ラクスの陰謀編・前編



「あ、よかった。今日も、ちゃんと電話がつながった」


「何言ってるの?毎日電話してるじゃない、僕たち…」

「でもほら、昼間とかつながらないときあるし。そういう時、すっごく不安で…」


「昼間は仕方ないよ。僕だって学校行ってるんだし、マナーにしてて気づかないこと多いし。…けど、本当にこんなに毎日電話してて飽きないよね〜アスランも」


「ありえない!本当なら今日からでもキラと一緒に住みたいのに…」


「アスラン〜〜〜っ」



「卒業したら一緒に住もうよ、ね!キラが大学行くなら、俺がキラの下宿に行ってもいいしv」





 そんな、昨日の会話を思い出し、キラはため息をついた。

 テレビや雑誌で活躍しているアスランの姿を見るたび、自分とは全然違う世界の住人のような気がする。


 ところが実際には、真剣なまなざしで見つめられ、熱っぽい言葉で恋心を語られ、そして会えばいつも涙ながらに抱きしめられ…そして世界がわからなくなるほど夢中になる彼との口付け。

 本当に…本当に、なぜ自分なんだろう。何故彼はこんなにも自分に執着するのか。





「はぁ〜〜〜〜〜…」

 うつろな瞳で、頬杖を付きながらつぶやいたとたんに、頭上にぱこんと教科書が落ちてきた。



「私の授業はそれほどにつまらないか?キラ・ヤマト!」

 数学担当の教諭、ナタル・バジルールである。確かにキラは、数学の成績は良かったのでノーマークの生徒ではあったが、それにしても授業中にため息をつかれて面白いはずはない。



「あっいえ、そんなことないです。すみませんっ」

「早くも受験勉強のことで頭がいっぱいだとは思うが、こちらにも集中してくれ」


「わかりました」





 6限終了直後、そんなキラの視界をミリアリアがふさいだ。彼女は目を見開いてキラをまじまじと覗き込む。


「ねぇ、最近どうしたの?キラ」

「え?」


「なんだかボーっとしちゃって…いつもよりよりキラらしくないって言うか、ふわふわしてるみたいでさすがにちょっと心配よ。なにかあったなら遠慮なく言ってよ。なんでも相談に乗るわよ」


「ミリィ…うん、ありがとう。本当に、なんでもないんだ。ちょっと受験のこと、とかで悩んでたから…」



 苦し紛れの嘘だった。


 仲の良いミリアリアにまでこんな嘘をつかなければならない自分が、ちょっと苦しかった。

 やっぱりあの時ミリアリアの冗談を真に受けて、オーディションなんか受けるんじゃなかったかな、と時々思う。


 いや、そもそもお金に目がくらんで、何も考えてなかったのは自分だ。

 そして自分は、今一番人気のトップモデルと運命的な出会いをした。それからというもの、身を引こうとするたびに流されて…先だっても交際の話を本格的に承諾してしまった。


 確かに、電話とはいっても声を聞くたびに心が躍る。ドキドキして…自分だって今別れろと言われれば、もう無理かもしれない。



(それもこれも、君のせいだよアスラン。全部…君のせいなんだから!)





 キラは強引にそう思うことにして、今日は早く帰るべくカバンを持って校門を出る。するとすぐに金髪の青年が自分の方を見て笑っているのがわかった。

 校門の門柱にすがって、誰かを待っている様子だった。



「きれいな人ね〜誰かを待ってるのかしら?」

 こんな時に限って目ざといフレイの視線がちらちら彼の姿を追う。


「あれ、附属の制服じゃない?プラント大附属」

 ミリアリアの指摘。

 プラント大附属高校といえば、全国でも有数の進学校だ。確かに距離的に近いとはいっても、こんな普通の公立高校なんかに、なにか用事があるとは思えないが。



「うっらやましいわね〜」


「え?何が?フレイ」

「あんたわかんない?こんなとこで待ってるって事は、間違いなくカノジョってことじゃない!あ〜んなかっこよくてエリートの彼氏がいるな……」


 フレイは最後まで言い終えることができなかった。というのも、その附属の制服を着た青年がキラたちの真正面に来たからだ。



「あの…うちになにかごよ…」


「キラ!」

 ミリアリアが言いかけたとたん、青年がキラの名を呼ぶ。嬉しそうに…キラだけを見ながら。


「ぇ…?あ…あの、どちらさ…」

 ところがキラには目の前の人に、心当たりは全くなかった。



「悲しいなぁ、キラだけは俺のこと、判ってくれてると思ってたのに…」

 きょとんとするキラに、青年は首をすくめて見せる。

 そして覗き込むようにして、キラに近づき、そしてその青緑の瞳とキラの紫の瞳が交わったとき、キラは驚愕してアッと声を上げた。



「アス…「アレックス!覚えてない?」


 キラの弱々しい声に、アスランの強い声がかぶる。

 彼がふっとフレイやミリアリアに目配せをした意味を、キラは一瞬で悟った。とにかく、こんなところで騒ぎは困る。それは彼も同じことだろう。





「あ…うん、アレックス!久しぶりだね、元気だった?」


「ね?キラ、彼…キラの友達?」

「あ…うん、ミリィ。小さい頃…近所だったんだ。こんな、近くにいたなんて思わなかった、から」



「じゃ、キラ、私たち寄り道して帰るわね」


「え?何で?ミリィ…」

 全てがわかっていないのは、キラだけだった。



「でもぉ!あとで絶対紹介してよね!キラの彼氏♪」


 こんなときに限ってフレイが事実をずばりと指摘する。しかし、それは絶対にばれてはならないことだった。



「もぉ〜〜〜!フレイ〜違うってばぁ〜ッ」



「はいはいキラD彼氏と仲良くねぇ〜」

 去っていくフレイとミリアリアを、アスランはニコニコして手をふりながら見送っている。そんな彼をキラはまじまじと見つめた。



「ん?」


 「アスラ「アレックスだってば!外では、アレックス・ディノ。そういうことにして、キラ」



「あ、うん…で、何でこんなとこ来たの!それに…友達がいるときに限って……」


 ミリアリアはまだいい。問題はフレイだ。

 この手の話になると彼女は水を得た魚のように生き生きする。ちょっとやそっとで逃れられないことを、キラは散々思い知らされていた。とりあえず…明日から憂鬱だ。





「さすがに俺もちゃんと学校行かないとね。まぁ、立場を考慮していろいろ優遇されてるけど、出席日数とか定期考査とかはまともにあるしね」


「いや、そぉ言うことじゃなくって…」



「本当は…キラとデートしたかったからv」

 ぬけぬけとアスランは言う。キラの学校だって、ちゃんと調べて来てるくせに!


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言い訳v:そう言えば、この設定って…「アレックス・ディノ」使えるじゃん!始まりはいつも突然。

次回予告:この内容なら他素敵サイトさんでは、そのまんまエロ突入なんだろうな〜と、いつも思います。何でも茶化してしまう自分が恨めしい……。

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