交錯編・後編



「キラぁ…おはよ。天気のいい朝だね。俺の頭はまだちょっとガンガンするけど……」


「なんでっ?」





 そうだ。突っ伏して寝込んだはずの自分が、なぜベッドの中に入っているのだろう?

 どうして、着ていた服ははだけているのだろうか?


 そしてなぜアスランは、朝っぱらから自分の胸を揉んでいるのか?



 昨夜は確か電話で呼び出され、酔っ払いの始末をして…疲れてそのまま寝込んだのではなかったか?

 少なくとも、こんなことをしに来たはずではなかったのだが……。





「だって…気がついたら、キラが隣で寝込んでて……全然起きなかったから」


「そ…それにしたって、こんな……一緒に寝るなんて……」


「この部屋、ベッドはこのシングルしかないんだ。しょうがないじゃないか。そのままほうっておいたらキラだって風邪引くんだし…それに」



「それに?まだ何かあるの?」



「俺たち恋人同士だろう?問題ないじゃないか」


「大有りだよ!僕は…大体僕はまだ高校生なんだし……」

「俺だって高校生v」





 ここでキラが受けた衝撃は大きかった。正直、もっと大人だと思っていたから。



「じゃぁ、なんでお酒なんか飲んでたの?」



「飲まされたんだよ、無理やり。気づいたら、担当にこの部屋まで送ってもらってて」

「と…とにかく、胸から手を放してよ」


「何で?好きな相手なんだ。一日中だって触ってたいし……」



 アスランは背後からキラを抱きしめたまま、一向に離す気配は無い。それどころか、キラを逃がさないようにさらに腕に力をこめて、ぎゅっと抱きこんだ。



「それに…こないだの話、そりゃぁ僕だってあんまり深く考えずに受けちゃったけど、いったいいつまで恋人の振りすればいいの?ホワイトデーまでじゃなかったの?もう過ぎたし、いいんじゃないの?」


「え?そんなの…キラが俺のこと大っ嫌いになるか、俺が飽きるまで。って、俺が飽きるってのはありえないかなぁ、キラすっごく可愛いし。誰にも渡したくないよ」



 むにゅっ……さわさゎ…もみもみ〜〜〜。

 胸の上にあった指先が、繊細に動いて、キラの敏感な部分を容赦なく刺激する。



「ゃんっ、やめて…なんか、ぁっ」





 そして事もあろうにアスランは、とんでもないせりふを口にした。


「CMの評判良かったけど、キラがもうあんな仕事しないって言うなら、胸大っきくしようよ。そのほうが絶対可愛い」


「アスランそんなっ」



「ちゃんと将来のことも考えて、形を崩さないようにするからさ〜。それに、胸が大きくなれば、もう街中で気づかれることないだろう?みんな男の子だと思ってるんだし、いい機会だしね」



「ぼ…僕はっ、アスラン酔ってて苦しそうだったから、介抱しに居ただけなのに〜〜」


「愛を感じるなぁ。だって、何とも思ってなきゃ、そのまま放置して帰ればよかっただろ?」

「そんなこと、できるわけ無いじゃん」





 抵抗止まないキラにひとつため息をついて、アスランはキラの身体を自分のほうに向けさせた。

 そして、キラが目を白黒させている間に、有無を言わせずキラの唇を奪う。深く、長い口付けに、キラから力が徐々に抜けていった。完全に自分にすがってきたところで、キラを開放する。


 計算どおり、キラは頬を真っ赤に染めながら、力なくアスランを見上げてきていた。





「あの時俺が好きだって言ったのは、冗談なんかじゃないんだよ」

「アスラン?」


「でもこのままダラダラ過ごしてるとね、親に好きでもない相手との結婚を強要される。だからこそ好きな子との交際を続けていきたいんだ」



「僕はカムフラージュの道具?」

 言葉尻にカチンと来て、キラはアスランを難詰した。



「違う!初めて君を見たときから、ずっと心に決めていた。恥ずかしい話、マジなんだ」


「って、僕たちたったこないだ会ったばっかじゃん……」



 そっけない態度で逃げようとするキラを、アスランはあわてて抱きしめ返した。


「確かに!最初は一目ぼれだったけど…それから、電話で毎日話して……可愛いと思って…そしたら、キラのことしか考えられなくなって、誰にも奪われたくなくなって………俺…だから……」



「それ本気?」





 向けられる疑いの目が今更ながらに痛い。


「いい加減な気持ちだったら、こんな無様なとこ見せてない…」



「……………………」


「ねぇキラ、このままずっと…一緒にいてよ。じゃないと俺……気が狂いそうだ…」



「ぇ?」



「キラが俺と別れることも、別の男と付き合うことも…俺には、耐えられない。今でも一日中、キラのことばかり考えてて、他の女の子と仕事してても、何で隣にいるのがキラじゃないんだろうってことばかり思ってて…。本当、ここまで惚れこむなんて、自分でも不思議で…想像できなかったんだ」



「アスラン……?」



「キラと電話がつながらない日は、すごくむしゃくしゃして…担当や仕事の相手に八つ当たりして……だから頼む!俺のそばにいてほしい。かっこ悪いけど、キラがいなきゃダメなんだ、俺……」





 キラはしばらく考え込む。


「アスラン、じゃぁホワイトデーに欲しいものおねだりして良い?」

「いいよ。何がほしいの?」



「L&Cのサイン…」

「はぃ…?」


 何かと思えば、芸能人のサイン。それもL&C…つまり、ラクスとカガリだ。





「アスランのこと、もっと知りたくて…いろんな雑誌読んでたら、見つけて。同性なのにカガリさんはかっこよくて、ラクスさんは美人だなって、うらやましくなっちゃって…」



「お…俺、は?」

 間抜け面のアスラン。



「だってアスランは、ずっと僕のそばにいてくれるんでしょ?本物い……」


「キラぁぁあああっ!」



 半ば絶叫に近い形で、アスランはキラを力いっぱい抱きしめた。

「痛い、アスラン…苦しいってば〜〜」


「ごめん…」



「ゃっちょと離して…っ、胸…苦し……ぁゃあっ…なんか、へんなもの当たるぅ〜〜〜っ」


「あ、ごめん。キラいるから、よけい興奮しちゃって……」

「そんなぁっ」



「仕方ないだろ!俺だってすっごく健康的な男なんだし…目の前にいるの、好きな女の子なんだし……収まれっていうほうが無理!」


「じゃぁ、もうちょっと離れてよぉ〜〜っ」

「ヤダ〜〜!離したくない!今離したらキラ、帰るんだろう?」


「今日も普通に学校あるし」



「間に合えばいいんだろう?俺が送る」

「後1時間半しかないよ」



「ぇえっ!」





 後日。恋人から念願のL&Cのサイン(←希少価値大)を貰い、たいそう満足したキラが、アスランに飛びついて熱く口づけをかわす姿が、夕暮れの、名もなき小さな公園で確認された。


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言い訳v:やっぱり「へたれ変態」じゃなきゃ、うちのアスランじゃないや←なんのこっちゃ(笑)おつきあい下さり、いつもありがとうございますv

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