−2008−
ピントのずれたホワイトデー
<来週の日曜朝9時、スタジオに来てくれ。地図は添付で送る> というメールが来た。 「なぁんじゃぁ!こりゃぁぁああ(怒)」 キラが怒るのも無理はない。 友人との買い物の予定をキャンセルしなければならないから。 そしてそのスタジオとやらはキラのアパートから20qも離れているから。 更にたぶん後から請求すればくれるのだろうが、交通費は自腹だろうから。 しかも朝9時まで、たぶん厳守だ。そしてなにより、メールの相手があのアスランだったからだ。 <やだ!遠い> と、返せば <君のために全てを準備して待っているんだ。場所も押さえてる。必ず来てくれ> 行きたくないことこの上ない。 こないだの電話の調子だと、訳も分からないところに呼び出され、たぶん長々と続くあの愚痴と理不尽な怒鳴り声しか想像できない。 <訳わかんない!> あくまでも断ろうとメールを送ったら、事態を一変させる返事が返ってきた。 <追加のバイト料弾む> かくしてキラは今集めているフィギュアのコンプリ計画に屈したのだった。 「ごめん!すとらっちゃ!いーじっちゃ!そしてふりっちゃにじゃすっちゃ!僕やっぱりどぉぉ〜〜〜してもすとふりっちゃといんじゃすっちゃとですてにっちゃも欲しい!!!」 「その為に僕は涙を飲んで汚い仕事を引き受けるよっ」 個人的な萌えのためにキラは現実を受け入れる。彼女にとって相当な覚悟だった。 そして、魔の日曜日。うららかに晴れた朝からキラの絶叫が響きわたった。 「いや!ゼッッッタイに嫌!」 「頼む!」 「何でこんなのに着替えなきゃなんないの!ここまでOKしたつもりはない!」 「君には一切手は触れない」 「触らなきゃ良いってもんじゃないだろぉお!!!」 「ヤラシイ写真とかじゃないから!それに、君を最高にきれいに撮ってあげる!」 「いいよ別に!釣書写真は3分間証明写真で!」 「キラ?これ仕事!これバイト!」 「……………う゛…っっ!!!!!」 「俺を信じてくれ。誓ってヘンなところには流さない」 「あ…アイコラとかも、許さないから!」 ……………で、結局キラはお金に負けて、アスランの用意した服に着替えて写真を撮られるハメになった。 服はアスランの言うとおり、嫌らしい感じではなかった。でも、ヒラヒラのスカートとか、デザイン系のアンサンブルとか、ましてやちょっと…いやかなり可愛い系のワンピースとか普段キラは絶対に着ないものばかりだった。 撮影するときのアスランは、打ってかわって優しくて。 ああ〜これだから何も知らない人が勘違いしちゃうのかな、とか思った。 「あんな愚痴男だとは思わないよねぇ…」 「ん?何か言った?のど乾いた?」 「何でもない!何でもないよ!」 「ごめんね、もちょっと目線上げて」 「はーい」 「そうそう、そんな感じ。きれいだよ、とても」 パシャパシャ!パシャ…。 「ところでこれ、何のために撮ってるの?」 「テク磨き」 「あ〜〜エロい冗談言って無理に笑わせようとしてくんなくていいから」 「……?撮影技術の向上だってば」 「……は?」 「本物のモデルさん撮る時って結構忙しくて。ゆっくり構図とか考えたり試したりするヒマがないんだよ」 「ふぅーん…」 「悪いなとは思ったけど、ちょうど君しか頼める人いなかったし…」 自分以外にも美人さんなんていくらでもいるとは思ったが、もう撮り始めているわけだし、なんだか今更感がしてキラはそれ以上追求しなかった。 数日後。チャイムの音がして宅配便の人が荷物を届けてくれて、美味しそうなクッキーが入っている箱に感激して………この間撮られた自分の写真に向かって怒鳴った! 「ってか!写真送ってくるな!」 言われるままにポーズを撮ったとはいえ、ファッション雑誌の表紙のような自分の写真+引き伸ばし写真巨大額縁入り時にツーショットを、取り立てて欲しいとは思えなかった。 というか、ぶっちゃけこの狭い1DKには邪魔だ。 「コレをどーしろっていうんだぁあああ!あのだぁほが!!!」 中継ぎ編前編へ→ −−−*−−−*−−−*−−−*−−−*−−−*−−−*−− 言い訳v:自分の銅像なんか要らない^^;同じ理由で美術館展示作品みたいなサイズの自分の写真も、要らないと思うわけであります。 次回予告:アスランのとんでもない社会通念 |
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