくはずはないのだった。言われてみればそれは当然考えられることで……。





「学校は?もういいの?」

「うん。今日もちゃんとテスト受けてきたし。それよりもキラ…俺たちもどこか寄り道する?それともまっすぐ帰る?」


「帰るって?どこに?」



 キラはきょとんとする。こんな、校門前で彼氏に待たれるなんて経験なかったから、これからどうしていいかサッパリわからなかった。

 大体キラには異性との交際自体が初めてだ。





「ここからだと、こないだの社員寮が近いだろ?あそこからいつも通ってるんだ」


「え?あの部屋、やっぱ社員寮じゃなかったの?」



「表向きはね。こうでもしないと俺は学校に通えないし」

「そっか…。大変なんだね、この世界も」


「うん。俺も早くやめたい。早くやめて…キラと一緒になりたいD」



「またそんなことばっかり言って〜〜〜」





 アスランは嬉々としている。そして、1時間もしないうちにこの間の社員寮のリビング…テレビの前に置かれたソファの上でキラが精いっぱい抗議の声を上げていた。


「ねぇっアスラン〜〜」



「何?キラ…」

 キラを抱き込むようにして座らせ、背後からキラの肩口にあごを乗せながら、アスランはひどく満足していた。



「ぁん…ふ……」


 揺れる藍色の髪の毛のそば、キラから漏れるかすれた言葉…そして男の太ももに置かれた力の入らない腕。


 キラの前面で、アスランは制服の内側から腕をもぐりこませ、器用にブラを外した挙句、キラの敏感な部分をずっともてあそんでいた。


 ちなみにあの金髪は簡単な塗料だったらしく、シャワーの湯で簡単に落ちるものだった。



「なん…で、こんな、ことに…なって……」

「そりゃぁ、キラが可愛いからに決まってるだろう?」


 アスランは相変わらずいけしゃあしゃあと言う。悪びれた様子も全くない。



「答えに、なって…な……っ…ぁ……」

「キラぁ〜やっぱキラの肌…すっごく気持ちいい〜いい触り心地D」



 でもって、キラはやっぱり…流されていた。アスランの白い指先がキラの胸の上で繊細に動く。

 理性とは裏腹にキラの身体に力は全く入らなかった。





「アス…ゃっ、胸…大っきくなる、よぉ……」


「俺は…大きいほうがいいなぁ。も少し大きくしよキラD目指せスポーツブラ卒業!」



 そのうち、キラはふっと視界が暗くなったと思った。

 そのときにはもうやわらかいソファに押し倒されていて、隙間の無いほどにふさがれた唇からは、口付けの時に漏れる生々しい音と、熱っぽくうごめくアスランの舌の感覚に頭がしびれかけていた。



 長い時間をかけ、アスランが自分からゆっくり離れていったとき、視線の定まらなくなったキラの息は完全に上がっていた。


「キラ…すっごい可愛い。このままずっとキラとこんなことしてられたらいいのに…」



「ど…したの…?アスラン……なんか、変。焦…ってる…?」


 キラはいぶかしんだ。強引なのは以前からそうだったが、それにしても…なんだか様子がおかしかった。



「………………」



「答えてよアスラン!僕だってアスランの役に立ちたいっ」


「キラ…?」



「アスランが悪いんだからね!僕をこんなにして…僕だって、今アスランと別れるなんてできないくらいに、好きにさせて…」


 キラの言いようにアスランはすっと瞳を細めた。

 組み敷いた腕の下、もはや制服を着ているとは言えない状態のキラが、真剣な表情で訴えかけてきていた。





「その言葉…ずっと聞きたかった。良かった…キラの口から聞けて……」



「ごまかさないでよ!」


「ごめんごめん」



 そう笑いながら、クローゼットからTシャツを取り出しキラに着せる。

 男性ものの大きなシャツがキラにはだぶだぶで、ほんのり桜色に染まった胸がかいま見えるため、アスランはソファに座り直し、再びキラを抱き寄せた。





「撮影が…あるんだ……新しいドラマの」


「アスランが出るの?良かったじゃん」

 そう言ったとたん、アスランはキラを抱きしめたまま、瞳を硬く閉じて忌々しげにはき捨てた。



「良くないッ!全然良くない!」


「何で?きっとアスランなら視聴率取れるよ」



 無邪気に喜ぶキラに、アスランはひどく苦い表情を崩さなかった。

「ラブシーンが、あるんだ…。俺は…キラじゃなきゃできない…っ!!!」



「……………はァ!!?」



 キラの目が点になった。おかげで冷静さを取り戻せた。頭の中で大量の情報がすばやく整理される。


「ちょっと待ってよアスラン!そんなことでイラついてたの?」

「そんなことじゃない!俺が…演技とはいえ、キラ以外の女とキスしたりするシーンがあるんだぞ!」



「だって恋ドラでしょ?当たり前じゃん…」


「キラとじゃなきゃ、できない…ッ」





 キラは現状を疑う。固まった後、しばらくして出た答えは至極当然のものだった。


「それって…わがままじゃん……」



「キぃラぁぁあああああっ!キラはっそれでいいのか?俺がキラ以外の女に愛をささやいたりするんだぞ!キラ以外の女の肩を抱いたり、食事に誘ったり…頬に手を添えたり……とにかくそんなシーンがあるんだ!」


 アスランはキラを抱きこんだまま、泣きわめく。

 言っている内容はキラから考えても、まったく取るに足らない単なる子供のわがままだった。そんなことをアスランは真剣に悩み、イラついていたらしい。



「あのね…アスラン!それ、仕事でしょ!ドラマなんだから全部演技なんでしょ!だったら…ぃ」


「嫌ぁぁあああぁぁあぁああぁぁぁぁあああああッ!!!!!絶ッッ対に、嫌ァァアアァアアアアアッ!」



「………………」



「嫌だ!触るのも、抱きしめるのも、口づけるのも、一緒に歩くのでさえっ…キラじゃなきゃ絶ッ対に嫌だァっ!!!」


 その光景はどこからどう見ても、駄々をこねる小さな子供だった。





「仕事なんだから、仕方ないじゃない。そうだ、たとえばその人のことをさ、僕だと思えば…」


「無理〜〜〜」


「僕はアスランのこと信じてるから、いいじゃない。だって撮影の間だけの話でしょ?」



「ゼッタイムリぃ〜〜〜〜〜ッ!」



 キラの額に青筋が浮かぶ。それは…プラント大附属に通うような優等生の言うせりふでは絶対になかった。


「それはアスランのわがままだよ!駄々こねないでよ。ドラマの中でアスランがどんな演技したって、僕はちゃんとアスランのこと信じられるから。僕だって…アスランのこと好きなんだから、絶対大丈夫だよ」



「それでもヤダ!でも、キラがそこまで言うなら、仕事だと思って我慢するけど…じゃぁ、キラが側についてて」


「…ってか、仕事でしょ!それ。それに、僕なんかが撮影現場についてっていいの?それ邪魔じゃない?」


 その時、そうか!と叫んで、アスランはキラをガバッと引き剥がした。





「キラ!録りのときには付いて来て!できるだけでいいから、ね?」


「何で?」

「気分が悪くなったら、控え室でキラに慰めてもらうんだ!そしたら少し元気出るかも。そうだ!そうしようキラ!」



「忙しいんでしょ?僕なんかが遊びに行って、みんなの邪魔にならない?」

 とがめたはずのキラの言葉も、アスランには全く通用していなかった。



「キラぁああD来て!絶対来て!そして汚れた俺の心を消毒して!」


「アスラン…」


 抱きしめられたまま、キラは小さなため息をつく。


 たかがドラマの撮影ごときで、心が穢れるなんて到底思えないが……。こうなるとアスランはもう、人の話は聞いていない。





「来てくれる?」



「あほう!」



「え”…」


 キラの顔が動いて、アスランのそれにふわりと重ねられた。



「僕は、こんなにもアスランのこと好きなんだから…ちゃんと、信じてくれればいいのに」


「ごめん…」

「バカを通り越してあほうだよアスラン…」



「うん。ごめん」


 すでに濡れきっているキラの口をふさぎながら、再び彼女の体を押し倒す。

 そしてこれから、というときにキラの携帯に着信がかかった。


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言い訳v:絶叫マシーン?

次回予告:サブタイトルがなぜ「ラクスの陰謀」なのか。次回、ラクスが動きますが、彼女の本当の狙いは『〜4』にて。なぜならこの話自体が、中継ぎだからです。

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