−2008−
契約終了は新たなる始まり・中編2

 10月29日。果たしてアスランはキラのアパートに迎えに来た。


 約束の時間が近づいた頃、キラは窓の外が何となくにぎやかになってきたのに気づいた。
 何だろうと思っていたが、さして気にすることなくいつものように写メをバカスカ撮りまくっていたら玄関チャイムが鳴った。



「はー……………ぁ、ぃい!!!?」

 玄関先で固まる。ムリもない。



「ちょっと!何のつもり?」

「今日はさすがに裸じゃないぞっ」


 いささかムッとするアスラン。論点はハッキリとズレている。



「あぁああ、あの…さ?スーツ着て薔薇の花束………っていうのは、場違い……だよ???」

 オカシイ。キラたちはこれから別れ話…もとい、契約の終了を確認して、アスランがアルバイト料をキラに支払うだけのハズではなかったか?
 ダブルのスーツにネクタイは大目に見ても、薔薇の花束の意味が解らない。いやその前にコレ一体いくらするんだろう?



「気持ちだから」

 受け取って、と言わんばかりに差し出される花束。それをキラは至極嫌そうな表情で受け取った。


「うん、すごく……迷惑」



 泣きそうになるアスランを後目にキラは怒鳴る。

「僕の借りてる部屋知ってるでしょ!1DKなの!狭いの!!なんちゃってキッチンが半分は使えなくなるの!そりゃ、しばらくはトイレの消臭芳香剤買わなくて良いけどさぁッ」



 でもって長い間をおいてアスランはようやく口を開いた。

「役に立って良かった」



 キラは口をあんぐり開ける。
 ゴメン…そーいう問題じゃないんだよ。露骨に狭くなるんだよ部・屋・が!!!
 ま…このまま突っ返してもどうせ枯れるだけだから受け取っておくけど。



「判りましたよ。役立てます!!」

 奪うようにして花束を受け取り、部屋の中で包装を解いたら、一旦部屋から出かける。数分もしないうちに大家さんから借りてきたバケツに水を入れて、花を突っ込んだ。
 帰ってきて蹴飛ばしてもいけないだろうから、コタツの上にドカッと乗せると、本当にキッチンが半分しか使えなさそうになった。



 部屋一面に薔薇の香りが充満する。

「ナマ芳香剤……」

 軽く嫌味を呟いてからアスランに向き直った。



「まさかドレス着用じゃなきゃ入れないような場違いなところとか、行かないよね!そーだよね!」

 アスランはコクコクと首を縦に振る。





 最低限の荷物だけもらい物のトートバッグに詰めて、部屋にカギをかけて出ると思い通りの光景にウンザリした。


 あ〜〜〜こんなボロアパートの前に超高級車横付けしないで!!!


 うん。渋い色の高級車とスーツ姿のアスラン、それに7分袖Tシャツにコットンパンツ姿の自分が異常にミスマッチだよ。



「……ごめん…」

「うん。ちったぁ考えろ!」


「その……だから、ごめん…」

 さすがに周囲の視線が痛すぎてキラはすぐに車の助手席に乗り込んだ。





 3時間後、キラは激しく後悔していた。2時間半のドライブは長すぎだ。

 その間、判明したこと。
<ヤツはへたれ>



「………で?ここはどこ!」

 周囲は素晴らしく色づいた紅葉の大群。観光地のようにも見えない。さっきどでかい門をくぐってきた。

「クライン家の別荘。ここなら邪魔、来ないから…」


 あ〜〜〜〜〜〜そぅ…。言葉は出なかった。



 しばらく紅葉に見とれて、やっと本題に入った。真正面から向き合うとお互い顔をまっすぐには見られなかった。


「凄い経験したけど、これで終わり…だね」

「契約は終了だよ。バイト料、ちょっと色つけたから」


「あ…ありが、とう」

 お金が入っている茶封筒を手渡されるときにアスランの手がそっと重なって、キラはびくっと反応した。



「ホントは…さ、判ってたんだ。キラ、バイトだから…とか、嫌だったのかな…とか…」


「そんなことは………」

 何だろう?少し息が苦しい。



「俺…は、その…嫌じゃなかった………全然…」


 名残を惜しむかのようにアスランはキラの身体を抱きしめる。身を固くしたキラに対し次に出てきたセリフはアスランさえ意図しないものになった。


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言い訳v:本当は3話で終わらせる予定でしたが、長くなったので一旦切ります。

次回予告:アルバイトは終了。怒濤のラストです^^

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