−2008−
世界の歌姫の参戦・前編

 何の変哲もないはずだった1DKのアパートは、にわかに有名人人口密度が急上昇してしまった。

 世界の歌姫ラクス・クラインと有名若手写真家アスラン・ザラ。


 その二人がキッチンのしかもテーブル替わりのコタツの上で真剣な顔をして話し合っている。



 リビング兼寝室の狭いシングルベッドの上で、駄菓子をポリポリつまみながらネットで遊んでいるキラは、その様子を他人事のように半分白目でちらちら眺めていた。





「…ですが、これではアスランがよく見えないのではありませんか?」

「構図は良いと思うのですが…」

「撮すならこの角度です。ですがこれでは意味がありません」



(…………………)


 問題なのは二人が手にしているものであった。

(僕のお気に入りが……)





 絶え間なく話し合いの声は聞こえる。


「こういう小道具を効果的に利用しても良いと思いますの」

「しかし、ちゃちくならないか?」

「エフェクトをかけてしまえば、セットと見分けは付かないでしょう?」



 お小遣いとバイト代を注ぎ込んで溜めた萌え系オタクグッズの数々が、今とんでもないことに利用されていた。


「ですから、手はこう置いて足をここに引っかけて……」

「そんなに大胆に行くのか!?」


「あら?大胆なポーズでなければ何の意味がありますの?あなた達は相思相愛なのでしょう?」





 キラは頭に重いハンマーでもぶつかったかのような衝撃を受けた。今さら、これは契約なんだとは明かせない。

 まさにこの瞬間ラクスはアスランと自分との相思相愛決定的証拠写真を撮るべく、二人がとるポーズの研究を大まじめにしているのだから。


 しかもキラのフィギュア・コレクションをフル活用して。可動式のものなどは今二人の間で特に人気だ。





「……。どうしてこんなことになったんだろう………」



 アスランの恋人を演じるだけのハズだった。

 せいぜいプリクラに映る程度の写真ではダメなのか?
 アスランの婚約者のラクスが、キラとアスランの濃厚アダルト決定的瞬間写真を撮りたがっている。

 そこだけ考えてみると非常にヘンだ。



 しかし、現実はラクスに

「手間を取りたくありませんのwキラさま、当然喜んでしっかりバッチリ協力して頂けますよねもちろん報酬はキラさまの目の前でわたくしがあなたのためだけに生歌を披露致しますわこれだけで全てが解決しますのよわたくしあなたを信じていますの!」

と、滔々と言われた早口言葉に敢えなく撃沈したのだった。



 確かにアスランはわたくしの婚約者。
 でも、お互いに結婚する意思はこれっぽっちもミジンコもありませんの。
 それを利用してわたくしそっくりの妹がその位置に滑り込もうとしております。
 ああ、妹とはいえこんなへたれ変態のどこが良いのでしょうか?
 姉として妹がこんな真症変態の毒牙にかかるのをみすみす見逃しては置けません。
 幸い、アスランにはあなたというとても可愛らしいいっそのことわたくしが奪い去ってしまいたいぐらい勿体ない彼女さんが居ますので、これを活用しないでどうすればよろしいと仰るのですか?
 キラさま、写真を撮るだけですのよ。
 出来上がった写真は妹に見せる他は誰にも見せませんむしろわたくしが一生独り占め致します!
 お返事はいかがですか?


 ラクスは一体いつ息継ぎをしているのだろうかとも思えるほど、鬼気迫る表情で立て続けに迫られ、キラは否定する間もなく首を激しく縦に振ったのだった。


 無論その直後笑顔全開のラクスに抱きつかれ、単なる一般人が世界の歌姫の胸を堪能するハメになったのだが。

 いや、正直歌姫の胸はキラなどには羨ましかった。





「撮影はポーズが決まり次第この部屋で行いますわねw」


「ぇえ…ッ!!!」



「キラさまは全てが整ったスタジオで、他のスタッフさんに囲まれて撮られたいですか?」

 答えはもちろん、NOだ!


「でも…僕……」

「心配ありませんわ。胸のボリュームは撮影までにわたくしが何とか致します」



 何度目かの雷が落ちた瞬間だった。

 人それを霹靂という……。


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言い訳v:またもやラク→キラ注意報発令!!!うちのラクスはへたれは嫌いですがキラは大好きなのですwww
補足説明:霹靂…へきれき。雷のさらに激しいもの

次回予告:今のトコ、ラクスも選びたくないしアスランだって嫌だ!でも、どちらか選べといわれたら、アスランを選ぶだろう…。キラ、苦渋の選択の理由編

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