交錯編・前編
撮影の合間に、彼は精力的に電話をかけていた。 呼び出し音しか聞こえていないのに、つい頬がほころぶ。彼女のはにかんだような微笑を想像したら、こちらまでほほえましい気分になってきそうだった。 「次お願いしま〜す」 担当の元気のいい声が聞こえてくる。時期的に早い半そでの新作。夏らしいセット…強いライトの光の振る中に、アスランは再び突入していった。 そのころ、学校の教室の中、キラが困っていた。 確かにあの時自分は、雰囲気に流された。それもどうかと思う。 ミリアリアの言うようにどうやら相手は、今一番人気のトップモデルのようで、あれから調べた結果、キラはわが身に起こったことに、今さらながらに面食らったのであった。 「うかつに携帯番号なんて教えるんじゃなかった……」 ぶつぶつとぼやくと、隣からえ?という友達の声が聞こえて、キラはあわててごまかした。 「メール。母さんから、メール入っててっ」 「なぁに?また、おつかい?」 「あ…うん。スーパーに寄って、買い物して、早く帰って来いって」 「残念。じゃ、キラは今日は一人ね。でもいい?こないだの撮影のことで声かけられたとしても、人違いで通すのよ」 「うん。判ってるよ。もう、大丈夫だから」 「どうだか!キラはお人よしなんだから…」 「否定できないけどね」 そしてそのまま、ミリアリアと別れ買い物に寄るふりをして、近所の公園のベンチに座った。 「どうせ、たいした用事じゃないのに…。何考えてるんだろう?それともからかわれてんのかな僕は……」 ここのところ毎日のようにかかってくる電話。 いつも、声が聞きたくなった、とか、今どうしてる?とかいう、日常の話。 あとは本当、いわゆる芸能裏話とかで、日常会話となんら変わらない。 ただひとつ…今までにはありえない電池消耗スピードで、キラは今でならほとんど気にすることの無かった充電が、半ば日常になりかけていた。 また、撮影に誘う気だったら、固くお断りするつもりで、キラは携帯から電話をかけた。ところが、何度呼び出し音を繰り返しても今度は相手は出ない。 「まいっか。ミリィの言うとおり、また強引に誘われちゃったら、断りきれる自信ないし…」 そう。ついこないだ「夕焼けを一緒に見よう」と誘われて、結局息をもつかせぬ濃厚な口づけをされたばかりだった。 知らず、指先が自分の唇をなぞると、あのときの記憶が今でも鮮明によみがえる。 「ちっ違う違う!断るつもりなんだってば僕は!」 頭が混乱しかけてきたので、早々に自宅に戻り、パソコンを立ち上げもせず、自室のベッドに突っ伏して寝込んだ。 ところ変わって、市内の大きな撮影所では、やっとのことで次の雑誌や数々のカタログに載せる撮影を終えたところだった。 「お疲れ様です」 「お疲れ〜」 さすがのアスランもぐったりとなり、担当に少々いやみを言い、撮影を遅らせる原因となった相手の子に、少し当たった。 「君もプロだろう!一度でとは言わないが、何度も撮りなおしをさせるのは、いい加減にしてくれないか!」 「すみません」 「大体事務所の都合で、一日で一気に撮影を終わらせるなんて、ハードスケジュールであることは判っていただろう?」 「申し訳ありませんっ」 「君もモデルなんてやってるなら、それなりの覚悟を持って仕事をしてくれ。こんなことならこないだ一緒に仕事をした新人のほうがよほどマシだった…」 ほとんど言い捨てるような格好になって、アスランは着替えなおすため、控え室へと足早に去ってゆく。 姿が見えないのを見計らって、担当がフォローを入れていた。 「ごめんね、君。アスランも気が立ってたんだ。すぐに忘れるだろうから、気にしないでいてほしい」 「あ…いえ、こちらこそ。俺こそ、あの人との撮影で緊張してたのは事実ですから、気にしないでください」 「助かります。…で、どうする?この後の打ち上げ。出てもいいけど、アスランあの通りだろう?やめとく?」 「そう…ですね。俺、遠慮させていただきます。また、機会があれば声をかけてください」 そして、担当は再びアスランの元に行くべく、建物内を走っていった。 「アスラン、アスラン!」 「さっきはすまない。当たっても仕方がないとは、解ってはいたんだけどな」 「泣いてましたよ?」 「あんな程度で?」 「嘘ですよ。それより、この後の打ち上げ、出るでしょう?」 「次の事務所の顔が、出ないわけにはいかんだろうな…」 気乗りしなさそうに、アスランは答えた。 今日はすれ違いばかりで、ただでさえキラと連絡が取れないのだ。たまに取れる撮影の合間に、キラからの着信を確認し見事にすれ違っていた。 そのことに関して、多少なりともイラついていなかったとは言えなかった。 「合同打ち上げ会ですからね。出ないわけには行かないでしょうな」 アスランはため息をつく。その理由を、担当はよく知っていた。 「例の…あの子達も?」 「もちろんですよ。あなたと違って彼女たちは今が旬ですからね」 「苦手なんだ。ああいうのは」 「おやおや、今からそんなんじゃ困りますよ次期社長さん。これも営業営業」 仕方なしに移動車の助手席に乗って、携帯電話をマナーモードに切り替え、バッグの中に無造作に突っ込んだ。 予約してあった会場…といっても中規模の宴会ができる程度の店の2階だったが、そこにはもう先に到着していたモデルやグラビアアイドルたちが、一足先に盛り上がっていた。 「あ!アスランだ!」 「よぉアスラン!お前も飲まねぇ?」 「ミゲル…何度言ったらわかるんだ!俺は未成年だ。今ここでトラブルを起こすようなまねはするな」 「ちぇ!相変わらずお堅い頭で!みんなやってんじゃんかよ」 「まとめて警察に突き出すぞ!」 「お〜こわこわ!おーい、お前らぁ!未成年は酒はダメだぞ〜〜。とっとと突き出されたくなかったら、今のうちにタクシー捕まえて帰るこったな」 「すまない、ラスティ」 「まぁな、お互い立場ってもんがあんだろ?いろいろと」 言いかけたところで、この場は一瞬にしてかしましくなった。数人のグラビアアイドルたちが、アスランの周りを囲んだからだ。 「アスラン!お久v元気してた〜?あれから連絡の一本も無くってぇ〜みんな淋しがってたのよ」 「ルナマリア!話しかけるだけならちょっと離れてくれ…」 「そうはいかないわよ、ね〜ミーア」 「そうよ、せっかくアスランが来てるんですもの!今夜だけは私たちのものよね〜〜」 「ちょっとぉ〜お姉ちゃんたちだけひどぉ〜いぃ〜〜。私も混ぜてよ〜〜〜」 「………………………」 「いやぁ、相変わらずモテモテだねぇアスランはよ。じゃぁな、俺たち他行ってる。元気でな」 「あ!ミゲルちょっと待て!裏切り者〜〜〜」 「アルコール摂取制限に対するささやかなお返しだと思っててくれ」 「それとこれとは話が違うだろう」 「もぉう!あんなオトコは放っておいて!今度は逃がさないわよぉ〜〜」 そんな姿を遠巻きに確認している一団があった。こちらも大きな集団になりつつある。 「あらあらあら!早速つかまって、もみくちゃにされてますわねぇ」 「はっきりしないんだから!」 「あらカガリさん!頬が赤いですわよ」 「こ…ここの熱気でそうなってるだけだッ」 そう言いながら目の前にあったグラスを乱暴につかみ、口元へ持っていった。それを目にしたラクスが小さな嘆息とともに、やんわりと制す。 「カガリさん。それ…アルコールですわよ」 「え?ぁあっそうだったか?」 カガリ・ユラ・アスハ。しゃべり方こそぶっきらぼうな彼女だが、モデル界ではそこそこの人気がある。 それは確かに、写真になってしまえば、彼女の真実などわからない、ただその一点のみにおける理由であったが。 そうこうしているうちに、周囲がひっきりなしに話しかけてくる。ラクスもカガリも自分のことだけで精一杯になっていった。 中編へ→ 言い訳v:全っ然思ったところまでいきません。はて?一回こっきりの短編のハズだったのに(冷汗) 次回予告:キラが大変なことに!!人助けをして…痴漢されます……って、相手はもちろん(ウフフフフ) |
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